第42話 認められた結婚と高層ビルの別荘

 掃除用具入れで遥と密着状態。かなり窮屈きゅうくつだ。せっかく体育倉庫を脱したのに、今度はかなり狭い掃除用具入れに隠れた。


 というか、冷静に考えたら隠れる必要がなかったかも。これでは見つかった場合、逆に余計な誤解を与えるだけだったかもしれない。


 だが、もう遅い。


 掃除用具入れに隠れてしまった以上、後戻りはできない。


 息を押し殺してヒカリと椎名が去るのを待つ。


「……」

「……っ」


 少し遥の様子を見ると、顔が辛そう。顔どころか耳まで真っ赤。口元は震え――いや、身体もなんだか震えていた。



「なんだか体調が悪そうだな」

「体調は悪くないんだけど……その、遙くんのひざが……わたしの股に」



 かなり狭いからな。高さもあまりないから、俺は少し背を低くしていた。膝が確かに、遥の股の辺りに接触しているかもしれない。いや、しているのか……?



「すまん。少し動くよ」

「ダ、ダメ! 動いちゃだめ」

「え、でも……」

「ダメったらダメ! 今動かれると、わたし、こすれて……どうかなりそう」



 遥の呼吸が酷く荒い。

 これほど至近距離だと心臓の音さえも聞こえてきそうだった。まずいな、これはこれで危険な状況だ。



『あれ~、遙くんいると思ったんだけどなー』

『いませんね、会長』

『帰っちゃったのかな』

『かもしれません。あの二人、妙に仲がいいですから』

『そうだね、もしかして付き合っているのかもね』


 ヒカリは知ったうえでとぼけた。助かるけど。


『あたし達も帰りましょう』

『うん。でもさ、あの掃除用具入れ、気にならない?』



 ――と、ヒカリは妙に勘を働かせた。おいおい、気になっているんじゃないっ! てか、こっち来るな。



『え……そんな、まさか二人があの中に?』

『そのまさか、かもよ。葵、開けてみたら』

『……』


 椎名は迷っているのか、直ぐに返事はしなかった。そうだ、そのまま帰ってくれ、頼むから!!



『どうする? それとも、私が開けようか?』



 掃除用具入れの隙間を覗くようにするヒカリ。一瞬、目があったような……やっべ、もしかして見えているんじゃなかろうな。



『い、いるわけないですよ、そんなところに。会長、変なこと言ってないで帰りますよ』

『うーん、そうか。それでは仕方ないね。それじゃ、帰ろう』



 ヒカリも椎名も教室から出ていった。


 ――ほっ。


 安心していると遥は、がくがく震えて俺の方へ倒れてきた。



「ちょ! どうした!?」

「……もぉ、だめぇ」

「え、なにが!? なにが起きたの!?」



 さっぱり分からんが、これ以上、掃除用具入れにいるのは遥に悪いし、負担にもなっている。


 ようやく外に出た。

 そのまま脱力する遥は、その場にへたれ込んだ。ヘロヘロじゃないか。



「…………あ、歩けない」

「あ~…圧迫しすぎたかな」

「もぉ~、遙くんのせいだからね!」



 涙目で訴える遥は、スカートを必死に押さえていた。……うーん、これはいったい。



 * * *



 校門を出ると、俺でも知っている超高級車『マイバッハSクラス』が停まっていた。学校前とは厳つすぎる。

 いったい、どこの金持ちの送迎だろうなあ。


「あ、パパ」


 遥だった。

 マジか。ということは中から――やっぱり。


 これまた厳つい男性が出てきて、俺はギョッとする。



「迎えに来たよ、遥。それに遙くん」

「俺もですか?」

「ああ、君は遥を救ってくれた英雄だ。私はね、これでも君を認めているんだ。つまりね、結婚も認めているってことさ」


「パパさん……」


「そうだ、遙くん。私のことは『蓮夜れんや』と呼びなさい」

「いやぁ、さすがに名前呼びは……。もうパパさん呼びで定着しているんで、そのままにします」


 そうかぁと残念そうに肩を落とすパパさん。というか、蓮夜れんやって名前だったのかよ。ということは『小桜こざくら 蓮夜れんや』か。



「さあ、今日は我が家に招待しよう。車に乗るといい」


「マジっすか!」

「ちょ、パパ!!」


 俺も遥も驚いてあせった。


「いいじゃないか。二人は結婚しているんだし、別に家に迎え入れても何の問題もない。私にとって遙くんは、息子だからな」


 パパさんは、今度は豪快に笑う。

 そうだな、向こうからしたら俺は義理の息子となる。遥のママにも挨拶しないといけないだろうし――お邪魔してみようかな。



「では、お言葉に甘えて」

「おぉ、遙くんは分かっとるね」

「改めてのご挨拶も兼ねて」

「素晴らしい。では、向かおうか」



 遥はちょっと嫌そうだったけど、結局車へ乗った。


 後部座席へ乗るとフカフカでビックリした。なんでこの乗り心地。さすが超高級車。なんか良い香りもするし、てか、運転手もいるのか。


 白髪のご老人が安全運転で遥の家を目指していた。


 これが金持ちの特権か。



 車はどんどん進み、高層ビルの立ち並ぶ場所へ入った。な、なんだここ。驚いていると、パパさんが説明してくれた。



「この高層ビルは『ヤッホー』ではないが“別荘”でね。いずれ、遥にプレゼントしようと思っている」


「べ、別荘……!? プレゼント!?」



 50階以上はありそうなビルだぞ。これをプレゼントって、金持ちはそういうものなのか。レベルが桁違いだ。


 車は地下駐車場へ。


 到着して車を降りた。



 もうこの地下の時点で広すぎる。高級車もいっぱいあるし、どうなっているんだ。そのまエレベーターへ向かい、上の階を目指す。


 しばらく掛かりそうだな。



 50階に到着。

 エレベーターを出ると、そこには馬鹿みたいに広い城内があった。しかも、メイドと執事が迎えてくれている。



「おかりなさいませ、旦那様、遥お嬢様」

「ようこそいらっしゃいました、お客様」



 ……なんだこりゃ。

 異空間すぎるだろッ!!

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