第9話 学園会議

 帝国魔法学園の入学式は予定通り終えた。

 新入生たちもそれぞれのクラスに分けられた上での簡単なこれからのカリキュラムなどを説明し、本日は早めの解散となった。

 しかし、新入生たち以外はここで終わりではなく、学園上層部の大会議室に人が集まっていた。


「ふぉふぉふぉ、入学式前の決闘で3人出席できず……元気じゃのう……」


 頭を抱えながらも笑うしかないと言った様子で、巨大な体躯と長い白髪と長い白髭が特徴的な老人が口を開いた。

 その者こそ、学園のトップに位置する学園長であった。


「笑い事ではありません、学園長。こんなことは前代未聞です」

「一応生徒たちの話では事の発端は子爵家のセブンライトが平民の生徒とのトラブルからとのことですが……」

「ヴァーガ家は子息の入学前に学園に多額の寄付をされている中で、子息が発端とはいえ入学式に出れないほどの怪我を負われた。事は怪我を負わせた生徒に対する処罰だけでなく、学園の管理体制にも追及が来るかもしれません」

「そのことなのだが……セブンライト氏に話を聞いたのだが……何やら物凄い恐怖に怯えて彼自身は詳しいことを話してくれなくてな……」


 学園長の発言を皮切りに、会議室に出席している教員たちからドンドンと言葉が飛び交っていく。

 そして、それは教員たちだけでなく……


「まず問題なのは、『カイ・パトナ』。素性不明の平民ながら、入学試験で全ての分野において歴代最高値を叩き出した異例異業前代未聞の怪物……入学前に既にAランク。何とも恐ろしいものですね」


 会議室に出席する長い銀髪を靡かせた男子生徒も口を開いた。


「ふむ……君たち『魔法学園生徒会執行部』や生徒たちの中で、この件は何と? 『副会長殿』」


 そう、会議室には生徒の一部。学園生徒たちの中でも選ばれた存在である『魔法学園生徒会執行部』の面々も参加していた。


「ハッキリ言って、僕たちも今日までは何かの間違いやデタラメとも思っていました。ですが、あの学園前の惨状や、その光景を見た生徒たちの様子からも……信じざるをえない、そして興味深い生徒だと私は思いますね」


 副生徒会長の男はそう言ってテーブルに一枚の紙を投げた。

 それは、カイに関する生徒資料である。



「本来平民が貴族に逆らい怪我を負わせるというのは大問題ですが……その場には侯爵家のクルセイナお嬢様も居てカイ生徒の情状酌量を述べておりますので、退学までは……と思っております」


「確かに、これほどのランクを持った生徒を追い出すわけにもな……」


「とりあえず、今回はまだ様子見で良いかと……ただ、それはそれとして問題はもう一人……」



 そして、副生徒会長がもう一枚の紙を取り出してテーブルの上に投げた。

 出席している教員たちも一斉に頷き、そして学園長は一人で「ビクッと」とした。

 それは、シィーリアスのことであった。


「そのカイ氏がやりすぎる直前で割って入り、気づけばそのままカイ氏と戦うことになり、しかしそれを返り討ちにしてしまった……この、シィーリアス・ソリッド……一体何者ですかね?」

「うむ。既に推薦も入学試験も終えた段階で、学園長が特例で推薦という形で入学が決まったこの生徒……Fランクとなっています……」

「その生徒が、Aランクのカイを圧倒したと……しかも、魔法も武器も使わずに、蹴りだけでとの」

「学園長……彼は何者でしょうか?」


 シィーリアスに関することを教員も生徒会も学園長に一斉に追及する。

 それに対して学園長は表情こそ温和なままだが、背中はダラダラと汗をかいていた。


(うむ、この子が何者か……んなもん、ワシの方が言いたいわい! フリードのバカタレ、何が魔力を制限しとるのでFランクぐらいの力しかないから……じゃ! こんなの聞いとらんぞい! 引き取った不幸な孤児に、エンダークでのつらい日々を忘れて青春を送らせてやりたいとか言うとったが……いきなりやらかしおったわい! くぅ……幻のビンテージものの酒で手を打ってしまったが、ひょっとしたら安すぎたかもしれん)


 シィーリアスに関してフリードと繋がっていたのは学園長であったが、


(あまり変な注目を集めさせないように、自分たちとの繋がりも内緒にしてサラっと入学だけさせとってくれればよいと言われたが……これ、おぬしらとの関係者であること公表しないと、皆納得しなくね?)


 実は学園長自身もそれほどシィーリアスのことを知ってはいなかった。

 ただ、フリードが仲間たちと一緒に可愛がっていた男の子とだけしか聞いてなかった。

 ただ、昔からの信頼できる人物でもあり、SSSランクの称号を持つフリードの頼みであるからこそ聞き入れただけであった。



「うーむ……彼のことはワシからも今の時点では詳しいことは言えん(だってワシもよく知らんし)」


「「「「ッッ!!??」」」」


「ただ、彼は登録上Fランクではあるが、それだけではない存在ということだけを認識して欲しい(実際何ランクなんじゃ? 彼)」



 内心とは裏腹に口調だけは重く威厳を込めて一同に伝える学園長。

 その空気に教員も生徒会の生徒たちもただ事ではない事情を察した。

 その上で……



「あの……それと、そのシィーリアスという生徒について、その場にはクルセイナ令嬢だけでなく、ヴェルティア王国のフォルト姫もいらしていたようで、『彼は正当防衛であるので、生徒カイ同様に寛大な処置を』と申されております」


「「「「ッッ!!??」」」」



 その言葉で一同の表情が更に険しくなる。

 他国から預かっている大事な王族。

 本来学園内で問題を起こすような生徒は、そういった貴族や王族生徒たちに危害を与える恐れもあるので危険視するところだが、姫直々の言葉ともなれば無下にすることができない。


「いずれにせよ、このシィーリアス・ソリッドについても現状は様子見でどうかのう? 職員室で説教もされたようだし、今回は停学・退学までは……ということで、よいのう?」


 いずれにせよ、フォルトの口添えは学園長にとっても幸運であり、今回は大目に見ようということを提示し、他の教員たちもこの場は頷くしかなかった。



「よし、では今日はこれまでじゃ。明日から新入生の対応含めて皆の者、よろしくのう」


「「「「「はい!!」」」」」



 その発言を持って会議を終え、一同が席を立ちあがり、学園長も椅子の背もたれに寄りかかって大きな伸びをする。

 そして……


「ふい~……それにしても、これから頭が痛くなりそうじゃのう。『シャンディア姫』も生徒会長になって早速今日の入学式の挨拶でやらかしてくれおったし……。ところで、副会長。シャンディア姫はフォルト姫と宮殿で懇親会ゆえにこの場は欠席されておるが、シャンディア姫はこの件について何か言っておったか?」


 その、学園長の問いに副会長は頭を抱えたような表情で……



「ええ……『うっはー、おっもしっろそ~!』……と、笑っていました」


「……じゃろうな」



 と、学園長は疲れた様子でドッと溜息を吐いた。

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