【短編】悪役令嬢扱いされて責任を押し付けられていたあの子を助けようとしたら、俺も一緒に追放された。追放されたらあの子と付き合えてスキルも性格も相性ばっちり!

ぐうのすけ

第1話

 男爵家三男の俺【クロノ】は15才になりパーティーに出席する事になった。


 俺は馬車に乗って街道を進んでいく。


 正直言って面倒だ。


 男爵家の三男なんてパーティーに居ても居なくてもいいだろ。


「はあ~」


「クロノ、そうため息をつくな。お前の考えは大体分かるが、1回は王に顔を挨拶しに行くんだ」


「はい、分かりました」


 正確には挨拶しようとしにパーティーに出席すればいいのだ。


 王族はいつも囲まれていて男爵家の三男まで丁寧に話しを聞く余裕はないだろう。






 会場に着くと、俺は笑顔を作る。


 一応一通りの礼儀教育は受けているのだ。


「クロノ、久しぶりね」


 振り向くと、メリーが声をかけてきた。

 メリーは周りから【悪役令嬢】扱いをされている。

 17才でおっとりした性格。

 言い合いが苦手で、いじめられやすく、責任を負わせられやすいからだろう。

 俺はメリーが好きで、メリーは果物でしゅわしゅわする飲物を作ってくれたり、本を読んでくれたりした。

 体を触っても怒らないし、一緒に居て安心できるのだ。

 薄紫色の髪と黒い瞳で、目は少しだけたれ目で優しい顔をしている。


 俺はぱあっと明るくなった。


 父は分かりやすく本当の笑顔になった俺を見て「まったく、調子のいいやつだ」とぼやく。


「メリー、一緒に話をしよう!」


 俺はメリーを引っ張って会場の隅に引っ張る。


「こ、こら!王に挨拶をせんか!」


「混んでて挨拶は出来ないよ。今日は無理じゃないかな?」

 そう言って父を無視してメリーと話をする。


 立食パーティーなので適当にメリーの分の料理を取ってくる。


 メリーは貴族の人混みが苦手だ。


「持って来たよ」



「ありがとう」


 俺は声を抑えて言った。

「この料理よりも、メリーが作った料理の方がおいしいね」


 メリーのスキルはポーション作成。

 ポーションを作るには【発酵促進】や【調合】などの能力が必要になる。


 ポーション作成スキル持ちの料理は旨いというのが俺の持論だ。


「もお、ダメよ。そんなこと言っちゃ」


「そうだね、ここで言うのは良くないよね」


 おっとりしているけどメリーは大人だ。







 楽しくメリーと話をしていると、俺とメリーの前で1人の女性が自分のドレスを踏んでテーブルに転倒した。


 テーブルの上にあった料理が第四皇子の服にかかり、スーツが汚れる。


 転んだ女性は周りを見回すが、メリーを見ると口角を釣り上げた。


「悪役令嬢のメリーがわたくしに足を引っかけたのですわ!」


 あいつは!性格が悪いって有名な侯爵令嬢の【ワルツ】


 俺は反論する。

「違う!メリーはそんなことしていません!」


 メリーは転んだ女性に睨まれ少し震えていた。


「このような真似!許されませんわよ!あなたのせいで王子の服に汚れがついてしまいましたわ」


「それよりも、王子の服を着替えませんと。そ、それと王子にお怪我はありませんか?」

 メリーは震えながら言った。


 確かに責任の押し付け合いより王子の服とケガが問題だ。


「私は問題無い。気にせずパーティーを続けよう」

 王子は笑顔で答えた。


「しかし!もしも王子にナイフが当たっていたらと思うと、わたくし、メリーの悪行が許せませんわ!」


 こいつしつこいな。


 俺はメリーを庇う様に前に立つ。


「王子が皆を気遣って無かった事にしてくれているのです。楽しくパーティーを続けましょう」


 その後、侯爵令嬢はどうあってもメリーに責任を押し付けようとし、俺の父とメリーの父と母は、俺とメリーに罰を与えるという事でなんとかその場が収まった。





 ◇





 俺とメリーはパーティーが終わり泊った後、次の日には2人揃って領地から追放され、辺境への馬車に乗る。


「メリー、すまなかった。俺が黙っていた方が良かったかもしれない」


「そんな事無いわ。守ろうとしてくれて嬉しかった」


「追放された事実は変わらない。楽しい旅行にしよう」


「ふふふ、まるで新婚旅行みたいね」


「え?結婚してくれるの?」


「それは、これから向こうで生活してみないとどうなるか分からないわ。一緒に生活できるのかどうかも分からないもの」


 メリーは心配そうな顔をしていた。


 俺が出来る範囲になるけど、メリーを守ろう。





 ◇





 辺境にたどり着くと、新しい家が立ち並び、きれいな街並みがそこにはあった。


「ここ、辺境だよね?どう見ても俺が居た領地より発展してるんだけど?」


「そ、そうね。私の居た所より発展してるわ」


