身分階級別の自分たち

ちびまるフォイ

あなたの階級はどこから?私はノドから。

「〇〇さんのお孫さんですね」


「……え? そうですけど、祖父になにかあったんですか?」


「あなたのおじいさまは先ほど亡くなられました。

 そして、ご遺族のあなたにある権利が相続されました」


「そんな馬鹿な!? だって今も家にいるんですよ!?」


「それは精巧に似せたロボットです。

 あなたのおじいさまは自分そっくりの見た目で老化する

 精巧なロボットを階級別にいくつも用意していたのです」


「え……? い、いまいち言っている意味がわからないです」


「ご存知ないかもしれませんが、

 あなたのおじいさまは引くほどの大金持ちだったのですよ。

 しかし、上流階級の生活に飽きがきてしまい、さまざまな階級で人生を楽しむために

 自分に似せたいくつものロボットを作っていたのです」


「そんなこと……一度も聞いたことなかった」


「しかし、おじいさまの本体が亡くなられた今

 ロボットの権利はあなたのゆだねられます。この権利を使いますか?」


「よくわからないけど、金持ちの生活ができるんですよね。

 だったら使います! 使うに決まってるでしょう!」


「承知いたしました」


この日を境にして、祖父のロボットは自分用にカスタマイズされた。


上流階級の自分。

中流階級の自分。

下流階級の自分。


それぞれのバリエーションで自分のコピーロボットが、

自分と変わらぬ生活を送ってくれるようになった。


ときたま入れ替わりたいときはいつでも入れ替われるという。


オリジナルである自分は、上流階級を迷わず選択した。


「上流階級かぁ、どんな生活なんだろう。楽しみだなぁ。

 きっと美味しいもの食って、でかいベッドで寝て、

 ライオンの口から温泉が出るバスルームとかあるんだろうなぁ」


ちょっと古めのテレビで見た金持ちの肖像をイメージしながら上流階級の生活がはじまった。

想像してたのとほとんど変わりなく、でかい葉っぱであおがれながら、プールサイドでフルーツを食うばかりの生活だった。


「これこれ! これこそ上流階級の生活だよ!!」


平日も学校なんかいかずに、ゴルフを楽しむ日々。

週末は芸能人が押し寄せるパーティに参加する毎日。


およそ平民どもには手が届かない豪華絢爛で酒池肉林のぜいたくを満喫していた。

そして。





「飽きた……」


3日で飽きた。

ぶっちゃけ2日目くらいからは飽きを感じていた。


上流階級だけあってあらゆる予想外の事態はなくなっており、

なれてしまえば予定調和でかわりばえしない生活。


ただ押し寄せる「退屈」をお金でもって逃げるだけの日々だった。

そこには向上や進歩している感がゼロ。


この生活の先に、今よりよくなるビジョンがない人生がこれほど苦痛とは思わなかった。



次に、下流階級として生活している自分ロボットへと足を運んで階級をチェンジした。


「よーーし、今度は下流階級だ! きっと毎日刺激的な日々になるぞ!!」


身分を下流階級にまで没落させての第二の生活がスタートした。


上流階級にはなかったギリギリの生活感と、

知恵をしぼらなくちゃいけない日々がとても刺激的に感じた。


「きっとじいちゃんも上流階級の扱いに飽きたから、下流階級を用意したんだなぁ」


そう思いながらホームレスの人と食べ物を分け合いながら公園で寝泊まりを繰り返した。

ちょっとしたキャンプ気分で楽しかった。



けれど、3日目くらいで限界が来てしまった。


「ううぅ……もう限界だよぉ……」


お腹をくだして冷や汗がダラダラ出ていても病院になどいけない。

明日の自分がどうなるかわからないので、毎日不安ばかり。


最初はまだ「刺激的」などと思えたが今はなにより安定がほしい。


「やっぱり元の中流階級にするのがいいのかな……。

 ああ、でも毎日勉強ばかりするあの生活に戻るしかないのか……」


下流階級の底辺生活はもう限界。

かといって、中流階級の生活にも正直戻りたくない。

では上流階級かといえば待っているのはヒマという拷問。


「ああもうどうしてどの階級もいまいちなんだよ!」


とりあえず中流階級に戻ろうと、なりすましロボットのところへ行った。

そのとき気づいてしまった。


自分と入れ替わっているロボットの履歴に祖父のデータが残っていた。

生前の祖父が最後に選択していた階級の情報もあった。



「ちょ、超流階級……!?」



祖父が最後に選択していたのは上流でも中流でも下流でもなかった。

第4の階級があるなんて誰も教えてくれなかった。


「超流……いったいどれだけ最高なんだ……!?」


上流を超えた超流階級。

いろいろ考えてみるが自分の想像力では上流階級に毛がはえた程度の生活しかイメージできない。

超流の生活とはいったい……。


その甘美な言葉の響きにすっかりとりこになってしまった。

なんとしても超流階級になりたい。


きっと今も超流階級としての自分ロボットがどこかで入れ替わり生活しているのかと思ったが、いくら検索しても情報が出てこない。だが諦めるつもりもない。


祖父の死を伝えた階級別ロボットのマネージャーに問い合わせた。


「どうして超流階級のことを教えてくれなかったんですか!!」


「それはその……」


「ははぁ、わかりましたよ。祖父の権利を使って、あなたが勝手に超流階級として生活していたんでしょう。

 俺がそれに気づいたらこっそり使ってたその権利も使えなくなるから黙っていた。そうでしょう!?」


「いえ、そんなことはないですが……超流階級になりたい、でお間違えないですか」


「ああそうとも! 俺はこれから超流階級として生活する! さぁ早くロボットと入れ替えてくれ!」


「かしこまりました。では失礼します」


マネージャーはふところからナイフを取り出すと、慣れた手付きで俺の首に突き刺した。

なさけなノドから空気が漏れる音だけが漏れて、血が助からないとわかるほどに出てくる。


「な、なんで……」


「あなたは超流階級をなにか誤解しているようですね。

 上流階級の上が超流階級ではないんですよ」


「へ……」





「この世を"超"えるから超流階級なんです。ではあの世でのネクストライフをお楽しみください……」


目の前が真っ暗になった。

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