おため死~どうやら俺には残機があるらしいので、今日からデスゲームのテストプレイヤーやって生計を立てます~
平なつしお
プロローグ・一機=100円
人が暮らす上で、それなりに生まれる雑多な音色を人の営みと言うならば。
救急車やパトカーが行き交い、救助だなんだと大声を上げるのはなんと呼べばいいだろう。
路地の片隅。知らない人の家を守るブロック塀を背中に、ぼんやりと俺は交通事故の現場を見つめる。
大型のトレーラーが転倒し、何台も車が巻き込まれて歩行者も大勢が逃げ遅れた。
――俺も含めて、だ。
そう。俺、
なの、だけれども。
こうして生きている。いや、語弊があるか。
なにせ。トレーラーへ押しつぶされた瞬間の恐怖も、顔面が潰される感覚も、体中へ響いた骨が砕ける音も、肌を割いた血の色も何もかも覚えている。
だから俺は間違いなく、死んだ。
死んだ、けど。こうして今、生きて路地の片隅で野次馬の背中を眺めている。
異世界に転生するでもなく、こうして今も。
なんで、となると。まあ。おそらく、アレと言うか。今も視界の片隅に見えているモノが原因だと思う。
【×2】
小さくデフォルメした人型――たぶん、俺――の真横に乗算記号と、正数。素直に読み解くなら、俺が二人ということになる。
今の時代。ある意味で古めかしい表示は、いつかテレビで見た芸人がやるレトロゲームの中でしか見たことがない。もちろん、探せば在るだろうけど。
平たく言えば。アレは、おそらく。ほぼ確実に。
「残機かぁ」
人だろうと機械だろうと動物だろうと、そう呼ぶモノ。
ゲーム内で設定された、やり直せる回数の上限が俺の右斜上へ常に表示されている。
加えて、だ。
「どうみても、コインの投入口だよなぁ」
手元近く。ほどほどの距離へもう一つ。
自動販売機とかでよく見かける、鈍い銀色の円。中央には縦長に黒い切れ目が開いていて適切なモノが投入されるのを、ジッと待っている。
少し悩んだ後。俺はズボンのポケットへ入れていた小銭入れを取り出し、硬貨を一枚取り出す。
定番中の定番。お約束の、100円だ。
かちゃん、と。投入口を滑り落ちる音がする。この騒々しい路地でもはっきりと聞こえる音色は、もしかすると俺の頭の中でだけ響いているのかもしれない。
【×3】
「100円で一機なのね」
一人分の生命と考えたら間違いなく安い。残機があったおかげで、俺は即死を免れたわけだし。
しかし。けど、うーん?
「これどうするかなぁ……」
簡単に増やせる残機を持ってたとしても。じゃあ、どうしろとって話。
別にココは異世界でも何でもないし、残機を活かせる機会なんて…………あっ。
「そうだ。デスゲームのテストプレイヤーやろう」
あのわけわからない機械や、理不尽な罠の数々。それが正常に動くかどうかを確認するたびに、人員を消耗するのは損でしかない。
その点。俺なら残機が続く限り、何度もテストできるし不足分も用意に補充できる。
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