異世界転生を断った僕は、異世界で義理の姉と生活します

りんごちゃん

さよなら秩序の向こう側へ

第1話 

 ――なんでこうなったんだ。


 白く朽ちていく世界で、少年は走っていた。

 ビルは崩れ、空は割れ、全て、塵になっていく。


「誰か、だれか。だれでもいいから!」


 息が切れる。自分の心臓の音で頭がおかしくなりそうだ。

 何も聞こえず、誰も答えない。

 見慣れた風景が、日常が、真っ白に、漂白されていく。空白になっていく。


「姉さんは、僕のたった一人の家族なんだよ」


 涙がこぼれ、額をつたい、顎から落ちて、消えていく。


「姉さんを返してくれよ、お願いだから」


 身体から力が抜ける。


「僕が悪いのか」


 両ひざをつき、首を垂らして、地面にうずくまる。

 少年の前には、もう、道は続いていなかった。


「せめて、姉さんだけでも、助けて、ください」


 少年の肩に、背中に、頭に、みるみるうちに、灰が積もる。

 消える世界の亡骸が、積もっていく。


「僕が悪いのか」


 何度も繰り返す恐怖と自己嫌悪の中、くすんだ記憶が脳裏を蝕み、少年を吐かせる。


「僕が――――異世界転生を拒否したから」


 空からビルが降ってくる。

 倒れるマンションの影が少年を覆う。


 少年は、途絶えた道路に載ったまま、小刻みに震えていた。

 全ての気力を失っていた。

 大きな風切り音が少年に迫る。

 ビルが倒れる。破片が散り、砂煙が舞う。

 それすらも、世界が消えて、灰になっていく。

 塵になって、風になって、切れていく。


「さぁ、始めよう――」


 煙が晴れると、横たわった高層マンションの真ん中に、赤い傘が咲いていた。

 傘の下には、上を見上げる少年と、それを見下ろす一人の少女がいた。


「――――私たちの異世界転生を」 

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