第5話 大理の幻肢
/6月23日/金曜日/
清水にループについて聞かないと。あいつが何か知っているようには思えないんだけど一応聞かなきゃいけない。一応。
教室に入って早々清水の席へ向かう……が、
「ねぇ
同クラスの女子、
適当な相槌を打って彼女の言葉を待つ……待つ………ま…なんだ?急に黙り込んでしまった。
日準基花はこちらを見つめたまま何も言わなかった。僕が首をかしげていると彼女はだんだんと顔が崩れて、ついには泣き出してしまった。
周りの女子達が「基花大丈夫ー?」「未界が基花泣かせたー」だのわちゃわちゃ集まってきた。
「???」
「気にすんなよ
横から清水が話しかけてきた。
「ヘェ……」
清水は「そんなことはどうでもいい」と話を続け、肩を組んでく……距離がちけェな。そのまま耳打ちしてくる。
(お前もループしてるんだろ?)
(!)
(わかってるって、おれは何でもわかるんだ)
僕の反応をみてとても上機嫌だ
(このクラスだと
(いやまて、まってくれ何言ってんだ。清水お前何を根拠につらつらと)
(お?聞きたいか
清水はにやにやと口角をあげている。さっさと言いなさいよ。
(いいか?二度は言わねぇぞ。おれの能力は”他人の能力が分かる”……だ。この最強の能力については後で詳しく話すが、昨日ループについて聞き込みを行ったところ………なんと、能力をもっている奴だけループしているみたいなんだ)
(…………)
こいつの能力が最強かどうかは押入れの奥底にいれておいて、便宜上清水の言を信じるなら
(なぁこの学校にあと何人能力者が………)
キーンコーンカーン────
鐘の音と
*
「わかるか?
清水が能力者の情報を渋っていたので、腕消失事件(仮称)に関係ありそうな奴だけ教えてもらう、ということで手打ちにした。代わりに清水に借りを作ったがこの際仕方がない。清水が事あるごとに借りを強調してイラついたが仕方ない。
「美術部一年の噂ー?」
「ああ」
この聞き込みはつまるところ
「んーなんかね登校中の女の子……あ、わたしの友達の友達ね。が腕がない同クラの女子、あ その子が美術部の子。………が倒れているのを見たんだって。今日も休んでるらしいって言ってた」
「どうだ?」
「わかりにきぃなぁ!!話がよぉ!!」
清水は吠えながらも手持ちの黒いノートとにらめっこしている。さっき覗き込もうとしたらぶん殴られそうになった。
近くの女子に聞いても似たようなことしか聞けず、その度に清水の眉間のしわが深くなるだけだった。
まあこんなもんか。
「あーありがとう色々と。参考になったよ」
この空間にいると匂いで目がくらみそうだ。
「未界!約束通り黒野君にこれ!忘れないでよー!」
「へいへい」
モテるなーあいつ、面だけはいいからな。
手紙なんて直接渡してやればいいのに。
「さやかーかなーー何今のー」
「なんか聞き込みだってさ、腕がないってあれ。わざわざ聞くなんてどうしたんだろうねー」
******
───イギリス 教会 日時不明
部屋は光で満ち、金色の髪は神々しく光り輝いている。
「さて、そろそろ行こうか。政府が関わると色々と厄介だ。」
祭服が嬉しそうにはためいた。
******
「なぁ」
「あー?」
能力で床でもなぞるか?でもできれば清水がいないときにしたい……放課後調べに来るにも美術部の活動があるよなぁ。考えなしに二人で来たのが失敗だった。
「美術室来たところでなんかわかるのか?」
「さっぱりわからん」
「はぁ?」
清水があからさまに顔をしかめる。
「学校で調べるようなことはもうないでしょ。手がかりがあまりにも少ないから美術室には来たけど、本命は現場の調査と被害者への聞き込みだよ」
どうせあと4時間たったら外でいくらでも調べれられるんだ、それまでは校内でできることをしよう。幸い人づてに聞き込みして被害にあった女子の名前もわかったことだし。まだ昼休みなんだし。
ツンとした油絵具の匂いがこちらへ威嚇してくる。色とりどりに汚れたカーテンが本来の白を、日光の力を借りて主張している。この空間において思念は絵の具であり、原生物質と領地争いをしているのだ。
彫の深い顔が白色の石と成ってならんでいる。
「被害にあった子は昨日の朝、登校中商店街の人通りの少ない路地で腕がない状態で友達に保護されて、今日も学校を休んでいるらしいけど……」
「事件の現場ってもう警察が
「それはないと思うよ。授業中にラジオを軽く聞いてたけどそれっぽいニュースはなかったし。商店街で食レポする生番組もやってた」
「ラジオで食レポぉ?」
確かに、なんで警察に連絡してないんだろう。通報させないようにするか、事件が表沙汰にならない能力でももってるのか?