 俺達はすぐに領主館と思われる建物に案内された。


 中に入ると第四皇子が笑いながらこちらを見つめる。


「やあ、私の領地へようこそ。今日から君たち2人は私の部下として働いてもらう。そうそう、君たち2人には両親から手紙を預かっているよ」


俺とメリーは王子から手紙を渡された。


「ここですぐ開けて見て欲しい」


 俺はすぐに手紙を開ける。




 ____________________


 クロノ、お前を王子の部下として送る。


 侯爵令嬢の気を晴らすためお前とメリーには罰と見せかけたご褒美をやる。


 王子とメリーの親とで話し合って決めた両親が認めた2人の仲だ。


 メリーを幸せにするんだぞ。


 父より





 もうクロノと会えなくなってさみしくなるわ。


 中略


 メリーとクロノの子供が見たいわ。


 中略


 メリーと2人の子供を連れて遊びに来てね。子供を見せて。


 中略


 孫を見せに来るのはクロノの役目です!


 母より


 ____________________



 父上!いい仕事をしてくれたよ。


 父に感謝!


 だが、母の文が長い!


 後、孫を見せろって何回書けば気が済むんだよ!


 追放されているのに見せに行けるのか?


 メリーと俺はお互い手紙を読み終わり、顔を見つめ合った。


 王子が笑い出す。

「あははははは!良い反応をする。追放は形だけで、侯爵令嬢を納得させる為だけのものだ。私の権力でねじ伏せることも出来たが、それよりも王族が手を下さずに自滅してもらった方が都合がいいからね」


「自滅?それはどういう?」


「それは答えられないが、後で分かるよ。クロノとメリーが結婚して子供が出来る頃には解決しているはずだよ」


「は、はあ」


「さあ、今日はゆっくり休んで、明日から仕事だ」


 王子は手を叩いた。




 俺はテンションが上がった。


 王子認定のメリーとの結婚!


 俺とメリーは家に案内された。


 俺は軽い足取りで全部の部屋を見て回る。


「1階が大部屋にキッチンとトイレ、温泉まである!2階は5部屋あるぞ!」


「クロノ、少し落ち着きましょう」


 飛び回る俺を見て猿のように見えたのかもしれない。


 でも、メリーと一緒に暮らせる。


 昔から好きだった。


 テンションが上がらないわけが無いのだ。


「実家より豪華だし、食材も配給される!新婚生活出来るって!」


「それより今日は休みましょう。私はお風呂に入って休むわ」


「一緒に入」「駄目!」

 いつもはのんびりしてるメリーの反応が早すぎる!だとお!


 その日は結局違う部屋で眠る。





 ◇





 俺とメリーは朝早く目覚めた。

 メリーがパンとベーコンエッグを作る。


 メリーの作るご飯はおいしいのだ。


「これは絶対新婚生活だ。でも、お風呂一緒に入ってくれないし、違うベッドで寝るのも嫌だ」


「も、もう少し痩せてからね」




 俺は食事を食べた後メリーの後ろを取ってメリーの脇腹と腿を触る。

 影斥候のスキルを持つ俺にとってメリーの背後を取る事は容易。

「ひゃ!」


「うーん。丁度いい。痩せなくていいから一緒にお風呂に入ろう」


「お、お尻が大きいから。触らないで」


 真っ赤だ、可愛い。


 メリーの後ろ姿も好きだけど、言わないでおこう。


 今言っても納得しない気がするからね。


 後で定期的に100回以上メリーの体も好きだって言うと決めた。


 それに見た目だけで好きになったんじゃない。


 性格やメリーの優しそうな笑顔、下の者への態度も含めて好きなのだ。


 俺がメリーの顔をじっと見つめるとさらに赤くなった。


「そ、それよりもお仕事と家事の話をしましょう」


 メリーが話を逸らす。


「仕事は、俺が街の周辺調査と薬草なんかの素材採取でメリーがポーション作成だよね。俺が薬草を取ってくるよ」


「ありがとう。家事は全部私がやるよ。生活魔法とポーション作成のスキルで洗濯も掃除も家でやっていたわ」

 メリーは汚れ落ちの良い薬品を作るのも得意だ。

 俺は掃除が出来ないし、メリーにお願いしよう。


 だが、 


「それだと俺は家事をメリーに任せる事になるけど?」」


「私が奥さんになるんだから私がやるよ」


「……もう一回言って」


「い、いいから、さ、仕事だよ」


 俺の背中を押して外に出す。

 優しく押されるのが気持ちいい。


 俺は家の隣の物置に入ってスキルを使う。


「影!」


 俺の姿をした黒い分身が13体出現した。


 俺のスキルは【影斥候】


 偵察と採取2つに特化した能力だ。


 13体の影に籠と短剣を持たせ、街の周りを探索してもらう。


「さて、俺も準備しますか」


 俺はつばの無い刀とナイフを装備して街の周りを探索する。






 熊を発見!


