第11話
翌朝、朝食も一緒にとると、私はリミーシャさんに連れられて雑貨店に向かった。今日着ている服も屋敷にあったミリアさんのためのワンピースを借りてきた。リミーシャさんが楽しそうに服を選んでいる姿を見ると、止めることもできない。それに借りられるのはありがたいことだから。
ふわふわとしたレースに縁どられたワンピースは、かわいらしい見た目ながらも動きを制限することはなくとても動きやすい。
少しの間馬車に乗って着いたのは、センタリア商会を見たあとだと、とても小さく見えるお店だった。ちょっとほっとする。
「さあ、どうぞ」
がちゃり、と鍵を開けて扉を開くリミーシャさん。その中はあたたかな光で満たされていた。壁際と中央に机や棚が設置されていて、そこには布がかけられている。レジは奥の方に設置されていた。
「明るい……」
「ああ、ほら」
そういってリミーシャさんは上を示す。つられて視線を移すと、天井はガラスでおおわれていた。そこから降り注ぐ自然な光がお店に満ちているんだ。
「すごい!
高価なガラスをあんなに」
「ふふ、このお店を作るときにわがままを言ってしまったの。
さあ開店の準備をしましょう」
「はい!
何をすればいいですか?」
「そうね……、ずっと開けていなかったからほこりがたまっているわね。
それを掃除してもらおうかしら。
他も難しいことはないから、安心してね」
いうと、リミーシャさんはまず机にある布を取り除く。その下にはハンカチや小物入れ、かわいらしいさまざまな商品がおかれている。
「はい、これを使ってね」
もこもことしたものが先についた棒を渡される。これでいったん下に落として、最後に床の掃き掃除をするのだそう。掃除なんて初めてするから、ちょっとワクワクする。
丁寧に、商品を落としたりしないようにほこりを取り除いていく。その間もリミーシャさんはレジを触ったりどんどんと準備を進めていた。
「準備できたわね。
そろそろ開店しましょうか」
「は、はい」
ようやく準備が整って、お店の扉が開けられる。いよいよお客さんを迎えるんだ、そう思うと自然と緊張してくる。
「緊張しなくて大丈夫よ。
多くの人が来るわけではないし、皆いい人なの。
それに、変な人が来たとしてもあの人に任せればいいのよ」
そういってリミーシャさんが見たのは護衛としてお店の中にいる男性だ。この人はセンタリア商会に縁があるリミーシャさんの安全を心配したブランスさんによって手配された人だそう。はい、とうなずくと、もう一度気合をいれなおした。
扉を開けて少し、女性二人組がお店に入ってきた。
「ほら見て!
お店が開いているよ」
「本当だ!
良かった、もう少しでクリームが終わりそうだったのよ」
「いらっしゃいませ。
どうぞゆっくり見て行ってくださいね」
「あ、はい!
あれ?
新しい子を雇ったんですか?」
「ええ。
ちょっと出会いがあって」
ほら、とこちらに視線が向く。
「フィーアと言います。
よろしくお願いします」
「まあ、かわいらしい!
よろしくね」
女性たちは楽しそうに品物を見てから、クリームやハンカチなどを買っていった。レジの使いかたを教えてもらいながらの会計は時間がかかっていたが、2人とも優しく見守るだけで嫌な顔をしないでいてくれた。
「あ、ありがとうございました」
「ありがとう。
頑張ってね~」
「は、はい」
ぺこり、と初めてのお客さんを見送る。これであってるのかな⁉
「完璧よ、フィーア!
お客様がいない時間は商品棚を整理をしたり、何か小物を作ったりしているのだけれど……。
フィーアが得意なこと、好きなことはある?」
「得意……。
あの、刺繍なら……」
「あら、そういえばフィーアは服飾店に職を求めていたのよね。
刺繍、いいわね!
布ならあるから、フィーアに刺繍してもらって、それで何か小物を作ろうかしら。
フィーアがいいのなら、ぜひ商品に加えたいわ」
「が、頑張ります」
商品として売ってもらえることが嬉しくて、力を入れて返事をすると、ええ、とほほ笑んでくれる。こうして自分を受け入れてもらえることが何よりもうれしかった。
そこから、お客さんがいない時間はチクチクと刺繍をして過ごすこととなった。自分の自由に縫っていいそれは、とても楽しい。お花などの簡単なものから動物など手の込んだものまで、ここから多種多様なものを刺繍することとなった。
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