聖剣と女神とイベントガチャ

平野ハルアキ

聖剣と女神とイベントガチャ

 数多の困難を乗り越え、俺はついに伝説の聖剣が封印されている古の祭壇へとたどり着いた。


『神護の森の奥地、はるか神代に建てられた祭壇には、あらゆる闇をはらう破邪の力が眠る』――勇者として魔王討伐の使命を託された俺は世界中を旅し、各地の伝承をつなぎ合わせ、この地こそが聖剣の封印場所であると突き止めたのだ。


 深い森をぽっかりくり抜いたような広い空間を、夜空の星々と月が静かに照らしている。その中心部に、石造りの祭壇がひっそりと佇んでいた。屋根もなく、悠久の時を風雨に晒され続けて来た祭壇はあちこちがひび割れこけが付着していたが、かえって老成した哲学者のような、穏やかでりんとした雰囲気を引き立てているようであった。


 ひび割れ、隙間から草の伸びる白い床石を踏みしめながら、俺はゆっくりと祭壇へと近付いていった。


「――よくぞ来てくれました。選ばれし勇者よ」


 俺が祭壇のすぐ側まで来ると、どこからともなく澄んだ優しい声が聞こえて来

た。


 直後、祭壇からまばゆい光が放たれる。あまりの光量に俺は思わず目をすぼめ、祭壇から顔を背ける。薄目のぼやけた視界に、周囲の石柱から伸びる長い影が同心円状に広がっているのが見えた。


 やがて光が収まる。ゆっくりと目を開け、顔を正面へ向ける。いつの間にか祭壇の前に、一人の美しい女性が姿を現していた。金糸きんしのように伸びる繊細な髪は月光を浴びて鮮やかに輝き、純白の衣服から覗く白い肌は絹糸を思わせるなめらかさをたたえていた。


「私はこの祭壇に祭られた女神です。あなたは、聖剣"レンフェバルド"を求めてこの地へとやって来たのですね?」


「は……はい」


 女神様の神々しい姿に思わず見入ってしまっていた俺は、かぶりを振って答えた。


「女神様。この世界は今、魔王の手によって危機に瀕しております。私は何としてもレンフェバルドを手に入れ、かの魔王を討伐せねばなりません。どうかこの私めに聖剣を授けては頂けないでしょうか?」


「分かりました」


 女神様はうなずいた。


「しかし、レンフェバルドはただの一振りで百の敵を薙ぎ払う、天下に二つとない名剣です。生半なまなかな腕前によって振るわれれば、周囲の者すらも巻き添えにしてしまう事でしょう。邪心ある者の手に渡れば、無辜むこの血が幾千いくせん幾万いくまんと流されてしまうかも知れません。


 この剣を託すに足るか否か? それを計るために、あなたには試練を受けてもらいます」


「試練……ですか?」


「はい。今宵こよいはちょうど天に月輪がちりんの満ちる夜。その輝きが再び姿を隠すまでの期間、私が召喚する聖獣"リパーリア"と戦い、あなたの腕前と心根を示して下さい」


 天に月輪の満ちる日――つまり満月の今夜から新月の日までの十五日間、リパーリアなる聖獣と戦え……と言う意味だろう。


「分かりました。謹んでお受け致します」


「よい返事です」


 女神様は柔らかな微笑みを浮かべた。そしておごそかな所作しょさでほっそりとした両腕を空に掲げ、聖なる呪文を唱え始めた。


 世界平和のため、俺はいかなる困難でも立ち止まる事はない。美しい祝詞のりとのように紡がれる女神様の声を聞きながら、俺は改めて覚悟を固めた――











     ※※※ つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!! ※※※


 ついに古の祭壇へとたどり着いた勇者。しかし、そこで出会った美しい女神様から試練を与えると言われて……!? しかもその内容は、聖獣リパーリアと戦う事だって~!?


 果たして勇者は、聖剣レンフェバルドを手に入れる事が出来るのか!?


 期間中(天に月輪が満ちる時 ~ その輝きが再び姿を隠すまで)、普段はとっても優しい女神様が召喚した『聖獣リパーリア』と戦おう!!


 戦闘結果に応じて『女神ポイント』をゲット! 一定数ポイントを貯めると、ガチャが回せるゾ!!


 ガチャからは、目玉アイテム『聖剣レンフェバルド』を始めとした豪華賞品がザックザク! 戦力強化の大チャンスだ!!


