【短編750文字】消費期限『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話
『三日後、あなたの消費期限が切れます』
未来局から少年に手紙が届いた。
どうやら彼は三日後、品質劣化に伴い人として安全性を欠くおそれが出てくるらしい。
そうと分かれば予防の身支度をしなければならない。
まず他人への思いやりをなるべく取り払う事にした。
これにより自身を短時間でも冷やす事ができ、中毒菌の増殖を抑えられる。
加えて必要以上に他人を中傷する事にも努めた。
周囲の反感は避けられないが、十分な加熱処理を自身に行う事が出来る。
人間関係も改め直し、好意を寄せてくれる者への裏切りも欠いてはならない。
優しい人間に対して殺菌消毒を行い、彼らを十分に乾燥させる必要がある。
処理後は同じ志を持つ者のみで出来た閉鎖空間で人格を洗浄・消毒し、二次汚染を防ぐ。
最後の段階では心の荒みや化膿が酷くなってくるので――
なるでく他人にぶつけて発散すれば準備は万端だ。
『たった今、あなたの消費期限が切れました』
『行き渡ったご配慮、まことに感謝致します』
再び未来局から少年に手紙が届いた。
それからの少年には面白い傾向が続くようになる。
以前は口下手だった彼が閉鎖空間では饒舌な性格へと変化したのだ。
同じ傾向を持つ者たちの中では専門知識の必要ない批評が大流行――。
『世間知らず』という言葉の変わりに『孤独主義』という言葉を使いはじめ――。
『面白い』か『そうじゃない』かの基準はタイムラインに流れてきたネット記事――。
意味ばかり求めるあまり、意味のない事ばかりを収集しはじめ――。
図星を突かれれば健康に汗を流しながら罵詈雑言で誤魔化すようになっていった。
「以前はこの生活に疑問を持っていましたが、現在は有意義に感じています」
彼らは彼らで楽しんでいるようだ。
ならばわざわざ止める必要もないだろう。
あなたたちなりの【青春】を大いに楽しんでくれ。
【短編750文字】消費期限『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816
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