第三章 愛憎 6
篠原と田中は、二人目の被害者の熊手智也の部屋を調べていた。
東京都荒川区にあるワンルームマンションに住んでいた熊手は、しばらく部屋に帰っていない様子で、郵便ポストに入りきらないほどの郵便物が山のように突っ込まれていた。
部屋の中は独身男の部屋らしく、そこら中に脱いだ服が、机の周りは書きかけの原稿やらなにやらが散乱していた。
篠原は机の上に置かれた写真立てに目が行った。そこには被害者の熊手と女性が並んで写っていた。
「綺麗な女性ですね。彼女かな?」田中は篠原の視線の先に気づき呟いた。
「彼女に話しを聞く必要があるな。身元が分かるような物あるか?」
ポストに入っていた郵便物をひとつひとつチェックした。セールスのはがきや、請求書ばかりで、重要そうなものは無かった。
その中に送り主の書いていない郵便物があることに気付いた。
「何だろうなこれ?」
篠原が郵便物を手で触ってみると、中になにか小さな堅いものが入っていることに気付いた。
「開けてみるか」
篠原が郵便物を開けて中身を見ると、数枚の写真と小さなカギが入っていた。
「なんすかねこれ。暗号か何かかな」田中は篠原の後ろから写真をのぞき込んだ。
写真には数字が書かれた紙が、何枚かには風景が、その中の一枚には小さな物置小屋のような物が写っていた。
篠原はしかめっ面でその写真の意味を考えていたが、ふと田中を見ると自分のスマホの画面をこちらに向けていた。
「その数字はこれですね」田中はそういって、スマホの画面をスワイプして見せた。
その画面には『劇物モノゲルマン』と表示されていた。
「なっ、お前どうやってそれを」
「篠原さん、何でも調べ方ですよ。インターネットに数字打ち込んで知っている人いないか尋ねたんです。そうしたら、それは化学物質のCASナンバーじゃ無いかって教えててくれた人がいて。全ての数字がそのCASナンバーで登録されている劇物ですね」
篠原はぽかんとしながらも、田中のこういった頭の柔らかさとひらめきの凄さには時折驚かされることを自覚していた。先程は刑事に向いていないと思うこともあると言ったが、正にこういった所がこの男を優秀な刑事たらしめる要素だと感じていた。
「この括弧の中の数字は何だ」
「恐らく、何番目ということじゃないですか。例えばモノゲルマンは括弧の中が1なんで1文字目の「モ」。こんな感じで全部を解いていくと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます