【短編975文字】送るべき文章『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

 未来局から二〇歳の青年に宛ててメールが届いた。


『二〇年後のあなたは今より一〇〇倍のお金持ちになっています』

『しかし、今より一〇〇倍幸せとは言えません』

『その理由は今あなたの隣にいる女性が原因です』

『大金持ちになった未来のあなたは大金を払い、過去のあなたに質問権を与えました』

『返信で未来の自分に答えを聞けるのは三回までとします』



 彼は傍らに座る恋人の顔を少し見てメールに返信した。



【未来の自分に質問したいのですが、あなたは昨日どんな一日を過ごしましたか?】

『朝起きて、妻の朝ご飯を食べ、仕事をし、夜ご飯を食べ、眠りました』


【未来の自分に質問したいのですが、あなたは明日どんな一日を過ごすと思いますか?】

『おそらく昨日、今日と同じ繰り返しでしょう』


『妻はとにかく変化を恐れる人間で退屈なのです』

『あなたには同じ間違いをしてほしくありません。彼女との結婚を考え直して下さい』


【分かりました。あなたに聞く事はもうありません。携帯を確認していただけますか?】



 そう言われて確認してみると、まるでタイミングを計ったように……。

 未来局から四〇歳になった青年に宛ててメールが届いた。



《さらに二〇年後のあなたは何の変哲もない毎日を送っています》

《それはあなたの妻のおかげです》

《未来のあなたは二〇歳の頃に受け取ったメールの内容を覚えていました》

《未来のあなたはなけなしの貯金で質問権を過去のあなたに与えました》

《返信で未来の自分に答えを聞けるのは三回までとします》



 四〇歳になった彼は傍らに座る妻の顔を少し見てメールに返信した。



『未来の自分に質問したいのですが、あなたは昨日どんな一日を過ごしましたか?』

《朝起きて、妻の朝ご飯を食べ、仕事をし、夜ご飯を食べ、眠りました》


『未来の自分に質問したいのですが、あなたは明日どんな一日を過ごすと思いますか?』

《おそらく昨日、今日と同じ繰り返しでしょう》


《かつては変化の無い日常とそれを齎す妻が面白くありませんでした。しかし――》

《昨日と同じ今日を。今日と同じ明日を過ごせる事がどれだけ幸せか。今なら分かります》

『……貴重なご意見ありがとうございます。今後に活かしていきたいと思います』



 彼は携帯を閉じて、少し考える。

 そして、それから二〇年後。六〇歳になった彼は――。

 過去の自分に向けてメールを書いた。送るべき文章はもう決まっている。

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【短編975文字】送るべき文章『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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