第21話 点数

「セブンライト・ヴァーガ……90点。クラス5位。これは立派な成績だ」

「はい……」


「フォルト・ヴェルティア……99点。ケアレスミスが一つあったがほぼ満点。お見事」

「オーッホッホッホ! ま、ワタクシの手にかかれば、モーニング前ですわ~!」


「クルセイナ・クロノス……92点。最後の問題まで時間が足りなかったようだが、それ以外はできている。この調子で」

「ええ」



 抜き打ちの小テストが終わり、採点をさっさと済ませて講師の男が宣言通りに一人ずつ名前を呼んで点数を公表しながら答案を返却。

 そして、一通り点数がバラける中……

 


「カイ・パトナ……100点満点!」


「ふん」


「「「「「ひゃっ、ひゃくッッッ!!!???」」」」」



 なんと、抜き打ちだろうと何も関係なく、カイは涼しい顔でアッサリと満点を取ってしまったのだ。


「ほ~ん、すごいではありませんの」

「あの問題数を制限時間の中で……まぁ、そういう意味では姫様もほぼ満点ですが……」

「す、すっげ! 俺なんて65点だぜ?」

「100点なんて……どうやったらとれるのよ~……」

「すごい……魔法だけじゃなくて、勉強まで……」

「うん、なんか怖いけど……ちょっとカッコいよねぇ~」


 決して問題は簡単ではなかった。現にこれまでクラス40人の中で、90点以上は現在数えるほどしかいない。

 80点以下も多い中でクールな表情で100点を取ったカイに、クラス中がどよめく。

 そして……



「今回いきなりのテストで100点は素晴らしい。クラスでも『2人』しか満点はいない」


「ふん……むっ……二人?」 


「「「「「え!? 満点ってもう一人いるんですか!? ……って、あ……」」」」」


 

 興味なさそうだったカイだが「満点が二人居る」と聞いて眉が動き、クラス中もまた一斉に驚くも、すぐにハッとして、その視線を……



「シィーリアス・ソリッド……」


「はい!」



 ビシッと起立して、キビキビと歩いて前へ出るシィーリアス。

 その様子にクラスメートたちはすぐに理解した。

 もう一人の満点が誰なのかを……


「うふふふふ、流石はワタクシのシィーさんですわ~♥」

「魔法は苦手のようだが、こっちは非常に優秀なのだな、シィー殿は……さ、流石は私のシィー殿だ……」


 照れながらもどこか誇らしげに、フォルトは堂々と、そしてクルセイナはボソッと少し頬を赤らめる。

 だが……


「シィーリアス・ソリッド……お前は……」

「はい……」


 講師はシィーリアスに向かって……



「なめてんのかあああああああああ!!」


――0点



 それは、名前以外が白紙の答案用紙だった。



「「「「「( ゜д゜)……???」」」」」



 クラスメートたちは目と耳を疑い、しばらく言葉を失い……



「い、一問も、も、問題の意味すら分からなかった……」


 

 ガックリと両手を地面について、シィーリアスは項垂れたのだった。




 なぜ、ミリアムとオルガスに勉強を教えてもらっていたのに0点だったのか? 




 それは……




 



「シィーくん、問題です。制限時間は10秒です。1+1=? い~~~~ち、に~~~~~い―――」


「2です!」


「あーん、シィーくん頭いい~ん! こんなお利口さんにはご褒美あげちゃう! お姉ちゃんの好き好きハグだよぉ~」


「あ、あうぅ、せ、先輩~」


「うふふ、シィーくんは既に生活や冒険者に必要な知識は持ってて賢いし、今更学問のお勉強は必要ないかな? 日常生活送るだけなら計算問題も足し算、引き算、掛け算、割り算が分かっていればいいし、そもそもシィーくんは既にSランク以上の力があるんだもの。……ん~」


「せ、先輩?」


「よし、シィーくん。フリードくんたちに内緒で、お姉ちゃんと遊ぼう♥」


「え、で、でもお勉強……」


「いいのいいの♥(そもそもエンダークに居る以上、将来どころか私たちは明日どうなるかも分からない身。なら、シィーくんには将来ばかりじゃなく、たとえこの環境下であろうと少しでも楽しい思い出をあげないと……将来ばかりを考えてもダメ。それに、仮に何があっても、将来はお姉ちゃんが一生シィーくんを養ってあげるんだし)」


「いや、し、しかし……先生からも……」


「んも~、真面目だな~シィーくんは……それじゃあ~……ちょっと……大人のお勉強しちゃおっか♥」



 ミリアムがシィーリアスと勉強すると言って部屋に籠っていたころは、常にこうであり……





「では、シィーよ。問題だ。3以上の自然数nに対して、xのn乗+yのn乗=zのn乗を満たすような自然数、xyzは存在しない。これを5秒で証明せよ。5、4、3、2―――」


「ふぇ、あ、え? え? え?」


「1、0。はい、ぶぶー。シィー、ダメではないか。やれやれ、こんないいけない子にはお仕置きが必要じゃ。……尻を出せ♥」


「そ、そんな、先輩、あ~~」


「ぬふふふふ、ま、このような問題を解けんでも気にする必要ないぞ、シィーよ。わらわからすればおぬしの一生など短いもの。むしろ、短い人生でこのような生活に役に立たぬ勉強はやめて、わらわと遊ぼうではないか♥」


「え、でもお勉強……」


「今日はもう終わりじゃ♥(そう、わらわたちはエンダークに居るのだ。将来がどうのと、こんな学校のテスト以外で役に立たんようなことに貴重な時間を使うぐらいなら、シィーに少しでも楽しい思い出を作ってやる方がよい。仮にこやつの学歴が乏しかろうと、Sランク以上の強さはあるこやつは食い扶ちに困らんだろうし、仮に何があっても今後一生わらわが養って面倒みて可愛がってやるのだから……)」


「ええ!? でも、僕は先生からも―――」


「あ~、もう分かった分かった……では……ちょっと……いけないお勉強をおしえてやろうかの♥」



 オルガスがシィーリアスと勉強すると言って部屋に籠っていた頃は、常にこうであった。



 ようするに、実は何も勉強せずに二人はシィーリアスが好きすぎて、むしろ既にSランク以上の力を持っているシィーリアスに今更必要ないだろうと、二人の時間を楽しんでいたのだ。



 いつか、シィーリアスにも学校に通わせてあげたいという気持ちもあったが、それはあくまで一般的な学校であり、今更実力的に学ぶ必要のない魔法学校にシィーリアスが入学することになるなど、二人は考えていなかったのだ。



 そう、シィーリアス・ソリッド。Fランク。



 魔法と座学の成績を鑑みれば、ありえないランクでもなかった。

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