クライシス~白銀の空~
古朗伍
プロローグ
創生暦7825年
創生暦7825年。
第六大海の西部に浮かぶフライスビット諸島は小さな無人島が集まって出来た島々の集合体である。
そこに秘密裏に設けられたのが特務解析研究所。
その格納庫で一人の男がある機体の下へたどり着いた。
格納庫にある出撃用の天蓋は大きく開き、まるで神の使いの様に一機の機体に
表面を覆う純白の装甲は、雪が光に反射する様に輝き、スマートな体躯はアスリートを思わせる無駄の無い輪郭をしている。頭部に存在する弱い赤光の灯る一対のデュアルカメラ。腰部には右と左に刀身の黒い剣――
翼。
誰が見てもそう思わせる、4本のユニットから成る、機械仕掛けの翼が存在していた。
右に4、左に4、計8機のユニットによって構成された翼は、その機体の美しさを一掃に際立たせており、全体を含めて神秘さと芸術性を兼ね備えた――兵器として使うにはあまりにも美しい機体だった。
「朝早くから、ご苦労なこったな。お前ら――」
出撃時間は作戦に参加する者を除いて誰にも知られないように徹底したハズだった。
しかし、目の前の機体へ道を作るようにフライスビット駐屯軍の面々が整列し、敬礼していた。
「大尉――」
その道を歩いて行く白銀色の髪を持つ男へ、声をかけようとした中尉の階級章をつけた若い軍人は、本人から手を向けられて口を閉じる。
白い機体の前まで歩いて行くと、彼は整列した者達へ振り返った。それに合わせて、統率された動きで一斉に彼らは彼へ身体を向ける。
「休め」
その言葉で敬礼の状態から半歩横に開き、比較的に楽な姿勢で彼らは彼の言葉を待つ。
「どうもこういうのは苦手でな。わざわざ、律儀に聞く必要はねぇ。疲れたら座って良いし、居眠りして聞いてくれればいい。それとカルメラ中尉。オレはもう大尉じゃないから覚えておくように」
相変わらずの様子で語り出す彼に、彼らも少ながらず引き締まった雰囲気が
「オレは……社会不適合の人間だ。安らぎは戦場にだけ……命を削る事でしか正気を保てなかった」
話し始めた彼の言葉を彼らは黙って聞き入る。
その一言一言は、尊敬に値する
「この世界は壊れる様に出来ている。物は壊れるし、人だって壊れる。オレのような世代が、お前達に辛い時代を押し付けてしまった」
この場に居る彼らは全て、白銀髪の男よりも年下であった。
「だが、オレは責任を取るとか、そんな、過去を嘆く様な責任感で“コイツ”に乗るつもりはない」
コイツ、と背後に立つ純白の機体を彼は親指で差し、後ろ目で一度見た。そして再び彼らに視線を戻す。
「だから、お前達も“責任”を背負うな。次の世代に受け渡すのは辛い“現実”でも、自分たちの世代で終わらせる事の出来なかった“問題”でもない」
白銀髪の男が思い浮かべるのは二人の子供――自らの娘と息子。その為だけに、彼は――
「一日だけでも、ほんの一瞬でも良い。“笑顔”と“未来”を次の世代へ引き継げ。この時代で生きて行くには試練が多いが……それを越えた先には、必ず……幸せな“未来”が待っている」
その言葉に彼らは何も言われずに敬礼した。それは、忠誠心から来るモノでは無く、心から彼の偉大さを知るからこその反射的な行動だったのだ。
「ロートルからの手向けだ。未来を目指して、最後まで全力で生き抜け!」
彼は機体に乗る。
搭乗席のハッチが閉じると、純白の機体の表面に光が走った。一対の赤光がスイッチの入ったように強く光り、機体全体が駆動していく。
翼が音を立てて展開され、一度ジャンプする様に軽く脚部を曲げて跳躍すると、ふわりと風に吹かれた羽の様に機体が浮かび上がる。
「シゼン・オード。【クライシス】出撃する」
そして、自由落下が始まる前に消えるように飛翔。そのまま、澄んだ青空へ飛び立って行く。
翼より漏れ出る白銀の軌跡を尾に引きながら――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
星の滅び。
人類の裕福な生活と発達した科学技術や製造技術は、ここ数十年で超高水準まで引き上がった。
何故なら人々は星の核から直接エネルギーを得る技術を手に入れたからだ。
エネルギー問題は一気に解決し、生活環境と文明技術は爆発的に向上。貧富の差は消え、多くの者達がその潤いに身を任せていた。
だが、その過程で悲鳴を上げる“星の叫び”は誰の耳にも届かなかった。
目先の“幸せ”に捉われた人類は、その聲を見落としていたのである。
そして、星は“人類”を敵とみなし、“滅び”を与えた。
大気は濁り、大地から伸びる作物からは実りが消えた。人にとっての“死の環境”が少しずつ世界を覆いつつあり、現時点で星の6割がその環境に包まれているのだ。
しかし、人も指をくわえて滅びを受け入れるわけでは無い。“死の環境”の広がりを阻止する為、人型機動兵器――アステロイドを使用した環境浄化部隊による、
人類が抽出した“星の
『この星で最も傲慢な意志は何なのか?』
都合が悪ければ機嫌を取る人類に、アステロイド開発の第一人者にして偉人――エルサレム・ソロモンは、その様な言葉を残していた。
真に消えるべきは命を――星を弄ぶ人類ではないのか? 母なる星に見守られて育った
その意志に賛同した者達は次々に彼の下に集まり『星の使徒』と呼ばれる一団が世界に対して宣戦布告する。
『星の使徒』の目的は傲慢で
大国が臨時に同盟を結ぶ程の戦力を持った『星の使徒』は、その口から出る“粛清”が言葉だけの妄想でないと人類に証明し続ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『星の使徒』の過激な“粛清”に対し、未だ伝説と称されるシゼン・オード大尉を召還。
彼は第9次中央戦争の終戦貢献部隊『セブンス』の部隊員であり、中央大陸の“粛清”を機に此度の召還に応じ人類対立戦争に参加。
本人はブランクがあると言っていたが、その戦果は僅か一ヶ月でスコア100以上という、
その功績を称え、数か月前からフライスビット開発研究基地にて解析途中の
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