世界唯一の育成能力者だけど、パーティ追放されたモブ冒険者を集めて才能開花させて最強パーティを結成したら「もう用済みだ」って俺が追放された件 〜やっぱ追放される奴って人間的に問題あるわ(俺も含めて)〜

ジュテーム小村

第一章 追放された奴らに追放されました

第1話 俺んとこ来ないか?

「ルシード! お前は今日でクビだ!」



 昼下がりの冒険者ギルド。

 遠くの席で、騒がしい声が響く。



「ど、どうして!?

 今まで一緒にやってきたじゃないか!

 お、俺はこのパーティーに貢献してきたはずだ!」


「貢献してきた、だと?

 お前みたいな役立たずがよくそんなことを言えたもんだな!

 攻撃力もないウスノロタンクなんざ、俺のパーティーに必要無いんだよ!」


 周囲の目も気にせずにトラぶっている集団。

 どうやらパーティーのリーダーらしき男が、仲間のタンクを解雇しているようだ。



 俺はそれを、仲間達と共に遠目に眺める。



 始まったな。と俺は同卓の仲間に目配せする。

 ええ。と仲間の1人は軽くうなづき、涼しげにアイスコーヒーを啜る。



 ヒートアップする解雇通告の場。

 処遇に納得いかないのか、両手を振り上げて抗議するタンクの男。

 それをつまらなそうに眺め、侮蔑的な言葉であしらうリーダーの男。


 あのリーダーは知っている。

 最近、”勇者ランキング”を順調に上げている期待の若手”勇者”だ。



 彼は戦力向上のために、ルシード氏を解雇しようとしている。勇者がパーティメンバーとして抱えられる人数には限度があるから。



 


 今まさに解雇されようとしているルシード氏。

 俺は彼の秘められた能力を見抜いており、戦力増強の為に彼を勧誘しようと狙いを付けているのだ。




「情報通りでしたね、ルカ。

 何日も彼らの動向を探ったかいがありました。絶好のチャンスですよこれは」



 仲間の魔術師が、俺ーーーー勇者ルカこと俺に、悪い笑みを浮かべてくる。



「うん、そうだな。

 でも毎度のことながら、心が痛むよ。

 ルシード氏がああやって追放されて傷つくことも、実は彼に秘められた力があることも、俺達は知った上で黙って見過ごしているんだから」


「それは仕方のない事でしょう。

 この世は所詮、弱肉強食。実力の無い者がどう扱われようとも、それは本人の責任というものです。

 ルシード氏が追放されるのも、彼が自分の実力を活かせないのが悪い。

 あの勇者がルシード氏をみすみす失うのも、見る目がないのが悪い。


 だからこそ、ルカ。貴方の出番なのです。

 特別な”眼”を授けられた、選ばれし存在である貴方が全てを手に入れることに、一体何の問題があるというのです」



 仲間の魔術師ーーーーマージの言葉はどこまでも冷徹だ。

 彼自身、他の勇者のパーティから追放されていたところを俺が勧誘したという経緯があるだけに、実感がこもっている。




 この世界には100人の勇者がいる。

 俺もあの勇者もその1人だ。


 そして俺達勇者には、それぞれ”勇者権能”という能力が与えられている。



 権能の内容は全ての勇者で共通のものもある。

 しかしそれとは別に、各勇者はそれぞれ独自の能力——“固有権能”というものが与えられている。



 俺の場合は、”才能鑑定”と”才能開花”という権能。


 かいつまんで言えば、他人の潜在的な才能を発見し、それを開花させる能力だ。

 これを使って、このマージを初めとして、元のパーティでは実力を発揮できずに追放された冒険者達を勧誘し、自分のパーティを強化してきた。



 ウチのパーティの人数制限はあと1人。

 バランス上、どうしても有能なタンクが必要だった。



 そこで目を付けたのが、あのルシード氏だ。

 超一級の才能を眠らせたあのタンクの存在を発見したところ、何日もしないうちに仲間たちが、彼がパーティ追放される兆しがあるという情報を拾ってきた。



 なんでも、パーティクラッシャーと名高い性悪女冒険者が彼らのパーティを狙っており、既にパーティの他のメンバーである女達でハーレムを築いているあの勇者が、ルシード氏を追放してでもその女を手に入れる可能性が高い、とかなんとか。



 どうやってそんな情報を得たのかわからないが、俺達にとっては渡りに船だ。

 数日間彼らを尾行し、勧誘のチャンスを見計らう。

 追放されて傷心しているところがねらい目だ。



 確認のため、再度”才能鑑定”を発動する。




 ルシード 21歳

 冒険者レベル:19

【冒険者スキル】

 盾術:中

 重装備:中

(守護神:潜)



 カッコで囲われているのが潜在スキル。

 彼が俺のパーティに入ってくれれば、それを開花させてやることができる。



「どうしてだ!

 故郷の村を出てからこれまで、ずっと一緒にやってきたじゃないか!

