第14話 初登校
三人並んでの登校。
ただそれだけで……
「おい、あの御方……見ろよ、神々しい……あれが今年入学のフォルト姫……」
「侯爵家のクルセイナ様も……なんと美しい……」
「でも、その……美しいだけじゃない……何か二人とも……昨日までと違って、何だか笑顔が……か、かわいい!?」
フォルトとクルセイナという絶世の美貌を誇る二人。通りを歩くだけで多くの者が振り返ったり、見惚れたりするため、どっちにしろ目立った。
さらに……
「おい、誰だあの男は! あの二人に、は、挟まれて……」
「本当だ。見たことないが、どこの貴族だ?」
そんな二人が男を間に挟んで歩いているので、注目度も余計に上がっていた。
しかし三人は特に気にした様子はない。
それどころか……
「シィーさん。学園でワタクシたち以外の女生徒とのスキンシップは配慮するとしても、ワタクシに配慮は無用ですわ♪ なんなら学園でもコッソリと……(*´з`)してもかまいませんわ♡」
「フォルト姫、そういうことはおっしゃらないでください! もしバレたら退学どころの騒ぎではありません。し、しかし、その、シィー殿がどうしても我慢できなくなられたら、わ、私がお相手いたす♡ そ、その代わり……わ、私にも脚を……指をしゃぶら……あ、頬ずりだけでも……」
「いや、別に僕は……そんな無理には……君たち二人は特別だけど、学園ではこの国の文化に合わせるつもりだし……」
フォルトとクルセイナは流石にハグやキスを人前で堂々とするのは憚られ、シィーリアスもそれを文化の違いとして了承。
そして、今ではフォルトもクルセイナも二人ともシィーリアスのことを仲間たちからあだ名で呼ばれていた「シィー」と呼ぶようになった。
それは、シィーリアスが二人を真の友と認めたからでもあった。
昨日の店主にはフォルトとクルセイナが念押しで口止め。口止め料も払い済み。
だがしかし、気を抜けば大胆になるのはむしろ二人の方であり、むしろ辛抱できなくなるのは二人の方であった。
「「と、特別だなんて♡」」
教室からは少し騒がしい声が聞こえてくる。既に登校している生徒たちが談笑しているのだろう。
初日の入学式にも出席できなかったシィーリアスはほぼ全員が初対面。
少し緊張しながら足を踏み入れると、階段状に並ぶ席に生徒たちがそれぞれ自由に座って、各自でグループのようなものを作って談笑していた。
「おお~……ここが僕のクラス……そしてクラスメートたちか~」
「ええ、そうですわ、シィーさん」
「フォルト姫も私も同じクラスで良かったな。くれぐれも、友の……女子の友を作るときは気を付けることだな」
教室に入って、同じ歳のクラスメートたちを目の当たりにして、少し感慨にふけっているシィーリアス。
すると、クラスメートたちも教室に入ってきたフォルトとクルセイナ、そしてシィーリアスに気づいた。
「お、おはようございます……フォルト姫……クルセイナ様」
緊張して戸惑うクラスメートたちの中で、一人の女生徒が挨拶をしてきた。
それに対し二人は……
「おはようございますわ、モブコさん。ですが、昨日の自己紹介でも言いましたように、これからは同じクラスメート。『姫』は不要ですわ! クルセイナさんは立場上頑なですが~」
「私にも『様』をつける必要はない。そして、おはよう」
笑顔で堂々と挨拶を返す二人。モブコと呼ばれた女生徒や他の生徒たちも少しだけ空気が……
「あ、ありがとうございます。え、えっと、その……」
空気が和らいだ……わけではない。
何故ならば、クラスメートたちはある意味で、フォルトとクルセイナ以上に緊張する、未だに謎な存在がそこにいるからだ。
「おはよう! 初めましてになる。僕も君たちに挨拶と自己紹介をさせて欲しい!」
シィーリアスも少し緊張している。
しかしそれでも教室の教団の前で、クラス中に向けて元気よく自己紹介する。
「僕はシィーリアス・ソリッド。昨日は式に出ることができずに挨拶することができなかったが、今日から君たちのクラスメートとして共に切磋琢磨し、友達になりたいと思っている。これから、何卒よろしくお願いします!」
ビシッと気を付けして頭を綺麗に下げるシィーリアス。
そんなシィーリアスにクラスメートたちは……
「お、おい……あいつだよな?」
「ああ。俺らの入学試験でヤバかった、あのカイって奴を昨日決闘で倒したって……」
「本当なの? カイくんって、私たちなんかとはレベルが全然違うぐらいすごかったのに……そんなカイくんに?」
「分かんねえけど……ヤバそうに見えないけど……ヤバイ奴なのかな?」
「それにしても、どうして姫様やクルセイナ様と一緒に?」
どうやらシィーリアスの噂は既にクラスメートたちは知っていた様子。
まさにいきなりやってきた未知な存在に、まだ誰もが反応に戸惑って様子を伺っている。
「……? クルセイナ、僕の挨拶は何か間違っていただろうか?」
「いや……そうではないが……まぁ……な」
どうして何も反応が返ってこないのだろうか?
不安になってクルセイナに聞くが、クルセイナとしてはクラスメートたちの反応は仕方ないかもしれないと苦笑した。
そのときだった。
「ん? おおお、君は!」
不安そうに教室をキョロキョロ見渡したシィーリアスは、一人の男子生徒に気づいた。
「うぐっ」
その男は頭に包帯を巻いて、顔も少し腫らして怪我している。
その男にシィーリアスは見覚えがあった。
「君はたしか……セブン……セブンライトという者ではないか! そうか、君も同じクラスなのか!」
「ひ、ひいいい!?」
それは、昨日のそもそものトラブルの発端であった、貴族のセブンライトであった。
「お互い色々あったがこれからよろしく頼む! 是非とも僕と友達になってくれ! そして君は昨日の女性にちゃんと謝罪をしたか?」
「あ、あぅ、あ……」
見知った顔がいて嬉しそうに駆け寄るシィーリアス。
だが、セブンライトは顔を青ざめて怯えてしまった。
「ど、どうしたというのだ? 僕は君には少々怒ったが、何もしていない気も……いや、もしまた君がたわけた悪の行いをすれば僕も黙っていないが、心を入れ替えてさえいれば、友達にと思っている!」
昨日、自分を圧倒的な力で完膚なきまでに叩きのめしたカイ。
そのカイをシィーリアスはアッサリと倒してしまったのだ。
シィーリアスは怯えられるのが心外だという表情だが、セブンライトが 怯えるのも無理はなかった。
すると……
「ッ……貴様……」
「ん? あ……」
自分たちに続き、登校してきた生徒が教室に入ってきた。
入ってきたのは黒髪生徒。カイだ。
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