第2話 転生

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「異世界転生、しませんか?」


 一瞬、俺の時間は止まる。これまで何度も考えたことがある。特に推薦のための試験勉強漬けの日々の中で。しかし、まさか本当にできるとは思うまい。もちろん答えは決まっている。


「喜んで!!」





 しかし、反射的に答えてしまったが、さっきの魂のエネルギー云々が理由で転生も危険なのではなかったのだろうか?

 そんなことを考えていると。


「一つ、可能な世界があります。主が実験的に作った世界で、総じて強度が高く、あなたの影響はこのままでも比較的小さいです」

「比較的小さいということはそれなりにあるんだな。それで、このままじゃなくするんだろ? どうすんの?」

「まず、その世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界です。………」


 少々長い説明をまとめると、

『その世界では色々魂のエネルギーを使う機会があるからそれで魂のエネルギーを減らしましょう。ちなみにこんなことに使います。


・生き続ける。

・スキルを覚える。

・称号を得る。

・自分が進化する。

・スキルが進化する。

・転生後の体を構築する。容姿を決めてくれるとなお良し。


他にもあるけど例外とかほんの少しだけとかだからこれだけ覚えといてね』


 といった感じだ。


「ご理解いただけたようでなによりです。……世界から隠蔽することは言わなくていいでしょう」


  最後何か言っていたようだが、聞かせるつもりはないようだ。


 しかし、容姿も決めたほうがいいのか。前世と同様でもいいが、性転換というのも面白いかもしれない。さて、どうしようか。


「そういえば、他種族、エルフとかいるのか?」

「はい、います。転生も可能です。」


 となると、あれがいいかな。


 その後、スキルなんかと合わせて相談した後、いよいよ俺は旅立つことになる。


「先ほどもいいましたが、魂のエネルギーは生きることで消費され、一定量を下回れば死にます。ぜひ長生きしてください。

 最後に、あなたは魂の強度やエネルギーの関係で他者よりスキルを得やすいでしょう。その分強くなります。

 もしあなたの心の在り様に問題があった場合、手間ですが、魂の完全消去を行なっていました。

 なぜ、私が記憶をもったままの転生を許したのか、よく考えて生きてください」


 そう管理者が言い終わった瞬間、礼も、返事もする暇なく、俺の視界は暗転した。





◆◇◆

  あたりに人の気配を感じない森の中、一人、美しい少女が立っていた。


 歳は高校生くらいだろうか。光沢を放つ長い白銀の髪は、光の加減で薄い青みがかっているようにも見える。背は170センチに足りないくらい。透き通るような、アメジストを思わせる瞳は、ボンヤリと森の木々を見つめている。

 胸は巨とつくものには僅かに届かないだろう。しかし形がよく、若さを感じさせる。ややつり上がった目元に、引き締まった腰、そして長い両脚には色気を感じさせるものがあった。


 そんなどこか妖艶な雰囲気を漂わせている美少女―――俺だ。いや、だってロマンだろ? 銀髪美少女吸血鬼。


 それはともかく、そう、吸血鬼、それが俺が選んだ種族だ。もちろん上位種の『真祖』。

おっと、吸血鬼と言うとめちゃくちゃ怒られるんだった。正しくは『吸血族』だそうだ。


 そんな種族で大丈夫かって? 問題ない。この世界は一部の地域を除いて『吸血族』も含め他種族への差別はないらしい。『吸血族』の国もあって他国と堂々と交易をしている。何よりロマンだからな! ……その一部が怖いが。

 しかしここはどこだろうか? まさか西大陸だったりしないよな? ここ。『東大陸』ならいいが、『西大陸』だとかなり過激な人族至上主義の宗教国家があるらしいからな。

 ………まぁないか。長生きしたほうがいいらしいし。最低でも一般には知られていないもう一つの大陸ということはあるまい。


  とりあえず、今の自分の状態を確認しよう。というわけで教えられた方法を試す。


「自分のステータスを鑑定!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<ステータス>

名前:no_name(川上弘人) /F(M)

種族:吸血族(人族)

年齢:18(18)

スキル:

《身体スキル》

鑑定眼 言語適正 魔力視 神聖属性適性 吸血lv5 高速再生lv3

《魔法スキル》

ストレージ 創翼lv5 飛行lv3 隠蔽lvMAX


称号:転生者 吸血族の真祖 12/10^16の奇跡 強き魂 副王の加護


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 誰もいない森の中に、俺の言葉が木霊する。

 ぶっちゃけ、声に出す必要はなかったのだが。まあいいか、内容を確認しよう。


 まず、名前はまだない。これはあとで自分でつけろと言われた。


 ()の中は前世の俺のだな。鑑定されても見えないし、魂が世界に馴染めば勝手に消えるらしい。


 表記は見るものに合わせて変わるらしいので、英語とか日本語に見えるのはそうゆうことだ。


 次にスキル。

 管理者と相談して取ったのが<鑑定眼>、<言語適正>、<隠蔽>、<魔力視>、<ストレージ>の五つ。

 なんでもっと取らなかったかと聞かれたら、取らせてもらえなかったと答えることになる。周りへの影響云々とか、俺が思い上がらないようにらしい。


 それはともかく、スキルの説明だ。


 本来<鑑定>は魔法スキルでレベルがあり、魔力を使用するので相手によっては使ったことがバレる。しかし<鑑定眼>は魔眼の一種でレベルがなく、身体スキルなので魔力は使わない。魔眼の一種なので精度は魔力に依存するらしいが、俺の魂のエネルギー量ならば魔力も高くなりやすいため最高レベルのlv10を超えるものを期待できる。


 <言語適正>は管理者に勧められた。無いと詰むから必ずと。


 <隠蔽>は主に称号を隠すため、最高レベルである。そりゃ【転生者】とかあったら騒ぎになるだろう。


 <魔力視>は読んで字のごとく。魔力を視覚的にとらえられる。


 <ストレージ>は、あれですよ。よくあるやつです。もちろん時間経過は無しで、収納量は無制限にしてもらった。

 うん、十分チートですね。チートは無いって聞かされてましたけど、はい。ありがとう!!