 スキルだの、能力だの、俺達の絆はそんなことだけで測れるものじゃなかっただろう!」


「うるせぇなあ! このウスノロ野郎!

 お前みてえなむさ苦しい野郎のことはずっと鬱陶しいと思っていたよ!

 いつか使い物になるかと温情で待ってやったが、もう限界だ!

 お前に代わって、優秀な新メンバーを加入させる! これはもう決定事項だ!」



 ヒートアップした勇者がルシード氏をにべもなく拒絶する。

 どうも純粋な戦力強化の為の解雇ってわけじゃないようだが。


 よくあることだ。

 何もかもうまくいっている”勇者”が自分の実力を過信して、それまで支えてくれた仲間を切り捨てる。


 邪魔者を追放すれば仕事の効率がアップするとでも思い込んでいるんだろうが、現実はそう甘くは無い。

 むしろ、自分がどれだけ邪魔だと思っていた者たちに支えられていたのかを思い知らされる、っていうのが定番のパティーンだ。


 ああいうの、何度も見てきたなぁ



 彼らの議論は白熱する。

 パーティーメンバーらしき女性たちが彼を囲み、ウザいだのキモいだの臭いだの言いたい放題罵倒するフェーズに入っている。

 あぁ……辛いなぁ、あれは。



 結局パーティーを追放され、それどころか装備品や所持金まで勇者に奪われた彼は、放心状態で席にうずくまっていた。

 パーティーから外れるだけで個人的な所有物まで奪われる意味がわからないが、そんな理不尽が成立するのが“勇者“と言う存在だ。



 とても気の毒だが、この状況は俺たちにとっても都合は良い。



 うなだれる男の肩に、ポンっ、と手を置く。



「いやあ大変だったなぁ。

 ところであんた、よかったら俺んとこ来ないか?」



 突然の事態に反応できない大男だが、俺は構わずたたみかける。



「心配するなよ、悪いようにはしないって。

 誰にでもできる簡単な仕事さ。

 和気あいあいとしたアットホームな職場だよ。風通しの良い雰囲気で、皆フラットな立場からものが言いやすい環境だからさ。

 ほんと、絶対簡単に儲かるから!

 ノルマとかないし、ワークライフバランスも重視してるよ。仲間一人一人が家族って感じでやってるからさ!

 だまされたと思って、君のその素晴らしい才能をウチで活かしてみないか!? 一緒に勝ち組になろうぜ!」



 胡散臭さの極北みたいな勧誘に、後ろにいる仲間たちが頭を抱えるのを感じた。



 ——



 勇者ってものについて、ちょっとだけ説明しておこう。

 大丈夫。15秒くらいで終わるから。



 100人の勇者は、人間界の神が作ったと言われている。


 俺たちの住む人間界は、隣接する魔界との争いが絶えない。

 そこで人間側の神様が、魔族に対抗するために勇者と言う存在を作り出したんだ。


 勇者に選ばれた存在は、与えられた”勇者権能”を使って魔族たちと戦うことになる。

 また100人の勇者のうちの誰かが死んだ時、あるいは稀にランキング低位が続いて勇者引退に追い込まれた者が出た時、新たに人間1人が勇者としてランダムに選ばれ、”勇者権能”を与えられる。



 そして俺達勇者は活躍の度合いによってランキングが付されている。

 通称、”勇者ランキング”って奴だ。

 ランク次第で待遇も社会的な地位も全く変わってくるため、戦力向上のためパーティメンバーの選別がシビアになることは珍しいことではない。



 それで、選ばれた勇者は戦う為になるべく優秀な冒険者を勧誘するわけだけど——。

 実際のところ、どの冒険者が優秀かを見分けるのって結構難しいと思わないか?


