神様、これが私の一生のお願いです。
和乃鴎
第1話
神様、私の願いを叶えて下さってありがとうございます。
これでもう、思い残すことは何もありません。
平成二十三年三月十一日金曜日
あの日もいつもと同じように朝が来た。
「いってきまーす」
玄関のドアを開けて外に出る。
お日様の光が丘の下に広がる海に反射してきらきらとまぶしかった。
思いっきり深呼吸をすると、胸の中のもやもやがおへその方にまで押されて行くような気分になって、学校に行きたくない日でも、「仕方がない。行こうかな」という気分になる。
あたし、
好きな科目、体育と国語。
嫌いな言葉「やる気」と「一生懸命」。ああ、そうそう、「全力」って言葉も嫌い。
クラスには、それらの言葉を全部ごちゃまぜにしてだんごに固めたような人もたくさんいる。
「元気いっぱい」とか「笑顔全開」とかは、テレビの中の人にお任せすればいいといつも思っている。
だけど、学校では、不本意ながらそういう役回りをやらされることが多い。
5月生まれで、クラスの女子の中では、背が高くて、母親譲りの声量の大きさときたら、否応なしに前に押し出されてしまう。自分では、損な役回りだといつも思っている。
だけど、家族には、それがなぜか嬉しいらしくて、児童会の副会長に選ばれたと言った時には、寝たきりのひいおばあちゃんにまで「良かった良かった」と喜ばれてしまった。
不本意なんだよ?不本意なんだからね?あたしは、やりたくないの!
人のために前に立つことがとても嫌な人間なのよ?わかる?
ひいおばあちゃんは、うんうんと頷いて、ただただにこにこ嬉しそうだった。
「佳惟、いってらっしゃい!」
玄関のすぐ向こうの茶の間で、おじいちゃんとおばあちゃんが声をかけてくれた。朝の連続テレビドラマを見ながら声だけ張り上げているけど、顔は、テレビの方を向いている。まあ、いつもだよね。
茶の間の並びには、仏壇のある座敷があって、その隣が、今は、ひいおばあちゃんの部屋になっている。
ひいおばあちゃんは、この間九十九歳のお誕生日を迎えた。
九十九は、「百」という字に「一」足らないから九十九歳を「
九十九歳になって、一日中ベットで過ごすことの方が多くなってしまったけれど、ひいおばあちゃんは、頭はしっかりしている。
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