【短編1052文字】ヨセワアシ『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

『あまりにも綺麗なので永遠に美しいまま保存しておきたい』


 ……という理由で怪しい男から渡されたのは少女の死体であった。


 男の顔を見た剥製師はすぐに彼が指名手配されている殺人鬼であると分かった。


 しかし、大金を積まれて気が迷い、剥製師は依頼を引き受けてしまう。


 三か月の期限を伝えると男は「三日で終わらせろ」と無茶な事を言い出した。

 その時、工房に置かれていた孔雀の剥製が突如羽ばたいた。


 驚きを隠せない剥製師が目を向けると男は姿を消していた。

 木霊のように「三日で終わらせろ」と不気味な響きだけをその場に残して。


 孔雀は元の剥製に戻っており、幻覚だったと無理やり心の中で片をつける。

 剥製師はさっそく作業に移った。なぜだか自分なら出来るような気がしてきた。

 作業を続けていると、二日目の夜―― 異変に気付いた。少女が呼吸をしている。

 彼女は死んではおらず、仮死状態のまま眠らされていたのだ。



 しかし、困った。もうすでに両手両足は剥製にしてしまっている。



 いまさら後戻りは出来ない。剥製師は肌を傷つけないように少女の息の根を止めた。


「依頼を達成出来なければ、俺が殺されてしまうんだ。ごめんね」

「ううん。いいよ、怒ってないから。仕方ないよね。おじさんにも事情があるんだし」


 死んだはずの少女は、何故か死んだあとも喋り続けた。が、彼はあまり気にしない。


 その後、全身を剥製にした後も少女は口をきき続け、奇妙に思うも何とか完成した。



 三か月の仕事量を三日で終えた剥製師は疲れ果てていた。



 顔を洗おうと洗面台に向かい、ふと鏡の中の自分と視線が合う。

 剥製師は無表情であるにも関わらず、鏡の中の彼はケタケタと笑っている。

 さらに目玉がギョロギョロし始め、両目がどちらも別々の方向を見ていた。

 鏡の中の彼の顔は溶けて、グニャグニャと変形し、三日前の怪しい男の顔に変わった。




「この顔は見た事ある。奴の顔だ。いや僕の顔? 俺の顔? 私の顔? ハハハハッ!」



 剥製師はおもしろくなって笑い始めた。この際、あまり気にしない事にする。


 その後、いくら待ってもあの男は現れなかった。とうとう陽が沈み、夜が明けた。


 剥製師は溜息を一つ吐くと少女の剥製を奥の部屋に運び――。


 他の娘たちの剥製と同じ列に並べた。


「まったく困ったなぁ。大金だけ払って、少女の剥製を依頼しといて取りに来ない」

「これで五七件目だよ。近頃の客は常識を知らないなぁ」


 彼がそう呟くと「まあ、そう怒らないで。ここに居れて私は幸せよ」と少女が言った。


 他の娘たちも「シアワセヨ」と言ってくれ、剥製師は喜んで次の仕事に向かった。

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【短編1052文字】ヨセワアシ『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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