 仮に仲間の冒険者に才能があったとしても、勇者にそれが生かせるとも限らない。



 でも、俺にはそれができる。

 俺の持つ固有の勇者権能。それは、“才能鑑定“と“才能開花“。


 “才能鑑定”は本人も気付いていない潜在スキルを含めた他者の才能を解析する権能。

 “才能開花”は解析した他人の潜在スキルを覚醒・顕在化させて使用可能にする権能だ。



 言い換えれば、”才能鑑定”は習熟度0のスキルを発見する権能で、”才能開花”は0を1に変える権能ということだ。



 3ヶ月前に勧誘した例のタンクの大男、ルシードの持つ才能を、俺は見抜いていた。



 ちなみに、ある理由から勇者同士でパーティを組むことは基本的にない。



「うおおおっ!“守護神“発動!」



 ダンジョンでの戦闘中。

 ルシードの発動するスキルがパーティーメンバー全員を包む。


 守護神の効果は、パーティメンバーの受けたダメージを全て使用者が肩代わりするというもの。

 つまりこれで、モンスターの攻撃によるダメージが全て彼に集中することになる。

 仲間たちは防御を気にすることなく攻撃に専念できるし、スキル使用中のルシードはもともと高い防御力がさらに増大している。


 ルシードには高級防具を集中させているし、大防御体勢に入ったあいつを傷付けるのは容易ではない。

 まさに理想のタンクだ。



「くらいなさい!ダークフレア!」



 仲間の1人、魔術師のマージの放つ合成魔術が敵を蹴散らす。

 彼もまたかつては別の勇者パーティを追放された過去を持つ。


 多様な属性の魔術を操る彼だが、どれも中級魔術までしか使えない器用貧乏ぶりが嫌われてのことだ。

 だが、俺の権能で彼は化けた。

 “合成魔術“スキルによって上級魔術をはるかに超える破壊力を発揮するマージを、もう誰も見下す事はないだろう。



「よしっ!あとはボスだけだ!

 行けっ!フェンリル!」



 仲間の1人、ティムがご自慢の聖獣をボスモンスターにけしかける。


 彼も、ビーストテイマーという不遇職のご多分に漏れず、実力を評価されずに追放された過去を持つ。

 発揮できる戦力が他職とさほど変わらない割に、使役する魔獣の餌代などがかさむ彼らはどこに行っても敬遠されがちだ。


 しかし今は、“聖獣遣い”スキルで自分の豊富な魔力を魔獣に食わせて進化させることができる。

 聖獣フェンリルの力を存分に振るい、ボスモンスターをあっさりと蹂躙してくれた。

 今の彼を笑う者はどこにもいない。



「いやー、皆さんお見事。

 ほな、戦利品の回収はボクに任しといてやー」



 仲間の1人、エランドがドロップアイテムを回収する。


 かつてのパーティでは荷物持ちや雑用係として見下されていた彼だが、今ではウチの最大の功労者だ。


 “無限アイテムボックス”で大量の物資を全て運んでくれるため、移動や探索が大幅に効率化され。

 “完全自動マッピング”のおかげでダンジョン攻略が安定し。

 さらには”経験値倍増”及び”アイテムドロップ倍増”で稼ぎを跳ね上げる。

 非戦闘員とは言え、彼が一番性能ヤバいよな。



 うーん、我ながら素晴らしいパーティを結成してしまった。

 それもこれも、俺の権能あってのことだな!

 捨てられて落ちぶれるはずだった連中を拾い上げて、今や超一級の冒険者に成長したとか、ロマンじゃない?



「みんなお疲れー!

 これで今週2つ目のダンジョン撃破だね!

 勇者ランキングもまたあがっちゃうかな?楽しみだ!

 じゃあ、いつも通り報酬の半分は俺、残り半分を皆んなで分割しようか!


 フフフ、みんな収入めちゃくちゃ上がったんじゃないか?

 ちょっと前まで人生終了寸前だったのに!今や立派な勝ち組だ!

 うりうり、憎いねこのラッキー野郎ども!


 よっしゃ、今夜はパーッと打ち上げでもやろうか!」



 リーダーとして仲間達の活躍を心から労う。

 頼りになるメンバーに恵まれて、嬉しいよ俺は。



「……あー、リーダー。

 悪い、今夜はパスだわ。疲れちまった」


「私も遠慮します。

 ちょっと約束がありまして」


「ごめんねルカ。

 今夜はフェンリルの世話をしたいんだ」


「大将、申し訳ない!

 ボクも待たしとるオンナがおってなー!」


「そ、そうか。

 じゃあまた今度。

 それじゃ、帰り道も気を付けて行こうか」



 残念ながら皆忙しいようだ。

 なんか最近こういうことが多いな。



 まあいいや!

 業務時間後に拘束されるのは俺も好きじゃないしね。


 確信していることがある。

 このパーティーは最高だ。

 いつか必ず、天下を取る。



 夢はでっかく、S級勇者。

 勇者ランキング10位以内のシングルランカーの敬称だ。


 そこまで上がれれば、もう人生勝ったも当然。

 一生の富と栄誉が約束されている。もちろん、俺だけじゃなく仲間たちも。



 それどころか、もしも大魔王の討伐なんか達成しようもんなら大変だ。

 子孫代々までの繁栄が確実。

 教科書に俺の名前が載ることになる。



 決して不可能ではない。

 この最高のパーティーなら、夢物語じゃない。



 将来確実に得られるであろう成功を、俺は疑うことさえできなかった。

 この時までは。



 ——



 ある朝。

 宿の食堂でのんびり朝飯を食べていた時。


 4人の仲間達が物々しい雰囲気で俺を取り囲んだ。



「よ、ようおはよう。

 なんだ、険しい顔してさ。休日なんだからリラックスしようぜ?

 みんな朝飯かな。よかったら座りなよ」


「ルカ、話がある」



 口火を切ったのはルシードだった。



「ルカ、悪いが俺たちは全員このパーティーから抜けさせてもらう」



 唐突に。

 俺は仲間達から追放された。

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