【Ex- 045】見えない荒れ地を進む


何でも文芸部で友達ができたようで、いつもつるんでいるらしい。

壮馬という男子がいつも話を聞いてくれる。


寡黙で読書好き、かなりの甘党と聞いていた。

絵に描いたような文学少女だとばかり思っていたから、見知らぬ男がウチに来た時は本当に心臓が飛び出るかと思った。


そういうことをするような奴じゃないのは分かっているけど、変なことを吹き込んでくれた日にはどうしてくれようか。馬の骨には甘くない。


「まあ、そんな大げさなことでもないんだけどさ。ちゃんと飯食ってるのかなーと」


他人の家に来ているというのもあったのだろうが、俺が帰って来てからずっと挙動不審だった。不安そうにきょろきょろと周りを見回していた。


無理やり連れてこられた感じがしたというか、今にも泣き出しそうだったというか。お前はちゃんと人の話を聞いていたのか。

実はかなり嫌がっていたんじゃないのかと、心配で仕方がなかった。


それに、引っかかる点がいくつかある。ウチに避難してきたと言っていたのだ。

自分の家が危険な場所だから、逃げてきた。居場所がないということだ。


どこか親近感を覚えるが、のんきなことを言っている場合じゃない。

明らかに異常な環境だ。他に助けてくれる人はいなかったのだろうか。


いなかったんだろうなあと、一目見て何となく察してしまった。

そうじゃなかったら、あそこまで怯えていなかっただろうし。


「大丈夫だと思うけどね、人一倍よく食べてるし。

学食のラーメンなんて飲み込んでるもん」


「麺くらいちゃんと噛むように言ってやれよ」


「いざとなったら、ウチに来るように言ってあるし」


「俺はその許可を出した覚えはない」


頼むから我が家を託児所にしないでくれ。そこまで面倒は見きれない。


「ウチに来た時に思ったけどさ、本当に大丈夫なのか?

俺が言うのもアレだけど、あんな性格でよく学校に通えてるな」


「……まー、そのへんはね。いろいろあるんだよ」


「いろいろあるのか」


「でも、いい詩を書くんだよ。先輩からすごい褒められてたし」


「それはすごいもんだな」


二人から作品を見せられ、添削をしてほしいと頼まれた。

文学には関してはまったくの門外漢だ。

小説なんて読まないから分からないと断ったのだが、頑として譲らなかった。


まあ、先輩に見せづらいというのは分からないでもない。

後輩だからとキツいことを言う人もいるだろうから、ハードルが高いんだろうな。


「それに、頭いいから勉強も教えてくれるし。超分かりやすいよ」


「それはお前にこき使われてるだけじゃないのか?」


「そんなことないよー、多分」


「多分かよ」


とにもかくにも、仲がいいみたいで何よりだ。

友だちを選べなんて言えるわけがないし、様子を見るしかないのだろう。


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