ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます
mio
プロローグ
『ああ、きれいだ……。
この花は君によく似合っている』
『まあ、うれしい。
ですがそのようなことを申してよろしいのですか?
こちらの花は王太子妃様のお花では?』
『……あの人は部屋から出てこない。
大丈夫だ』
「痛い……」
「マゼリア様?
お目覚めになられたのですか?
……今お薬をお持ちいたします」
頭が割れそうに痛い中、目を覚ます。何度経験しても慣れない痛み。それに痛みを引き換えに見たものも最悪だった。夫であるサラシェルト王太子が別の女性と親しげに歩いている画、しかも場所は自分のために用意されたこのステラ別宮の庭園だった。こんなもののためにこの痛みに耐えなければいけないなんて……。
でも待って、これをもとに夫と別れられないかしら? ……私だって居たくてここにいるのではないもの。もっと自由に過ごしたい。
「マゼリア?
薬を持ってきたぞ」
ノックの音に先ほどの侍女だろうと確認せずに許可すると、入ってきたのは先ほど別の女性に微笑んでいた王太子だった。なぜここに? 暇なの? 思わずじとっと見ていると、気にした様子もなくサラシェルト王太子は近づいてきた。
「侍女から、何か視たのではないかと聞いた」
サイドテーブルに水と薬を置くと、私がいるベッドに腰掛ける。ああ、それを聞くのが目的だったのね。
「その前に薬を飲ませてちょうだい。
頭が痛いの……」
「ああ、すまない」
さて、どうしようかしら。今ここで話してしまう? いったいどんな反応をするのかしら。彼は私のギフト、『神の目』の優秀さは十分知っている。だからこそこうやって王城に縛られて、何か視るたびに話すように言われているのだけれど。
今ここにいるということは先ほどのものは現在起きたことではないでしょう。でもかなり鮮明だったから、近いうちに起きたか、起きること。今話しても心当たりがあるはずよね。
「それで、一体何を視たのだい?」
「……この花、水色のステラの花。
これを誰かに、金色の髪に蒼い瞳の女性に渡しているあなたを視たわ」
私の言葉にピタリと王太子は動きを止める。やっぱりその女性に心当たりがあるのね。
「それは……」
「私、別の女性に夢中になっていたとしてもあなたのこと責めないわ。
でも一つだけ。
私と離婚してからにして?」
「な!
離婚なんてできない!
それに、その女性のことは確かに心当たりがあるが、夢中になっているわけではない!」
「それは、私が『神の目』を持つから……?
私の価値はそれだけでしょう?」
もう、それが疲れたの……。マゼリアとしての私を見てくれる人なんていない。皆、思い通りに視えないとはいえ過去、現在、未来、すべてを視ることができる『神の目』を持つ娘としてしか評価してくれない。いえ、マゼリアどころではないわね。
「そんなこと……!」
いきなり聞こえてきた声にびくりと肩が揺れる。なんでそんな怒っているような顔をしているの? 無表情か気まずい顔をすると思っていたのに。でも、はっとした表情をした後に王太子は気まずそうに視線をそらした。
「サラシェルト王太子様?」
「はぁ……。
とにかく休むといい。
今日視たのはその内容なのだろう?」
「え、ええ……」
薬は飲むように、そう言って王太子は出て行った。私がいつもいる部屋から。ああ、頭痛がひどくなってきた。今日は休まないと。
薬を口にして、ベッドに横になる。目を閉じると自然と涙が零れ落ちていった。……好きだったのだ、彼が。まだギフトが分かる前、初めて会ったときに戸惑いながら微笑みかけてくれた彼に一目ぼれした。公爵家の娘で年も近かった私はもともと彼の婚約者候補で。よく一緒にいた。とても楽しく、幸せな時間だった。
でも、あの日。ギフトが判明したとたん、彼の態度は変わってしまった。そして私たちの婚約は義務となった。こちらをまっすぐに見なくなった彼と、それでも一緒にいたかった。
たとえ義務で私と婚約、結婚したとしてもいつかは愛してくれると思っていたから。だから、耐えた。ギフトが行使されるたびに感じていた頭痛がだんだんとひどくなってきても、耐えた。この部屋にギフトの行使が誘発される香がたかれていると知っていても、この部屋にいた。彼に認めてもらいたかったから。
でも。でも……。その結末があれだったのだとしたら。もう頑張る意味はないのかもしれない。もし、次に生まれ変わったら。今度こそこの力なんて関係ない。私自身を見てくれる、愛してくれる人を一緒になって愛したい。
零れ落ちる涙をぬぐうこともしないまま、私は眠りについた。
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