 さらになんと! 期間中は別次元の勇者達と協力プレイが可能だ! 自分が倒し損ねたリパーリアを別次元の勇者達に討伐してもらおう! 討伐に参加した勇者全員に女神ポイントが進呈されるから、とってもオトク! 積極的に参加しよう!!


 さあ始めよう! 美人で優しい女神様の試練!!







「……はい、じゃあ始めましょうか~」


 なんか始まった。


 空中に光る文字が現れ、訳の分からん単語の混じった微妙にセンスのない文章が出て来た。


「今から聖獣リパーリアと戦ってね。期間中は何度でも挑めるし、勝てなくても女神ポイントは貰えるからどんどん挑戦してちょうだい。あ、怪我とかは女神パワーで何とかするから無問題よ!」


 全く理解の追い付いていない俺に向かって、女神様はビシッと親指を立てる。


 違う。問題はそこじゃない。


「……あの、女神様?」


「ん?」


 今や神々しさなど欠片も残っていない、酒場の気さくなねーちゃんみたいなノリの女神様に戸惑いつつ、俺は口を開いた。


「……すみません。サッパリ理解出来ません」


「え? そう?」


 女神様は首をかしげる。


「要するにね? レイドボス倒して女神ポイントもらって、それでイベントガチャ回してねって話なんだけど。分かる?」


 だからガチャって何だ。


「……分かんない? だから、レイドやってポイント貯めてイベガチャを回して」


「分かりましたから。全く分かりませんが、とにかく分かりましたから」


 早々に理解を断念し、俺は話を打ち切る。


「そう? まあ、やってりゃそのうち分かるわよ。じゃあ早速召喚しましょうか。……よいしょー」


 そう言って女神様は手を振った。すると空中に魔法陣が現れ、輝くような白い毛並みの見上げるほど大きな狼が飛び出して来た。こいつが聖獣リパーリアなのだろう。


「んじゃ頑張って戦ってね~」


 そう言うと女神様は光に包まれ、そのまま姿を消した。


 ……何か軽いノリに出鼻をくじかれたけど……。


「……まあいい。来い、リパーリアッ!! 俺はお前を倒し、必ず聖剣レンフェバルドを手に入れてみせるっ!!」


 気合いを入れ直し、俺は聖獣へと向かって行った。






「……あら~。こりゃまた派手にやられちゃってるわね~」


 ――十分後。


 ズッタボロにやられた俺は地面に転がされ、再び姿を現した女神様から枝の先でツンツンつつかれていた。


 ……強っ!! 聖獣リパーリアあいつめっちゃ強っ!!


 何あの生命力っ!? 斬っても斬っても全っ然倒れる気配がないんだけどっ!? 攻撃の方も最初は何とか凌げていたけど、しばらくしたらとんでもない威力の全方位魔法攻撃が飛んで来てアッサリやられちゃったんだけどっ!?


「な……何なんですかあいつの強さはぁっ!?」


「何って……レイドボスなんだし、当然でしょ?」


「しかも最後のあの魔法、一体何なんですかっ!? アレ、以前に戦った魔王の配下でも一発で消し飛ばしてしまえるくらいの威力ありましたよっ!?」


「そりゃそうよ、レイドボスなんだし。いつまでも戦いが終わらなかったら困るでしょ? だから、一定時間経ったら一発で全滅する攻撃出すよう設定しといたの」


 相変わらず全く意味の分からない説明だった。


「ほらほら、気を落とさないの。さっきのリパーリアに与えたダメージは別次元の勇者との戦いに引き継がれるから、ムダにはならないわよ。それに今の戦いで、ガチャ一回分の女神ポイントが貯まったわ」


 そう言って女神様は空中に文字を出す。確かにガチャとやら一回分のポイントが貯まっているのが確認出来た。


「じゃあ……早速回します」


 に落ちないものを感じつつも、俺はそう答えた。女神様の指示通り、空中に現れた『一回分引く』の文字に触れる。何にせよ、これで聖剣レンフェバルドを手にする事が出来る。これまでの苦労も報われるというものだ。


 祭壇に光の粒子が集まる。粒子はやがてひとかたまりの光となり、夜空へと打ち上げられる。光が空中で弾け、まるで太陽のような明々あかあかとした輝きを森の木々へと振りまいた。


