液状化少女
長瀬
第1話 魂に抱かれて
少女が串刺しにされて横たわっていた
血溜まりの中で年齢に不釣り合いな 一種の悟りのような笑みを向けている
男は顔を歪め 一瞥するも止まらない
………血の足跡は出口へ向かう
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「今日は英語にしよっか」
クラス一の秀才
僕がいつものように数学がいいと言ったが、それもいつものように否定される。
「君、毎回言ってるけど数学は必要ないでしょ。好きなのはわかるけど数学だけじゃ将来苦労するんだから」
「将来については何も考えていないけど。まあやっぱテストがまずいよなぁ」
彼女とは一度目の席替えで、前後連なった席になったことが遠因となって毎日勉強を教えてもらう友達のような間柄となっていた。"ような"といったのは対等かどうかに疑問が残るからだ。
教わる関係なだけで教え教わる関係でもお中元をあげるあげられるもらうもらわれるような関係でもないんだし。
そうしていつものようにいつも通り日課の勉強会が始まる。
「私としては
「100点の固有名詞をやつの名前にするな……50点も俺には厳しいよ、赤点回避までは頑張りたい」
大体帰国子女とかいうふざけた英語力を持つ男を引き合いに出さないでほしい。
劣等感で鼻水が出そうだ。っとそうだそろそろ飲まないと効果が切れてきたな。
錠剤を容器から手に出したところで、ペットボトルによる視界不良が起きた。
「ん、飲みなよこれ、貸しね。花粉症だっけ?」
「いやこれチュ」アブル錠だから飲み物は要らないと続けかけて僕は気づいた。いや気づいて、しまった。
この水が入ったプラスチックの容器、開封済で完全ではなく、水の残量が減っていて……つまり飲みかけだ!!!!!間接キス。間接???体液の交換がこの水……いや"聖水"を飲むことで可能なら、それは舌を入れるキス、すなわちディープキスと同義ではないのか?キスのtier1がディープキスとするならば次点にまでつけるはずだ。フレンチキスなどというキス入門編の雑魚と比べるまでもない。
「?」
「あ、ああありがとう、飲むよ、飲みます」
ペットボトルを受け取り、ふたを開ける。
すべてがスローモーションに見える。
飲み口までがやけに遠い。
「やあやあ失礼!
突如乱入したToeic905点(自称)のバイリンガル、
*
そう、事件とは間接キス一歩手前で奴の乱入によって僕は驚きのあまりペットボトルを放り投げてしまい、聖水が余すことなく床にぶちまけられたことだ。です。はいそうでした。
委員会の仕事だとかで戒が神取を呼びに来たらしく、時間がかかりそうだから先帰っていいよ、と言われた。僕が水と思っていたものは実際には水に甘味料を加えた液体で、想像以上に処理に手間取ってしまい校門へと出れたのは少し暗くなってからのことだった。
僕の黒いもやもやが掃除に使えないことを恨めしく思う。
もう僕にはなにも残っちゃいない……キスのない人生など意味があるのだろうか?
キス……どんな味がするんだろうなぁ。レモンのようと書いてあるサイトのコメント欄が反発であふれかえっていたから、逆にアルカリ性の苦みがあるのだろうか?疑問は尽きない。
空の雲はかなりの重量がありそうで、キスに失敗した僕の心情を表しているようだった。
「お、
本日二回目、常に人を小馬鹿にしたような表情で話す
*
帰る方向が同じだというので一緒に帰ることにした。
「未界クンはさ、最近ハマってるもんでもあるの?」
「あー……ひかマリが最近熱いね。深夜アニメなんだけど」
「お、オレも見てるよ!ひかマリ!」
リア充相手に開口一番アニメの話題を出すのは気が引けるが、会話をなあなあにして終わらせるよりは多少キモい印象で終えるほうが好ましいだろう。スキの反対は無関心らしいから気持ちの悪さはそこまでウェイトを占めないしね。アニメファンを敵に回しそうだな。
しかし、
ひかマリの設定の奥深さ、世界観の秀逸さ、天使のキャラデザの良さなどを一通り自己冷却しながら話す。これちゃんとキャッチボールになってんのかな。心配になってきた。
「まあその、ひかマリが自分の大事なものを再認識させてくれたところがとても好きだな」
「ヘエなんなの、それ」
「と、友達」
何言ってんだ僕は。テンションのギアがおかしくなっている。
戒は一瞬停止した後、ものすごい大笑いをした。
「wwwwwwwwハーwwwwwハハハハハハwwwwwいいねwやっぱ面白いよ
「/////」
脳内の僕がコンクリの上でのたうち回り終えたころ、分かれ道に出た。
「じゃあ
「ああそっかじゃあね」
「あ、そうだ」
戒がこちらへスーパーボールくらいの球体を転がしてきた。
「なんだ?」僕はそれを拾い上げて確認する。それは縞模様の、それは……ぷよぷよとした眼球だった。
「大事なもんなんだろ?」
彼はいつもと変わらない人を小馬鹿にした顔で、そう言った。
耳鳴り
耳鳴りがする。
「今までで27人同じことをしているんだ。細かい部分にチガイはあっても基本的には変わらない」
藍とは……そうだやっと心をひらいてくれたんだ。最初の内は誰も寄せ付けない冷たさがあって、そういうところもよかったけど。そうじゃない今、いまはいいやつなんだ受け止めてくれて叱ってくれて、もらってばっかりなんだ僕は。あいつの前では僕だなんて言えないけど少しでもかっこつけたくて、それで。こいつは、こいつはいきなり何を、ナニヲ言っているんだ?ただの下校中にこんな、藍の……藍?そうだ駅前にできた新しいケーキ屋あいつ行きたそうにしていたな。鋸、を僕は
「安心してよ。オレは」
言い終わる前に僕は奴の喉元を切り裂く。流麗な英語を発していたその喉を、横隔膜を、腕を。関節を。殺意と衝動の赴くまま熱心に解体作業に入った。繊維のちぎれるような音と液体がそこら中に飛び散るが処理するのはおそらく僕じゃあないだろう。じきに人が通りかかるだろうし、証拠隠滅なんて不可能だ。藍と同じ部品を掘り出そうとしたとき、ありえない場所からありえない声がした。
「オレは殺してない。今までの27人と同様にね」
…………五体の内の一体だけになった球体で、ここ10分なにもなかったかのようにそう続けてきた。
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