第5話:姫様?

 テッテレー♪

 ナッズが仲間になった!


 なんてイベントが発生した事を確認した訳だけども、この能力についてはこっちに転移してくる前から数年掛けて検証等は既に済ませてある。

 なので今更あーだこーだ考えるのも何だかとても面倒くさくなってきたのでさっさとリーダー風の男――これも面倒臭いのでもうリーダーでいいか――に幌の幕を上げる様に命じる。

 ナッズはちゃんと何も言わずも俺の右前に立ち左手に大剣を持って明らかにいつでも俺を護衛出来る体制を整えている。

 あ、ナッズは当然馬車内に何があるのか居るのか知っているが俺がこんな感じの護衛としての役割をナッズに望んだ為にこんな事をしてくれている。


 だって先に知っちゃったら色々面白くないじゃん!


 何も言わなくとも、詳細を命令せずともそうした動きが出来る事を確認し俺は自身の能力の異世界使用に関して大丈夫だと確信をした。

 幌幕と言うと何だかちょっと意味合いが違って来る気がするが、荷台の出入口に付けられた幕の様な布をリーダーは荷台の出入口に足を掛けヒョイと登り上へ放り投げる様にして上げる。

 流石は異世界冒険者(風)なだけある。とても身軽な身のこなしだ。


 さて、と荷台の中の様子を窺うが、弓から矢が放たれ飛び出して来る訳でもなく、ましてや魔法が放たれ迫って来る訳でもなく特に何も変わらない。

 まあ大丈夫だろうと荷台の奥を覗き込んでみた。












「…なんだこりゃ?」


 幌の中は薄暗く良くは見えないのだが、歳の若めな女が5人程お互い身を寄せる様に入口から見て奥、御者台の辺りで蹲り此方を恐る恐る見ていた。


 いや、だから何これ?


 アニメ脳想定では、荷台には何処かの王族の姫だとか、それはもう家の位がお高い何処ぞの貴族の娘だとかがお忍びで移動中とか、大っぴらには出来ない陰謀渦巻く大仰な大事に巻き込まれました的なイベント娘が出てくるのかもなと思っていた訳だが、なんで裸?

 しかもよくよく見てみれば女達は誰もが皆とても怯えており、中には嗚咽を漏らしながら泣いているものまで居る。

 あまりジロジロと裸を観察するのも悪いと女全員にとだけ命令してナッズ達に振り返る。


「とりあえずもういいや、お前らからデータ抜き出すわ」


 ナッズ達が「え?」と言っているその数瞬で自分で必要と思うこの世界の知識や常識、世界情勢に地理、歴史に各身分での生活水準、国や地域での通貨の違いや価値の違いに各種の単位に至るまで、個人的な記憶や思想等は必要無いし興味も無いのでそれ以外の必要と思われる最低限の常識や、この世界の人間と会話するのに不自由しないくらいの情報を自分にしていく。

 ついでにこの荷台の女共に関しての情報とナッズ達の立ち位置的なものも情報として入手しておく。


「あー…何だかちょっとガッカリだ」


 解ってみると何だか興醒めもいいところだった。


「なに?冒険者なんて職業は無いって、ギルドなんてものも無いみたいだしどうなってんだこの異世界は?」


 ナッズとリーダーは顔を見合わせ眉を寄せ合い直ぐに俺に顔を向き直し何かを言い掛けたが俺はそれを遮り続ける。


「お前らもだよ、てっきり姫様を護るナイト的な立ち位置だと思ったら真逆じゃねえか」


 侮蔑の表情を浮かべナッズ達を詰ると堪らずナッズが切り返す。


「ちょっと待って下さいハルさん。何を言って…」


「五月蝿えよ共」


 瞬間、リーダーの殺気が膨らんだ気がした。

 ナッズは俺に付き従う設定なんで特に反応を示さなかった。

 面倒臭いのでリーダーもナッズと同じ命令を下す事にしたが、女達が何故裸だったのかはもう分かった。攫って来たはいいが運搬中に騒がれても困るので身ぐるみ剥いで大人しくさせていただけだ。裸にされて何をされるんだと言う恐怖心で大人しくしているだろうし、裸なら例え逃げ出そうとした時も羞恥心で多少躊躇したりもするだろうと言う考えの様だ。