 やがて光が収まり、空から白く輝く何かがゆっくりと降りて来る。


 俺は両手をそっと差し出し、聖なる輝きをまとったそれを受け止めた――



 ■ガチャ結果

  薬草 × 1



「…………」


「あ、薬草が出たのね。まあ聖剣じゃなかったのは確かにちょっと残念かも知れないけど、それでもケガした時には役立つからよかったじゃない」


「…………」


 呆然と薬草を眺める俺の肩をポンポン叩きながら、女神様は言った。


 念のため言っておくが、薬草なんてどこの一般家庭にも置いてある、ごくありふれた代物だ。もらって嬉しい気持ちなど全くない。


「……あの、女神様?」


「何?」


「……これ、聖剣以外のものも出るんですか?」


「え? 当然でしょ?」


『でしょ?』と言われましても。


「出て来る賞品はランダムよ。まあ何度も回していればいつかは出るし、運がよければ一発で出る可能性だってあるんだから」


「……ちなみに、これ以外の賞品って……?」


「あ、確認したい? ……ほいっと」


 例によって女神様が空中に文字を出した。




 残 999 / 1000


  聖剣レンフェバルド   1

  不死鳥の霊薬      9

  マウラ帝国時代の金貨  10

  聖霊結晶(赤)     20

  聖霊結晶(青)     20

  聖霊結晶(黄)     20

  聖霊結晶(緑)     20

  薬草          899 




「……まあこんな感じだから。仮に聖剣が出なくても豪華賞品ばかりだし、回せば回すだけ得をするわよ」


 "豪華賞品"とやらの九割が薬草なんですが。


 …………ま……まあ、不死鳥の霊薬も結構な貴重品だし、マウラ帝国時代の金貨も高値で売れる。聖霊結晶も……一応魔法強化のためにそこそこの頻度で使うし、持っていて損はしないだろう。特に不足もしてないけど。


 何より、一〇〇〇回やれば確実にレンフェバルドが出て来るのだ。世界のためにも、ここが踏ん張りどころだと思う事にしよう。


「じゃあ頑張ってね~」


 女神様はそう言い残して姿を消した。






 ――試練開始から三日目。


 ■ガチャ(一〇連)結果

  薬草 × 10



「ド畜生めっ!!」


 俺は呪いの言葉を吐きながら、今しがた手に入れた薬草×10を地面へ叩きつけた。


 死にものぐるいで戦った結果が薬草だよ!!


 基本薬草しか出ねえよこのガチャ!!


 たまーに聖霊結晶(青)とかが混ざっているけど、嬉しいって気持ちがこれっぽっちも湧いて来ねえよ!!


「今日も頑張ってるみたいね~」


 ゼイゼイと肩で息をする俺の前に、女神……様が現れた。いかんいかん。うっかり呼び捨てしそうになった。恐れ多い事だ。反省しなければ。


「そんなあなたに朗報よ。私の女神パワーで、別次元の勇者達と交流させてあげるわ」


 別次元の勇者……か。


 確かに俺も、薄々存在を感じ取っていた。


 だって時々、現れた時点ですでに虫の息な聖獣リパーリアが召喚されて来る事があるし。あれ絶対、別次元の勇者達と何回も戦ってるだろ。ヨタヨタした足取りでこっちに来る聖獣をちょっと斬ったら、派手な断末魔と共に倒れた……なんて光景を見た時なんて、何とも言えない気分になったよ。


「あなたの書いたメッセージが次元を越えて共有されるって仕組みよ。別次元の仲間達と苦楽を共にすれば、頑張る気持ちも湧いて来るってものよ」


 苦しいばかりで楽しかった事など一度もないです……とノドから出かかったの

を、俺はかろうじて抑えた。


「なるほど。では早速見せて下さい」


「ええ。ほいしょー!」


 女神様が手を振ると、例によって例のごとく空中に文字が現れる。そこには、別次元の勇者達が記したメッセージが書かれていた。



         ※※※  雑談板  ※※※


『薬草ばかり出ます。ガチャ排出率を見直してくれませんか?』


『九割が薬草って絶対おかしいです。何とかして下さい』


『リパーリアとの戦いがストレスです。強くて気が抜けない割に戦法そのものは単調なので、すぐ飽きます。テコ入れ考えた方がいいですよ』


『ガチャ九割が薬草とかクソワロス』


『ここの女神絶対クソだわ』


『最高のイベントです!! リパーリアとの戦いは緊張感があっていいですし、ガチャを回す時は毎回ワクワクします!! これは燃えるゾ~!!』


『他の方が指摘している通り、薬草ばかり出るガチャが不満ですね。こんなんじゃすぐ勇者離れ起こしますよ』


         ※   ※   ※   ※



 ほぼ不満しか書かれてねえ。


「どう? 頑張ろうって気持ち湧いて来たでしょ? ほらほら、せっかくだからあなたも書いてみたら? この石版を渡すわ。これを使えばメッセージの書き込み、確認がいつでも出来るようになるわよ」