 とは言っても<ストレージ>という名前のスキル自体は珍しくない。下位スキルに収納量スキルレベル依存の<収納魔法>があり、そこからスキル進化で得る人がそれなりにいるらしい。普通の〈ストレージ〉の収納量は魔力に依存するようだが、そこまでいってる時点で魔力が少ない人はいないだろうから問題ない。……あれ? そんなにチートじゃないかも。まあいいか。


  次は種族の固有スキル。<吸血>、<高速再生>、<創翼>、<飛行>がこれにあたる。

 読んで字の如くだからそんなに説明はいらないだろう。

 レベルが既に高いのは俺が『真祖』だからだ。一般的なレベルは、だいたい平均して<吸血>が三、<創翼>が三、<飛行>が二、<高速再生>は下位スキルの<再生>で七といったところらしい。


 <神聖属性適性>は管理者の空間に長くいたからだろうか。まぁいいや。ちょっと問題はあるかもしれないが。


 続いて称号。


 【転生者】はいいだろう。これといって効果は無いし。少なくとも今の俺には見えない。


 【吸血族の真祖】は日光下で活動が可能になるのと、僅かにだが、スキルとは別に再生能力が得られる。

 あとは他の『吸血族』に尊敬されるぐらいか。


 【強き魂】は俺の魂が強いことを言っているだけだろう。これは聞いてなかったし、〈鑑定眼〉でもそれ以上の情報は見られないから推測だけどな。


 【副王の加護】は、管理者のものだと思うが、なぜ『副王』?

 ……いや、まさか、ね。


 んで、【12/10^16のキセキ】も聞いてなかったからよくわからん! ただ、十の十六乗分の十二って数字には覚えがある。陽子の半径だ。俺の魂に当たったのって陽子だったのか?

 …………考えても分からないな。ほっとこう。良い効果もあるようだし、持っていて悪いことにはならないだろう。






◆◇◆

 今私は、自分の勘に従って森の中を歩いています。

 そんな適当に歩いて大丈夫か? と思われるかもしれませんが、そこは例の“キセキ”さんが働いててくれるでしょう。

 というのもあの称号、悪運がものすごくあがるようですから。単純な運も少し上がります。とはいっても生存率0%ならどうしようもないです。その名の通り0の確率からきた奇跡ではないのですから。……“キセキ”が本当に“奇跡”かは知りませんが。


 え? 一人称? 話し方? それはもちろん変えますよ。今の私は女の子ですからね? 町についてからも大丈夫です。話し方に気遣いながらメチャクチャ独り言言って練習しましたから。……人のいない森の中で良かったです。【寂しい人】って称号が生えましたよ……。グスン。

 あぁ、そういえばここ、魔物がいるんでしたね。全然会いませんが。キセキさんが働いてくれてたようです。キセキ様様ですね。


 飛行の練習もしたいのですが、まず町まで行かなければ安心して練習できません。できれば野宿は勘弁して欲しいので。



 まだ町は見えませんね。幸い。私の選んだ『吸血族』は身体能力に優れた種族ですから、疲れらしい疲れは感じていません。主に膂力に優れ、再生能力など多彩な特殊能力を持つというのは、日本でのイメージ通りでしょうか。

 とはいえ、地球でいう化け物の吸血鬼とはまったくの別物です。

 血は儀式で飲むくらい。趣向品になることもありますが、普通、人のものは含まれません。

 あ、たとえ儀式でも同性からの吸血を避けるところは一部の地球産と同じですね。なんでも性的快感を感じてしまうとか。


 あとは、そうですね。不老不死ではありませんが、若い期間が長い半不老長寿です。普通の『吸血族』がだいたい三百から五百年。真祖は最低でも千年です。見た目の年齢は、個人差はあるものの多くは二十前後で止まるそうです。

 これがこの種族を選んだ理由の一つですね。


 ちなみに、アンデッドとしての“吸血鬼”が別にいるので、そう呼ぶと滅茶苦茶怒るらしいです。



 まだ森しか見えませんね。種類まではわかりませんが、常識外に巨大な木なんてものもありません。

 世界樹でも見えたらここが『東大陸』と確定するのですが……。

 そう、世界樹ですよ世界樹! 行きたいですよね! いえ、絶対いきましょう!

 エルフが守っているらしいので、ぜひエルフの人と仲良くならねば!

 四大国を主にした国々からなる『東大陸』は、ほかにも様々な種族が暮らしているらしいので、回るのが楽しみですね。


 逆に『西大陸』にはできるだけ近づきたくありません。そちらは純粋な『人族』以外を迫害する人の多い地域らしいですからね。『吸血族』の私がそんなところへ行ったら、どうなることやら……。最悪奴隷にされます。


 とまあ、色々管理者から聞きましたが、やはり自分の目で見なければいけませんよね!

 楽しみです。


 ――おや?あれは城壁でしょうか?……ですね。奇跡さん流石です。

 それでは行きましょう。


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