 ナッズ達を後目に俺は御者台まで移動し台の上に無造作に置かれた大き目の麻の様な物で出来た袋を引っ張り出し幌の出入口に踵を返した。


「それに貴女達の服が入ってるからそれ着て出て来なよ、もう大丈夫だから」


 そう言って麻袋を奥の方へ無造作に投げ入れる。

 女達の反応は確認せずに先ずは、と思い幌に背を向けて女達以外の接続リンクしている奴等に命令コマンド実行する。


「ナッズ達の仲間はこっちで、それ以外はこっち」


 幌を背に左側をナッズやリーダーのグループ。それ以外の恐らくは女達の村か街の者達を右側へ幌から5メートル程離れた位置に整列させる様にイメージした。

 命令を実行すると直様元々動きを止めていた者達が動き出すがその表情は無く無言で整列して行く。

 1分もしない内に命令が実行され2つのグループが出来上がる。それを見て俺は荷馬車の前後を確認し倒れている者が3名居る事を見て取った。


「あの倒れている奴等はどっちのグループだ」


 俺は右手側、女達の仲間グループの先頭に居た体格の良い男に話し掛ける。金髪を短く刈った肌が浅黒く焼けた男で街の衛兵だと言われれば身体もデカいし常日頃訓練してそうだと思うし、農民だと言われれば毎日外で汗水流して力仕事していそうだと思うだろう。そんな男だった。

 此奴ら全員には別に移動しろと命じた訳ではない。

 移動を命じる際にこっちとかそっちとか具体的に場所を指し示した訳では無く、と俺の頭の中でイメージをした場所を全員が即座に目指せた訳だが…


 この思考のリアルタイム共有マジで便利過ぎるなぁ

 まぁ、共有と言ってるけど単に俺の思考等を一方的に展開しているだけだけども


「アイツらは全員俺達の仲間だ」


 問われた浅黒い男はそう答えて俺に視線を向けた。俺の目を真っ直ぐ見つめ、落ち着いた表情をしていた。

 此奴がこっち側のリーダー的存在だな。浅黒い男とは対照的に俺は男を一瞥してから目線を倒れている奴等に向けて言う。


「じゃあそっち側の奴等で介抱してやってくれ、まだ息がある者が居るかもしれない」


 俺がそう言うと男は「分かった」と一言発し後ろを振り返り数名に何かを指示し出した。

 指示を受けた男達が倒れた奴等に向かって駆け出したのを確認しナッズ達のグループへ顔を向けた。


「んで、お前達は何?盗賊団とかそんな感じ?」


 ナッズに問い掛けると直ぐにリーダーが返答した。


「違う、俺達はそんなのじゃ無い」


 異世界で盗賊団と言えば、街道とかで旅人や商人等を狙い強盗をしたり、人を攫ってそれをこの世界に居るかどうかは分からないが奴隷商などに売り払って日銭を稼ぐなんてものを想像する。

 こいつ等のイメージにピッタリとハマる様な気がするのは俺だけだろうか…


「じゃあなんだ」


「…姫様の護衛だ」


 何言ってんだこいつ?


「誰だよ姫様って?」


「…」


「護衛が何で女を攫ったりするんだ?」


「…命令された」


「その姫様に?」


「そうだ」


「なんで?」


「…分からない」


 何だか要領を得ないしとりあえずその辺りの情報を更に取り出す事にした。

 結果、リーダーは別に嘘は言っていないのだが何だか違和感が有り騙されている気がしてならない。

 リーダー達はここから一日程行った先にある森の更に一日程奥に進んだ森の深部でそのと暮らしている様だった。

 リーダーの記憶からでは、小さな農村の様な所で100名程の者達が共同で生活しており日々の生活は村での自給自足、農作物を育て収穫し、森での狩りで獲物を得る。そんな生活だ。

 慎ましく普通に生活している様に感じる。

 人攫いや荒事で生計を立てている訳では無さそうであった。

 ただ、その姫様と言う人物についてが良く分からない。

 リーダー以外の記憶も読んで見るがどれも同じだ。姫様の為人が曖昧だった。

 顔や外見は分かるし、接した時のの様なイメージはあるのだが、名前や出自、およそ姫様自身の過去等はボヤケまるで靄がかかったような状態となる。


 何だか腑に落ちない、これではまるで…


 ナッズ達から個人的な記憶や思想等は持って来なかったのだが、今し方少し姫様に関して持って来た時に分かった事がある。

 この世界に冒険者と言う職業は無いが、と言う職業と言うか集団は存在するらしい。

 かく言うナッズ達も元々傭兵団だった様だ。

 元々と言ってるのは、ナッズ達は自分達を今では、だと思っている。

 森の奥では元は別の傭兵団に居た傭兵達が寄せ集まり一つの集団を形成して生活している様だ。


 こいつ等全員、傭兵から姫様の護衛になった経緯とかがごっそり記憶から抜けてる…?

 抜けてる…書き換え…いや、消去、か?

 それはつまり…

 姫様は俺と同じ能力まはたそれに近い能力を持っている…?


 その考えに至った時、俺の心臓が跳ね上がった気がした。

 脳への干渉・操作、記憶の操作、または魔法による精神操作等が考えられるが…

 もしも魔法では無く超能力による脳や記憶の操作だった場合、俺と同じと言う可能性も考えられる。



 姫様、何者や

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