 そう言って女神様は俺に一枚の石版を差し出した。これにメッセージを書けばいいらしい。


 俺は黙って石版を受け取り、以下のように書き記した。



『皆さんのおっしゃる通りですね。ガチャ排出率がおかしいです。あとリパーリアとの戦いも単調で飽きます』






 ――四日目。


 俺は例の石版を使って、メッセージを確認した。



         ※※※  雑談板  ※※※


『最高のイベントです!! リパーリアとの戦いは緊張感があっていいですし、ガチャを回す時は毎回ワクワクします!! これは燃えるゾ~!!』


         ※   ※   ※   ※


 いつの間にか、これ以外のメッセージが消えていた。






 ――五日目。


         ※※※  雑談板  ※※※


『ここの女神、都合の悪いメッセージは消すんですね。失望しました。信仰するの止めます』


『クソすぎワロタ』


『クソすぎて草も生えんわ』


『嫌な予感はしてましたが、ここまで悪質だったとは……』


『楽しいイベントですね!! 最高です!! ガチャから賞品が出ないなんて言うガセが出回っているようですが、全くの嘘ですよ!! 皆さん騙されないで!! こんなイベントがドンドン増えると嬉しいゾ~!!』


『上の書き込み、絶対女神の自演だろ』


『最悪だな』


『何で賞品が出ないにすり替わってんだよ。薬草ばっか出るって話だろうが。ふざけんなクソ女神』


『いいからさっさとレンフェバルド出せ』


『薬草とかもう要らんわボケ』


『クソ女神滅びろ』


『クソ女神滅びろ』


『クソ女神滅びろ』


         ※   ※   ※   ※


 荒れてた。






 ――六日目。


         ※※※ 女神様からのお知らせ ※※※


 ご好評頂いているメッセージ機能ですが、諸事情につきサービスを一時停止させて頂きます。復旧時期は未定です。


 勇者の皆様にはご迷惑をお掛けしますが、何とぞご理解のほどよろしくお願い致します。


 今後とも『つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!!』をよろしくお願い致しま

す。


         ※   ※   ※   ※


 逃げやがった。





 ――七日目。


        ※※※ 定期メンテナンスのお知らせ ※※※


 平素より『つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!!』をご愛顧頂きましてありがとうございます。


 下記の日時にてメンテナンスを実施します。


 ■メンテナンス期間

  本日の早朝 ~ 正午まで


 ■注意事項

 メンテナンス中は試練、ガチャを行えませんのでご注意下さい。


 今後とも『つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!!』をよろしくお願い致しま

す。


         ※   ※   ※   ※


 先に言えや。


 そして正午になってもメンテナンスは終わらなかった。


 丸一日ムダに過ごした。






 ――八日目。


        ※※※ メンテナンス終了のお知らせ ※※※


 平素より『つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!!』をご愛顧頂きましてありがとうございます。


 先日の早朝より行っておりました定期メンテナンスでございますが、先ほど終了致しました。


 当初の予定よりメンテナンス時間が長引いてしまい、試練を受けて頂いている勇者様達に大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ありませんでした。


