第92話

 「本当に今回の依頼はすごいよ、

でも、こんなに難しそうなこと私がやっていいの?」

「気に入ってもらえたようで、うれしいよ。

ちぃならできるって思ってるから、

それに、謎の儀式って、もしかしたら、

今、同時進行の依頼のヒントになるかも、って思って」

 カンリーはこんなに考えてくれていたのか、

心の中で文句を言っていた

ことがどれだけ酷かったことか、

より鮮明にわかってきた。

もう、二度と気軽に文句を言えないだろう。

 「最近、直接訪ねてくる依頼者さんが増えてるんだよね、

沢山の人に見てもらえてるのは嬉しいけど、

ほとんどの人が≪自分の依頼は聞いてくれないのか?≫

っていう内容がほとんどだから、

少し困ってるんだよね」

 滅多に不満を漏らすことのないカンリーだ、

珍しい、どころか、私の前では初めてのちょっと

した愚痴かもしれない。

カンリーが言っているのは、きっと、朽葉のような人

を言っているのだろう。

あのような人が一日に何人もきたら、

さすがに滅入らない人はいない。

朽葉の粗ぶり方を見たから、

痛いくらいに苦労が伝わる。

 「あっ、るなちゃん、お帰り」

「事務所の前で、お客さんが待ち構えてた

よ、最近増えてるよね、直接訪ねてくる人」

噂をしていたら、さっそく来ている。

横を見ると、カンリーはやはり、気が滅入っている

ような顔をしている。

「じゃあ、ちぃ、行ってくるよ」

「カンリー、実は、そのお客さん、ちぃを呼んで

ほしいって言ってるの」

「えっ、私?」

「うん、つきちゃんが今そのお客さんと話してくれてる

から、早く行ってあげな」

「うん、了解」

もしかして、朽葉だろうか、

新しい情報が入ったのかもしれない。

そう考えると、より、急がない理由がない。

「早く行かないと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る