眠り姫さくらこの事件簿てきな・・・ふたつめ(京都)
川平多花
プロローグ
「犬だね」
「いいえ、猫です」
「犬の方が飼い主に忠実だからかわいい」
「猫の気まぐれな感じがかわいいんですよ」
「確かに、猫のあのツンデレな感じも捨てがたいが……」
「ほらー、櫻子さんも猫に惹かれ始めてる」
「いやいや、トイプードルのあのかわいさといったら、食べちゃいたい位だよ」
「マンチカンも食べちゃいたい位ですよ」
「くー、マンチカンかー。確かにあれはかわいい……」
「ほらー、やっぱり猫だ」
「いやいや、柴犬のかわいさがやっぱり一番!この前かわいすぎて食べちゃったもん」
二人の眼鏡女子の訳の分からない言い合いをしばらくはじっと聞いていた祥子は、そろそろ予定の時間に近付いたので立ち上がり、小さな溜息をついてから二人に話し掛けた。
「あの~よろしいでしょうかお二人さん。議論が白熱しているところ悪いのですが、そろそろ時間ですよ。ちなみに犬も猫も食べないでね二人とも」
「お姉ちゃんはどっち?犬?猫?」
見た目通りの幼い少女のような調子で質問してくるのは、今大人気の女優で歌手の倉ノ
私は
先程からその櫻子と熱い議論を繰り広げているのは、櫻子の所属事務所のスタッフの
私達三人は現在新幹線に乗って、東京から京都に移動中で、マネージャーである私は今回の櫻子の仕事の重要性にいささか緊張気味である。
しかし、当の本人の櫻子はというと、そんな私の緊張など知ったことでは無いと言わんばかりに、今回の京都行きを旅行気分で楽しんでいる。まあ、いつものことと言えばそれまでなのだが。
今回、櫻子が京都でする仕事は、日本国民の多くが視聴する某放送局の連続ドラマへの出演だった。メインのヒロインでは無いものの、とても重要な役柄で、この仕事を上手くこなせば間違い無く櫻子の女優のキャリアにとって大きな物になるに違いなかった。
櫻子の方に視線を向けると学生の旅行のようにはしゃいでいる。心配そうな表情を浮かべた祥子ではあったが、その表情とは違い心ではそんなに心配はしていなかった。子供のようにはしゃぐ妹だが、いざ仕事となると見せるそのプロ根性には、姉である祥子もいつも関心していた。逆に真剣に取り組みすぎて心配になるほどに仕事には真摯に向き合う。そんな妹を誇りに思ってもいた。
そんな妹を見つめる優しい眼差しに気が付いたのか、櫻子が「なに」と聞き返したがその表情は先程までとは違う大人びた表情だった。
「ううん。今度の仕事もしっかりねさくちゃん」
「わかってるって。で、お姉ちゃんは犬派、猫派?」
「犬も猫も良いけど、私はニシキヘビがいいかな」
「げっ、でた、お姉ちゃんの爬虫類趣味。それ、あんまり言わない方がいいよ。引く人多いから」
「あら失礼ね、蛇ってほんとにかわいいのよ。蛇の良さが分からないなんて、さくちゃんもまだまだね」
「まあ、結局のところ、みんなかわいいってことだね」
「でた、櫻子さんのみんなかわいい理論。この前、川で拾った石までかわいいって言ってましたもんね」
「そうそう、あの石は確かにかわいかった」
「櫻子さんにかかったら、なんでもかわいいになっちゃうもんなー」
「いや、あんこはかわいくない。特にこしあんは……」
「京都に着いたらお姉ちゃんが美味しいあんこの食べ物いっぱいご馳走してあげるわ」
「私、あんこ大好きです。京都でぜんざいなんかも良いですよね」
「いいね、美紀ちゃん。着いたらさっそくおいしいぜんざい食べに行きましょう」
「私、お漬物の方が良い。そうだ、おばあちゃんお漬物用意してくれてるかな?」
「さくちゃんが来るって言うから、絶対とんでもない量のお料理用意してるわよ」
「楽しみー」
そんな会話をしていたら、いつの間にか新幹線の窓からは京都タワーが見えていた。
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