 お詫びとして、下記の品を全勇者様に配布させて頂きます。


 今後とも『つかめ! 古の聖剣レンフェバルド!!』をよろしくお願い致しま

す。



 ■お詫びの品

  薬草 × 5


         ※   ※   ※   ※


 さては詫びる気ねえな。






 ――十二日目。



 ■ガチャ(一〇連)結果

  不死鳥の霊薬 × 1

  薬草     × 9



「やったー……不死鳥の霊薬だー……」


 言葉とは裏腹に、俺に嬉しい気持ちなど全くなかった。


 ただただ苦行。


 この一言に尽きた。


 もういいよ薬草は……。


 カバンが青臭くなるんだよ……。


 食事に混ぜてムリヤリ消費してるけど、それももう飽きたんだよ……。


 食いたくねえよ青臭いスープなんて……。


「やっほー、楽しんでるー?」


 あ、女神だ。


「……あのさ。いつ聖剣レンフェバルド出るの?」


「言ったでしょ? いつかは出るって。聖剣以外の賞品だって、魔王討伐の旅に役立つものばかりだし」


「いいんだよもう……。そう言うよそ行き用の言葉は要らないんだよ……。ぶっちゃけ、今さら薬草なんてもらったって何の役にも立たねえんだよ……」


「……何かあなた、最近態度に遠慮がなくなって来てる気がするわね……」


「気のせいだよ。それより女神、それ・・なんだ?」


 俺は女神の左手を指した。


 土汚れの着いた軍手がはめられていた。


 ちょっと薬草が引っかかっていた。


「え? ……あ、いっけない。ごめんねー」


 そう言って女神は軍手を引き抜き、懐にしまい込んだ。


 九〇〇個もの薬草の出所が何となく分かった。


「まあ細かい事は気にしないで。まだポイントは余ってるんでしょ? ばんばんガチャりなさいよ」


「はいはい。分かったよ……」


 俺は気のない手付きで『一〇回引く』に触れた。


 例によって例のごとく、見飽きた演出が――


 ……あれ?


 何かいつもと違うぞ?


 普段より輝きが強いし、色合いも派手だ。


 俺の戸惑いをよそに、普段とは違う虹色の光がゆっくりと降りて来る。


 まさか――と思いつつ、俺はそっと光を受け止めた。



 ■ガチャ結果

  聖剣レンフェバルド × 1



「おっめでと――――う!!」


 どこからか取り出したハンドベルを派手に鳴らしながら、女神が叫んだ。


「よかったじゃな――い!! これで聖剣レンフェバルドはあなたのものよ!! いやー、全てはこんなにも楽しいイベントを考え出したこの私の功績だわー!!」


 いやつまらんかった……と言いたい気持ちをまずはぐっと抑える。


「よ……よっしゃああああああああっ!!」


 次に、腹の底から絞り出すように歓喜の雄叫びを上げた。


 やったよド畜生!!


 ようやくこの地獄から解放されるよ!!


 ようやくこの女神から解放されるよ!!


 もう金輪際ごめんだよこんな試練!!


 頼まれたってもう二度とやらねえ!!


 クソッタレが!!


 高々と両手を突き上げる俺の胸中に、あらゆる言葉が渦巻いた。


 何にせよ、これで魔王討伐に必要な剣が手に入ったのだ。


 戦いはまだまだこれから。俺は改めて己の使命を噛みしめ、魔王討伐の決意を新たに――


「じゃあ次行きましょうか」


 ………………。


「…………は?」


「は? じゃなくて。イベントガチャのラインナップ第一弾は終了したんだから、次は第二弾に挑戦しなきゃ」


「…………は?」


 俺の問いには答えず、女神は例の文字を表示させた。



 残 2000 /  2000


  聖剣レンフェバルドの宝玉 1

  不死鳥の霊薬       9

  マウラ帝国時代の金貨   10

  聖霊の結晶(赤)     20

  聖霊の結晶(青)     20

  聖霊の結晶(黄)     20

  聖霊の結晶(緑)     20

  薬草           1900



「…………」


「はい、じゃあ説明するわね。聖剣レンフェバルドはそのままだと本来の実力を発揮出来ないから、その力を解放しなきゃダメなの。イベントガチャを回して、今度は『聖剣レンフェバルドの宝玉』を入手してね!」


「………………」


「賞品の合計数はなんと第一弾の二倍! ガチャを回す嬉しさも二倍ね!」


「……………………」


「あ、ちなみにこのガチャ第八弾まで用意してるから。残された期間は少ないかもだけど、頑張って聖獣と戦ってじゃぶじゃぶポイントを稼いでね! じゃあ早速」


「ふざけんなクソ女神いいいいいいいいいいっ!!」


 目の前のクソに向かって、俺はあらん限りの罵声を叩きつけた。






 ――後日。


 魔王の待ち構える城へ向かう俺の耳に、とあるうわさ話が舞い込んで来た。


 古の祭壇の女神が天界へ呼び戻され、創造神からこってり絞られた……と。


 数多の次元の勇者達から怒りを買ったのが原因なのだ……と。


 あくまでうわさ話だ。本当の事なのかどうかは分からない。


 ただ俺は静かに、噛みしめるようにこう思った。


 ざまあ。

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聖剣と女神とイベントガチャ 平野ハルアキ @hirano937431

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