第23話 壁ドンと野望と殺人予告
なぜ大柳教頭がここにいるんだ。
「えっと……その、教頭先生」
「久しぶりだね、天満くん。ほう、葵と仲が良さそうだね」
「えっ? いえ、そういうわけでは」
てか、椎名を名前呼び?
どういうことだ。
普通、先生が生徒を名前呼びしないと思うんだけどな。
「おじいちゃん!」
椎名は、そう教頭を呼ぶ。
……って、おじいちゃんだって? そうか。大柳教頭は、椎名のおじいちゃんなんだ。苗字が違うのは、椎名の母方の旧姓とかなのだろう。
「葵、天満くんとはよろしくやっているかな」
「うん、結構仲良くなったよ。今、壁ドンされて襲われそうになっていたところ」
「そうか、そこまで猛接近を。良い傾向だね、天満くん」
教頭はニコリと笑い、まるで椎名を“そのまま落とせ”と言わんばかり視線を威圧的に向けてきた。おいおい、それでいいのか。
「いや、俺と椎名さんは別にそういう関係では……」
そう否定したのがまずかった。
教頭は俺の肩に手を置き、鋭い目つきでこう言った。
「天満くん、それでは困るんだよ」
「え……」
「葵ともっと仲良くなって欲しい」
「そ、その……はい。友達なら」
その瞬間、肩をギリギリと握られて激痛が走った。いてえ!! な、なにするんだ、この教頭。さっきから目つきヤベェし。何なんだいったい。
「それでは困ると言った」
「いや、知らないですよ。俺はもう教室に戻ります」
「ダメだ。葵に構わなければ、君と小桜さんの関係を公表するぞ」
な、なんだと……この教頭、俺たちの味方ではなかったのか! 校長の時は好意的だったのに、今は俺と椎名をくっ付けようと必死なわけか。
こりゃ、下手に逆らうと結婚のことをバラされるな。それだけは
遥を転校に追いやる原因となってしまうだろう。それだけは避けねば。
「わ、分かりました。仲良くなる努力はしましょう」
「良い返答だが、付き合うとか、そういう視野はないのかな」
「ありませんよ。俺と遥は結婚しているんですよ? どう付き合っていうんです。ていうか、付き合ったら不倫じゃないですか」
「それくらいが何だね。私は不倫を三回して、その末に妻と離婚した過去がある。裁判に負け、今も高額の慰謝料を支払い続けている。
悲しいかな、男は、下半身に正直で……性的欲求は止められない。常に最適なパートナーを求める生き物なのだよ。君も大人になれば分かるさ」
教頭のどうしようもないクズエピソードなんぞに興味ねぇ~! 俺は、遥一筋なんだよ。それに体目当てでもない! 俺は、全部をひっくるめて遥か大好きなんだ。
あの性格とか気遣いのあるところか、俺を見捨てないところとかな。料理だって美味い。話しだって趣味だって合う。
そりゃあ、体もスタイル抜群で巨乳。正直えっちなことも沢山したい。魅力のひとつだ。でも、そうじゃない。
俺は、こんな教頭のような男になりたくないし、遥を裏切るような真似なんてしたくない。だいたい、頼まれて付き合えとか、それこそ椎名に失礼だろうが。
「教頭先生、この前の校長事件で味方してくれた事には感謝しています。ですが、今のこの状況には申し訳ないですけど尊敬もできません」
「そうかね。では、君と小桜さんの関係をバラす」
くっ……この教頭!
どうする、一発ぶん殴るか。
いや、そうなれば退学になってしまう。
抑えろ、俺。
どうするべきか悩んでいると、椎名が入ってきた。
「おじいちゃん、ごめん。あたしの為にありがとうね。でも、自分の力で天満くんをモノにしたいから、もういいよ」
「だ、だが……むぅ。仕方ない、今は葵に免じて許してやろう。だが、少しでも葵を裏切る素振りを見せたら……天満くん、君は終わりだ。いいか、絶対に葵を泣かせるなよ!!」
散々悪態をついて、教頭は去っていく。孫娘に幸せになって欲しいんだろうけど、いくらなんでも必死すぎだ。
「本当にごめん、天満くん」
「いや、少し驚いた。まさか教頭が椎名さんの爺ちゃんとはね」
「うん。おじいちゃんってば、あたしが在学中に校長先生になる野望があるみたい」
「野望って……なるほどね」
味方してくれたのも、案外その野望の為だったのかもしれない。うまく利用されたかな?
* * *
教室へ戻ると授業が始まってしまった。着席し、前の席に座る遥に話しかけた。もちろん、小声で。
「遥、さっきは悪かった」
「……うん。でも、椎名さんを壁に押し倒していたよね」
「うぐっ! 見ていたのかよ」
「当然でしょ。遙くん、授業が終わったら刺し殺すね」
「そんな、シンプルに殺人予告しないでくれ。本当にすまないと思っている」
「いやー、びっくり。遙くんって思ったよりモテるんだね。結婚しているのに、なんだか悔しいっていうか、複雑な気持ち」
俺も驚いたけどな。
椎名に告白されたし、教頭からも付き合えとプレッシャーを与え続けられたし……こんなこと人生であるものなのか。結婚してからモテ期到来かな。
「機嫌を戻して欲しい。帰りに何か奢るからさ」
「ほんと? 帰りにカフェ寄ってくれる?」
「それでよければ、全然付き合うよ」
「うん。なら許す。でも、もう他の女の子と話しちゃダメ。壁ドンも禁止」
「おう、努力する」
まあ、もう壁ドンする状況にもならないだろう。遥と椎名以外の女子と話すなんて機会、ゼロに等しいし。ありえない、ありえない。
この時点では――そう思っていたのに。
まさか、あんなことになろうとは。
***おねがい***
続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。
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