【No.067】両角紅緒の好きなところ発表ドラゴンが両角紅緒の好きなところを発表します
両角紅緒さん、手先が器用でアニメが好きで、さっぱりとした人柄だ。
女性らしくないことを気にしているみたいだけど、俺にとっては気兼ねなくいろんなことを話せる数少ない人だ。
単発のアルバイトで運転手のバイトに応募した際、俺が運転したのが最初だったか。
何度か一緒に仕事をするうちに意気投合して、俺が転がり込んでから……何年経ったかね。自分でも分からなくなるくらいダラダラ続いてんなあ。
同棲といえばそうだけど、そこから先に進めない。
友達なのか恋人なのか。
曖昧な関係性にそろそろピリオドを打ちたいのが本音だ。
探検家になると決めてから家を出て、金を貯めては冒険に出る。
それの繰り返しだ。社会的な肩書きはない。
冒険した先のことを動画投稿したり、ブログに書いたり、夜勤のコンビニバイトしたり、いろいろやっているけどただのフリーターだ。
最近、鈴鳴クロエとかいう猫耳のVtuberよりチャンネル登録者数が少ないことを知り、ひどい気分になった。
同棲する条件として、俺が仕事をする紅ちゃんの代わりに家事をするということで話は落ち着いた。撮影とかブログとかいろいろ協力してくれてるけど、いつ捨てられるか分かったもんじゃない。
紅ちゃん、俺のことをどう思ってんのかな。誕生日は二日違う。
歳の差は6つ、小学校の卒業式をする彼女と入学式をする俺だ。
年齢差なんて気にしたら負けだと思う。
けど、そういうところも気にしてるんだろうなあ。
紅ちゃんは結構……いや、かなり他人を気にする人だ。
本人が思っている以上に、溜め込んでしまう。
そこが危なっかしいというか、いつか爆発しそうで怖い。
誰かが見ていないとプラモデルの箱に埋もれて死んでしまいそうだ。
だから、彼女のもとを離れられないのだろうか。
人が好きじゃないと言っていたけど、距離感が掴むのが苦手なだけだと思う。
マジで人間が嫌いだったら、今頃悪い組織に加入してると思うし。
世界を滅ぼそうとしてるんじゃないかなあ、知らないけど。
気の利いた言葉でカッコよくずばっと言えたらいいんだけど、どうすればいいのか分からない。俺がその手の雑誌を買うのは気が引けるしな。
「そういうことで、両角紅緒の好きなところ発表ドラゴンが両角紅緒の好きなところを発表します! これでダメなら俺は出ていきます!」
「どうしたの、急に」
夕飯の後、紅ちゃんの真正面に座る。
ちゃんと話すときは相手の目をそらさず、正面に座ると決めている。
「まず、手先がめっちゃ器用! 作業も丁寧! 仕事ができてカッコいい!」
「前も言ったけど、プラモデルなんて慣れれば誰でも作れるんだって」
「でも、俺は無理だった! そういうのが得意なのいいと思う!」
「まあ、そういうのをやりたくて今の仕事やってるところあるしね」
「そう! 自分の好きな物に対して正直なところもいいよね!」
「……それに関しては人のことを言えないんじゃない?」
「俺みたいなクズを拾ってくれた優しいところ!」
「私は言うほど優しくないし、冬樹くんはクズじゃないよ。
私の仕事、よく手伝ってくれるじゃん。
物覚えも早くて、すごく助かってる」
「正式名称は分からないけど、好き好き大好き!」
「そこは原作に忠実なんだ」
「はい、それ! 俺のクソくだらない話をちゃんと聞いてくれるところ!」
「冬樹くんだって私の愚痴を聞いてくれるんだから、お互い様でしょ」
「人に対してさっぱりしてるところ! 付き合っててすごい気楽!」
「人付き合いなんてそういうものじゃないの?」
「あと、いじけたときの表情が超可愛い!」
「ちょっ……そういうことを大声で言うな!」
「それから、どんなところに行っても絶対に待っててくれるところ!
おかえりって言ってくれるの超嬉しい!」
気づけば、鼻の頭がくっつきそうなくらい近づいていた。
紅ちゃんはふっと笑い声を漏らす。
「当たり前じゃない。ここはあなたの家でもあるのよ?
家で待っている私が言うのは当然でしょ」
「えっ……」
それはどういうことだ。
答えの代わりに俺のほおにキスをする。
「今度は私が東雲冬樹くんの好きなところを発表すればいいのね。
まず、人の意見に左右されないところ」
「はい?」
「それから、道具のメンテナンスを怠らないマメなところ」
「それは当たり前だろ。いつ死ぬか分からないんだし、ちゃんと準備しないと」
「自分の知らない世界に立ち向かう勇気。私を連れて行ってくれる行動力。
本当にすごい。諦めずに冒険を続けている諦めの悪さもいいところよね」
「まあ、なんていうか……そのへんはアレだよ。
親が厳しかったから、その反動というか」
「なんだかんだで似た者同士なのかもね、私たちって」
似た者同士か。考えたこともなかったけど、その言葉をじっくりかみしめる。
「俺のことはどう思ってる?」
「どうとも思っていなかったら、扇風機と一緒に捨ててる」
粗大ごみ行きかよ。妙にリアルで嫌だな。
紅ちゃんはまた笑って、俺を抱きしめる。
すでに答えは出ていたようなものか。紅ちゃんの背中に腕を回した。
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