第35話 触手令嬢と会長の激昂
術と魂……?
一体どういうことでしょう。ヒロ様と修行なんて、そのワードだけで胸が躍りますが。
「お前は剣こそ不得手だが、昔からかなりすばしこい。
体術の成績もかなり良かったはず。それもあったから、ルウラリアを助けられたのだろうが――
お前自身まだ気づいておらん力が、その身に秘められているやも知れぬ」
ヒロ様の秘められた力……
なんだかここにきて、胸ときめくキーワードがいっぱいですね。
これはヒロ様、間違いなく勇者として覚醒するフラグですわ! いえ、わたくしにとっては間違いなく、世界でただ一人の勇者様ですけれど。
「今ちょうどあのバカが、学生用の術開発装置の研究をしていてな。
先日ようやく、そのプロトタイプが仕上がったところだ」
「あのバカ……あぁ、父さんのこと?」
「善は急げだ。こうなればヒロの件をあいつにも話し、早速装置を使ってみようぞ!」
「え、えぇ!?」
「だいじょーぶじゃ! 何人も人柱……じゃない、何度も性能実験はしておるし、身体に悪影響はないのは実証されておる。
あのバカはバカではあるが、その仕事に関してだけは天下一品じゃからな」
さすがおじい様、話が早い。
何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしましたが、多分気のせいでしょう。
おじい様はひょいと席を立つと、早速リビングから飛び出していきました。
「安心せい!
あ奴が首を縦に振らんようなら、ぶん殴ってでもかっぱらってきてやるぞい!!」
そのままおじい様はドドドと屋敷じゅうに響く轟音を立てて去ってしまわれました。
サクヤさんは勿論、ソフィもスクレットもその勢いに気圧されるばかり。会長でさえも。
「ふぅ……嵐のような人だったね。
さすが、魔物研究の第一人者グラナート子爵。
でも、ヒロ君の修行については悪くない案かも知れないな」
「えぇ? 会長まで……」
ヒロ様は状況についていけないようですが、会長はにっこり微笑みます。
「確かに僕も、ヒロ君の底力は見るべきものがあると考えてる。
試す価値はあると思う。君が本当に、強くなりたいと願うならば」
「……」
「何も、レズンたちを叩きのめせと言っているわけじゃない。
しかし、彼らから身を守る手段は必要だろう。自分だけじゃない、周囲の者たちを守る為に。
何より――もし君が、まだ心からレズンを信じるというのなら。
まだ彼の良心を信じ、元の関係に戻りたいと願うのなら。
恐らくその力は、必要になる時もあるだろう」
それを聞いて、ヒロ様はじっとご自分の手を見つめました。
ヒロ様――あれだけのことをされても、未だにレズンを信じているのでしょうか。
わたくしにはそれだけは理解出来ませんが。
「……分かったよ」
やがてヒロ様は、決心したように顔を上げました。
「ルウ。悪いけど、じいちゃんの言う通り、俺の修行に付き合ってくれないか。
修行って言っても、何やるのか全然分からないけどさ――
じいちゃんと父さんのことだ。命まで取られはしないと思うから」
うぅ。何と嬉しいことを言ってくれるのでしょう!
ヒロ様と修行……ということはヒロ様に思う存分、合法的に、あんなこともこんなことも!?ということですね!!?
「うふふ。ヒロ様、その言葉を待っていましたわ~!
わたくしならいつでもオッケーの3連呼ですよ♪
ふふ、うふふ、一体どのような装置なのでしょう……ヒロ様の手足をきゅうっと締め上げてお洋服のスキマに思う存分触手を……あぁあぁ、考えただけで頭がくらくらですわぁ~!!」
「……少なくともじいちゃんの監視下だろうし、お前の思うようなことにはならないと思うけど?」
そんなヒロ様とわたくしをよそに、会長も立ち上がりました。
「さて。残る問題はミラスコについてだが――
これも早急に手立てを考えなければね。
とりあえず僕は、レズンのミラスコを強制的に無効化する手段を考えてみるよ」
むぅ……まだその問題もありました。
いくらヒロ様が強くなったとしても、奴のミラスコを何とかしなければ思うように動けません。
わたくしは提案してみました。
「奴に電撃を食らわせて、懐のミラスコを破壊するわけにはいかないでしょうか?」
出来ればレズン本体ごと破壊したいですけどね。
しかし会長は首を振ります。
「それも考えたが、最近のミラスコは高性能でね。多少の電撃や水没、爆発程度ではビクともしないことも多いんだ。
恐らくレズンの持っているそれは最高級の性能を誇る。ということは、めったなことでは壊れない――つまり、破壊による無効化は諦めた方がいい。
それにもし破壊出来たとしても、レズンの手下たちが同じ写し絵を所持している可能性もある」
うぅ。だとすれば、残る手段はどうしても限られてきますね。
「だが、その写し絵があるミラスコを一つでも確保出来れば、話は違ってくる。
このような虐めが横行しているという、何よりの証拠になるからね。学校も動かざるを得なくなるし、場合によっては憲兵も動くことになるだろう」
「け……憲兵まで?
そんな。俺、そこまで事を大きくしたくないよ。
だって……レズンたちは、ただ遊んでただけで……」
思わず眼を丸くするヒロ様。しかし会長は容赦しません。
「遊びだから何だというんだ。
君の大切な人が酷く傷つけられ命を落としても、君はそう言うのか。
あくまで遊びの延長だったと、犯人が主張したら。ふざけていただけ、いつもやってることだ、みんなやってることだ、死ぬとは思わなかったと!
それで君は許せるのか? 僕は無理だね」
いつの間にか、かなり激しい言葉になっている会長。
ヒロ様はかすかに震えながら、彼を見上げるばかりです。
「君はそれだけの被害を受け、レズンはそれだけの傷を君に負わせている。
レズンが君にやったことは学園内だから、子供だから、今まで見逃されていただけだ。
大人の社会で同じことをやれば、たちどころに憲兵が呼ばれ、裁判沙汰になるレベルの罪なんだよ。
そのことを――君も、自覚してほしい。自分の負った傷を」
そんな会長に――
ヒロ様もわたくしもサクヤさんも、勿論ソフィたちも、誰も反論は出来ませんでした。
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