女の子を保護した友達も今日休んでいるみたいで、事情が聴けなかったからよくわからないな。
まあ本人に聞けば何とかなるでしょ。
「で、今の情報からみて怪しい能力者っているのか?」
「うーん…………」
清水は要領を得ないといった感じでポリポリと頭を搔いている。
「ぶった斬る能力とかなんでも食べる能力とかいろいろあるから何とも。犯行自体できそうな奴ならざっと10人くらいは思いつくからな。というか」
「お前もやれるだろ未界。同じようなこと」
「…………」
こいつは本当に僕の能力がわかるのだろうか?僕自身もよくわからないのに。
「おや、お二人とも珍しいですね。今日の活動は休みですが………」
スライド式のドアの乾いた音とともに
今日はよく会うなぁ。
先生なんで美術室なんかに…………そういえば
「確かに彼女は昨日から休んでいますね。事情は詳しく聞いてはないですよ」
ですよねー。
事件については伏せつつ一応聞いてはみたけども。
「一昨日とか……その前から美術部内でトラブルがあったりもないですかね?」
ヒールの音が一つ大きく響いた。先生の表情が無へ近づく。
「…………なかったと思いますよ、いつも通り模写していました。彼女になにかあったんですか?」
「いや、まぁ特にはないんですけど」
能力者でもない人に事件について相談しても混乱して話にならないだろう。
清水……は肩をすくめている。先生は能力者じゃないらしい。
空が夕に焼けて先生の服が茜色に染まる。ん?
「話は変わりますけど、ミロのヴィーナスって彫刻───知ってますか?」
「あぁ腕がない彫刻ですか?たしかミケランジェロが作ったんだっけ」
「違います。アレクサンドロスですよ」
「ハッ間違えてやんの」
純粋にムカつくな
「あの彫刻、なんで腕がないんだと思いますか?」
「えーなんだろう……元々あった腕が経年劣化で取れちゃったんじゃないんですかね」
「作ろうとして材料が足りなかったんじゃね?」
「うーん2人とも違いますねぇ」
へえなんだろう。
「正解は」
「それが自然な形だからよ………………」
ドサッ ドサッ
本が落ちるような音がした。音源は先生の足元……よく見ると、腕が2本落ちていた。
「あ?」
「………………」
肩から、正確には腕があった場所から血がドロドロと落ちている。強い粘着性があるようで、とてもチョコレートシロップに似ていた。ボトボトと落下している、鼻を突く鉄の香りがする鮮やかな深紅色のチョコレートが。
「うわあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!こいつ腕、腕が!!」
「うるせえな清水!わかってんだよそんなことはァ!!」
先生の足元の血が生きているみたいに蠢いている。大きな蛇のようにうねり、ボコボコと煮だって赤い煙が立っていた。
「"こいつ"ってとても失礼ね……でも大丈夫!私が形を正してあげるから」
昔映画で見たカウボーイの早打ちシーンを思い出していた。
「!」
来る!咄嗟に清水を突き飛ばし、続けてズン……と重低音が重く響く。
喚く清水を無視して今の状態を意識しろ……今、僕は奴に何をされて、何がどうなっている???
体は血にまみれているけど痛くない。見たところなんの異常も……………いや肩?腕が、肩が腕が痒い、痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いかゆいカユイカユイカユイ!!!!!
キモチ悪い…………
ドサドサッ
また、2冊の本が落ちる音がした。
******
さてどうなるかな。今の未界じゃあどうにもならないだろうけど………
ん?あぁ慌てなくて良いよハゲ眼鏡君。いい機会だ。タイムリミットも近いしね。
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