第三章 愛憎 4

 水尾は自分のデスクの椅子に深く腰をかけて、里田ひとみの部屋で見つけた写真を睨みつけていた。

 

 以下にその数字を書く。


 7782ー65ー2(1)


 107ー13ー1(6)


 7647ー01ー0(4)


 917ー61ー3(1)


 543ー21ー5(14)

 

 8014ー95ー7(2)


 8014ー95ー7(1)

 

 7803ー49ー8(5)


「さっぱり分からんな。数字とハイフン、括弧の中に数字」


「7782から65を引いてその後2を引いて7715、となっても何のことやらですね」


 元平が写真を手に取り、明かりにす透かすような仕草をしながら言った。


「そういった考えになるとそのあとの括弧の中をどう考えるんだ」


「括弧の中が1なんでそのままで、その後の括弧6は掛けるということですかね?」


 二人はその後黙り込んでしまった。


「もともと、こういった類いの捜査は得意な方じゃないんやがな。こういったのが得意な奴おらんのか?」


「そういえば、水尾さんの先輩で京都府警の多田さんっていましたよね。あの人確か数年前に京都で起こった事件で、犯人が残した暗号を解いて解決に貢献したって聞いたことありますけど」


「多田先輩か。そういえばあの人、学生の頃からミステリーが好きで、こういった暗号なんかの話しよくしていたな。それが、刑事になって生かされるなんてな」


 水尾はポケットから携帯を出して電話帳から多田の名前を探しボタンを押した。


「おう水尾どうした、結婚式のスピーチなら喜んで受けるぞ」


「多田さん、毎回それ止めて下さい。しばらく結婚する気無いんで。それより、多田さんってミステリー好きでしたよね。好きが高じて事件解決に結びつけたことがあったとか」


「何だ、唐突に。確かにそんなこともあったが、何だそんな事件があるのか?」


「京都府警を通せと言われそうですが、こっちで起きた変死体事件の被害者の持ち物から妙なものが見つかりまして。それが暗号みたいなんで、多田さんに相談したら何かいいヒントが貰えるかと思って」


「そうか、まあお前の頼みだからな。メールかなんかで送っておいてくれ。何か閃いたら連絡するよ」


「有り難うございます、多田先輩、無理言って」


「一応、そっちも上に言っておけよ。こっちも、報告だけはしておくから」

「分かりました」


「そうだ、事件といったら、もう世間でも報道されているから知っているとは思うが、こっちで起こった人気俳優の変死事件で、お前もよく知っている倉ノ下櫻子さんに話しを聞いたぞ。お前のことも少し話した。お前随分気に入られているみたいだな」多田は少し嬉しそうに言った。


「はあ?倉ノ下さんが?どうして?」


「何だ、知らないのか。今回無くなった俳優の宇根元駿河と共演する予定だったみたいだぞ。まあ、このあとどうなるかは知らんが、今はその関係で京都に来ている」


 水尾は、櫻子のはじけるような笑顔を思い浮かべていた。去年のあの事件の後、かなり精神的にまいって芸能活動を休んでいたと聞いていたが、その後しばらくしてテレビで素晴らしい笑顔で歌っているのを見かけて、内心ホッとしていたのだ。


「で、そっちの事件はどんな感じなんですか?」


「まあ、捜査始めたばかりなので何とも言えんがな。死因が分からんのだ」


「死因が分からない?」


「ああ。部屋で一人で亡くなっていんだが、外傷なし、毒物の反応もなし。身辺をあらっている最中だが、表の顔と違い少しきな臭い情報も入ってきている」


「まってください、多田さん。こちらから情報を送るんで、少し調べてみて欲しいんですが。科捜研からデータ遅らせます」


「どういうことだ?」


「こちらも最初死因不明だったんですが、こっちの科捜研に優秀な奴がいまして。特殊な毒物の反応を見つけたんです。普通の検査では発見できない成分らしいのでそれを調べて欲しいんです」


「分かった、急いでやらせる」


 電話を切って水尾は考えを巡らせていた。


 原因不明の変死が京都でも起こっている。もし向こうの死因がこっちのものと同一だったとしたら捜査の範囲は一気に広がる。向こうの被害者も芸能関係者だ。


「最初感じていたより更にややこしそうな事件になりそうや」


 水尾は大きく溜息をついた。

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