悪役令嬢、闇競売に出品される。
シヅカ
『自滅エンドを迎えた悪役令嬢の話・前編』
私の通う学園に一人の少女が入学した。
少女は平民の娘だが、いずれ国のために大義を果たすであろう能力をその身に宿していた。特例である彼女を周囲は持て囃した。
しかし私は許せなかった。
伝統ある由緒正しい学園に異例な存在が加わることを認めたくなかった。
その少女を学園から追放しようと私は様々な手を尽くした。家柄のみならず実力の差も見せ付けて挫折に追い込もうとした私に彼女は言い放った。
「私は諦めません。貴女様に認めて頂くまで決して逃げません。」
嘘偽りなく、私を真っ直ぐ見つめる少女の瞳は腹立たしいほど透き通っていた。
私の悪行は瞬く間に知れ渡り、家同士が決めた婚約は大勢の前で破棄された。
「因果応報」という言葉は今の私そのものだった。
こうなることは誰よりも予測していたが、それでも私は私自身の信念を貫いた。
(結果はどうであれ、私は微塵の後悔もありません。ですが、)
私は元婚約者に想いを馳せる。
父親達が人脈確保のために取り決めた婚約であっても私は彼に僅かながらの愛情を抱いてしまった。
彼は私との婚約を受け入れても『家の未来』を何よりも最優先にしてきたことを私は知っている。
たとえ婚約者であっても私に情けをかけなかった。
噂を聞いて直ぐに彼は動いた。
私が学園で少女に仕掛けた悪行の数々を洗い出し、疑われる部分は全て調査した。
そのために費やした時間と労力は見事だった。終始『第三者』として公平に事の真相を見極めた上で私との婚約を破棄した元婚約者に敬服せざるをえなかった。
(彼の判断は賢明でした。今後の信頼回復に繋げるでしょう。)
彼は私と少女のどちらにも味方しなかった。
周囲の意見にも流されなかった。
そんな彼があまりにも眩しくて己の信念が『執念』であったのを思い知らされた。
(最後の最後まで貴方を憎めませんでした。)
彼のような人間がいれば過ちは繰り返されないでしょう。
このような状況であっても穏やかな心境の自身に苦笑していると重く閉ざされていた扉がゆっくり開けられた。
ええ、分かっているわ。当然、報いは受けるべきね。
「おい、そろそろ出番だぞ。元ご令嬢様。」
卑下すように呼び掛けられた私は徐に立ち上がる。逃亡を妨害するための手足の枷はとても煩わしく思えた。
表向きでは罪を償うため父が領有する辺鄙な田舎に追放されたことになっているが実際は口封じのために物好きな下種が集まる人身売買会場に出品されていた。
壇上に現れた私を集まった貴族達が視線を送る。
売り物になるように身なりを整えられた私を見る彼らの目がとても汚らしい。
口々に戸惑いや歓喜、罵倒などを述べる姿に私は小さく溜め息を吐いた。
でも悲しくはない。
(私の命運も尽きました。)
私は現実をしっかりと見据えた。
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