第9話 スタンピード

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 昨夜はあの後、お風呂へ入ってすぐに寝ました。

 今は昨日できなかった魔力操作の訓練をしているところです。

 気になるのは、前回やっていた時より魔力量の伸びが良く感じることですが……。


(ゴォーン ゴォーン ゴォーン…)


 おや? 三の鐘です。もうそんな時間でしたか。

 循環していた魔力を鎮め、下へ降ります。


「あ、お姉ちゃん!」


 階段を降りるとすぐにメルちゃんが飛びついてきます。

 何故か気に入られたようなんです。

 まあ可愛いのでいいですが。


「おや? 今日は遅かったね?

 朝食は出来てるよ。今日はオークの残りをスープに入れたから、美味いよ!」


 そう言ってニカッと笑うレイラさん。

 なるほどたしかに、いつもよりさらに美味しそうな匂いが私の鋭い嗅覚を刺激します。


(ぐるるるる)


「はっはっは!

 正直なお腹だね? ほら座って待ってな、すぐ持ってくるから。」


 ……ものすごく恥ずかしいです。

 顔を真っ赤にしながら辛うじて返事を返します。

 他に人が居なくて良かったです……。


 なんとか平静を取り戻した頃にレイラさんがお盆に朝食を乗せて持ってきてくれました。


「ありがとうございます。あぁそうだ、追加でもう二泊お願いします。」

「あいよ。……はい、これお釣り。昨日までと同じで良かったんだよね?」

「はい、お願いします」

「お姉ちゃん、まだ泊まってくれるの? やったー! 夜遊びに行っていい?」


 嬉しそうなメルちゃんから視線をレイラさん

へ向けると、コクンと一つ頷いてくれました。


「ええ、いいわよ」

「ほん!? わーい!」


 すごい喜びようですね。なんでこんなに気に入られたんでしょう?


 ちなみにレイラさん夫婦には敬語のままです。

 今更変えづらいのと、冒険者関係ではない上に彼女相手なら問題ないと判断しました。


 あ、オークのスープ、美味しかったです。



◆◇◆

 朝食を終えたらすぐにギルドへ向かいます。昨日手に入れた剣の試し切りをするついでに何か受けようと思いまして。


 しかし、今日は何やらものすごく見られます。

 昨日もチラチラとした野郎どもからの視線は感じましたが、今日はガン見です。それも老若男女、エルフにドワーフ、果てはそこら辺の動物にまで。なぜでしょう?

 考えてもわからないのでほっときましょう。


 ギルドの依頼は四種類あります。

 一つは常設依頼。依頼を受注する必要はなく、需要の高い採取物や繁殖力が高く森から溢れやすい、つまりはスタンピートを起こしやすい魔物の討伐証明を持ってくれば、報酬が貰えます。


 昨日、一昨日と私が薬草と引き換えに受け取っていたのがこれの報酬ですね。

 ちなみにスタンピードを起こしやすい魔物とはおなじみゴブリンやオークなどです。


 また繁殖力が強いわけではありませんが、スライム種の討伐も常設依頼としてあります。成長すると厄介なことになるという理由だそうです。

 なんでも、街一つ飲み込む災害級の固体が過去に何度か確認されているとのこと。


 災害級とは魔物の強さを識別するもので、Aランクにあたります。


 他に、Sランク相当を厄災級、SSランク相当を天災級、SSSランク相当以上を神災級と言うそうです。

 Bランク以下は特に何か特別な呼称があるわけではなく、Gランクまであります。


 人間がFランクからなのに対して魔物にGランクがあるのは、人間のランクのパーティ(4〜6人)=魔物のランクとなっているからだそうです。

一対一なら一つ下のランクまでの魔物が妥当とのこと。


 ぶっちゃけEランク以下はあまりあてにならないそうですが。Aランク以上も参考以上にはならないとか。うん、全然だめじゃないですか……。


 ちなみにゴブはG、オークはDになります。


 ん? ということはベアルさんは少なくともCランク以上の実力という事ですね。まあ、あの見た目なら不思議ではありませんが。これは偏見ですかね?


 話が逸れました。

 次は通常依頼です。


 これはランクごとに仕分けてあり、上下一つずつまでのランクの依頼を受けることができます。

 ただし、Dランクの場合、例えCランクのものでもまだ護衛依頼は受けられません。盗賊に襲われた時、護衛なのに殺すのが怖くて戦えないじゃあ困りますから。


 三つ目は指名依頼。

 依頼を受ける相手を依頼者側が指名します。

 これは断っても罰則などはありませんが、場合によっては依頼者との関係が悪化することになります。

 護衛依頼が多い関係で指名されるのは基本Cランク以上ですね。依頼者と個人的に関係があったり、何か特殊な技能がある場合はDランク以下でも指名される事はありますが。


 最後に緊急依頼。 

 これはギルドや国が、スタンピードが起きた時などに出す依頼です。

 指定されたランク以上は強制参加、正当な理由なく参加しなかった場合罰則があります。具体的には冒険者ランクの降格に罰金です。

 指定ランクはその時によって異なりますが、これも基本的にはCランク以上ですね。



 ということで、私はDランクとCランクの依頼を見ています。しかし目ぼしいものはありませんね。


 仕方がないので常設依頼だけ確認して適当に狩ることにしましょう。



◆◇◆


「スタンピードだ!」


 そんな声が聞こえたのは、依頼書の貼ってあるボード――クエストボードというらしいです。これ、言い始めたのは黒髪黒目の異邦人らしいんですよね……――から離れ、ギルドから出ようとした時でした。


 声の主は、今しがた入り口から駆け込んできたボロボロの男女。さすがに私への視線もなくなり、その場の全員が彼らに注目します。


 エルフの男性と、おそらく猫の獣人。どちらも森での行動やスピードに優れた種族です。

 装備も軽装で、音がなる金属装備は見当たりません。

 二人とも斥候職でしょう。


 となると、彼らを先に行かせ、魔物を食い止めているだろうパーティメンバーがいることが予想されます。


 声が聞こえてすぐに駆け寄ったギルド職員の方が依頼を見ていた私たちに向かって叫びます。


「鬼系種族のスタンピードが発生しました! これより緊急依頼を発令します! Dランク以上は強制です!」


 どうやら私も強制参加みたいですね。

 

「確認された最高ランクはオーガジェネラルのA! 冒険者の皆さんは直ちに北門へ向かってください!」

 

 しかし鬼系ですか。それならちょうどいいです。魔物との初戦闘がまさかスタンピートになるとは思っていませんでしたが。


「今仲間が時間を稼いでいるが、時間はさほどない! 表層の半ばで遭遇した。急いでくれ!」


 さきほどのエルフの男が叫びます。

 それを聞いて私たちは急いで北門へ向かいました。



◆◇◆

 門につくと、ボロボロになった鎧のドワーフらしき人物や魔法使いのような格好をした人族など、先ほどの彼らのパーティメンバーらしき人たちが門を通るところでした。

 検問待ちだったと思われる旅人達は予想通り外側の門をくぐったところにある広場に待機させられています。


「冒険者たちが到着した! 道を開けてくれ!」


 門兵の一人が叫び、人垣が左右に分かれます。そこを走り抜ける私たちが見たのは、森の奥から押し寄せる鬼たちでした。


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