 俺は後ろから熊の首を刎ねる。


「影収納!」

 熊を影に収納する。


 昔は熊が苦手だったが、今は普通に倒せる。


 こうして大量の獲物と素材をゲットして薬草以外を納品して家に戻る。


 家の中に人の気配が多い。


 俺は刀を持ったまま家に入った。


 中には王子とその護衛の兵士、更に大工が揃ってメリーの食事をおいしそうに食べていた。


 ほとんど男か。


 大部屋には昨日無かったはずのテーブルが追加され、店のようになっていた。


「どういう状態?」


「ここには男の人が多くて家庭の味に飢えてるって聞いたの」


「で?みんな分の料理を作ったと?」


「そうね」


 メリーの料理は家庭の味よりうまいから家庭の味とは言えない気がする。


 王子が話しかけてくる。


「メリーのおかげで野菜たっぷりの料理を皆に美味しく食べてもらう事が出来そうだ」


「もしかしてここを食事屋にするつもりかな?」


「それも考えて1階を大部屋にしてそれ以外の部屋と分けてある。ポーション士が作る料理はどれもおいしい」


 それには同意だ。


「メリーは優しいから乱暴されないか心配だ」

 俺はいつの間にか王子とため口で話していた。


 王子が指摘しないからそのまま話そう。


「大丈夫だ。何かあったらその場で殴るよ。女性の護衛と手伝いもつけよう」

 王子は本当に殴るだろう。


 身のこなしを見ると戦闘訓練を受けているのは分かる。


 俺の前でメリーが乱暴されそうになったら俺が止めるけどずっとべったりくっついて守ることは出来ない。


 俺は安心して席についた。


 メニューは無く、今日は皆同じ料理らしい。


 メリーが俺に食事を持って来た。


「ありがとう」


「ふふ、どういたしまして」


 やっぱりおいしい。


 毎日メリーと暮らしてメリーのご飯を食べて生活出来るのか。


「この料理なら、人が毎日集まってきて、忙しくなりそうだね」


「当分は昼前と夕方の2食を決まったメニューで作るわ」


 王子はメリーの負担も考えている、か。


 さすが王城の策謀めぐる中で生き抜いただけある。


 バランス感覚は嫌でも身につくか。


 こうしてメリーは昼と夜の2食を大量に作り、合間にポーションを作り、俺は大量の肉と素材を採取しつつ索敵をする生活を続けた。


 しかもお互い無理はせず、自分のペースで仕事が出来る。






 一方その頃、メリーに責任を押し付けた侯爵令嬢の【ワルツ】は、真の悪役令嬢としてのイメージを固め、見栄の為に浪費を重ね、領の運営を圧迫していった。


 領民に圧政を強いた事で領地から人が逃げ出し更に領地の経営が圧迫されるが、それでも贅沢を辞めなかった。


 苦しい生活で領民が税を安くするよう懇願に来る。


「お願いです!税を安くしてください」


 ワルツの領主である父は、懇願を一切聞かない。


「ほうり出せ!しつこいようなら殺しても構わん!」

 領民に聞こえるように怒鳴る。


 更に領民は逃げ出し始め、人が少しづつ減り始めた。





 ◇





 俺とメリーは、働きを認められ、俺は男爵の爵位を手に入れたが、メリーは「クロノと結婚するので」と爵位を断った。

 最高の言葉、頂きました。


 贅沢ではないけど、満ち足りた生活。


 メリーも俺も皆に必要とされ、街は発展していった。


 特に真の悪役令嬢であるワルツの領地から人が定期的に逃げ出してきて人口が増え発展は急速に進む。


「メリー。この土地に来て1年経つ」


「そうね。早いものだわ」


「結婚しよう」


 メリーが俺を見て固まった。


「結婚しよう」


「メリー、本気なんだ。結婚しよう」


 俺は何度でも言おう。


 結婚したい。


 「は、はい」


 俺はメリーを抱きしめた。





 その頃ワルツは、婚儀を片っ端から断られ、領主である父の爵位も伯爵に下がった。


「お前は何回結婚を失敗するのだ?」

 父はワルツに呆れる。


「わ、わたくしには、ふさわしくない相手でしたわ」


「お前のせいで追放されたメリーは男爵の妻になったようだ。早く結婚を決めろ」


「ふ、ふん。男爵程度との結婚、大したことはありませんのよ」


「お前の婚儀がうまくいかねば、我が領地は子爵の地位に落ちるだろう。もしうまく結婚できないようなら私がお前の結婚を決める」


「1年もあれば、結婚して見せますわ」


「分かった。1年だ。それ以上は待たん」


 領主は出て行った。


「メリー。わたくしを差し置いて悪役令嬢のあいつが!き~~~~~~~~~!」


 癇癪を起して部屋のテーブルや物に当たり散らした。


 ワルツにとって同い年のメリーが結婚する事が腹立たしかった。


 ワルツは知らない。


 結婚以前に真の悪役令嬢が自分自身で、メリーが皆から必要とされている事に。






 ◇





 俺とメリーがこの土地に来て2年が経った。


 メリーと俺の子供が生まれ、街はさらに発展した。


「なあ、俺の母から孫を見せろって手紙が何回も来るんだけどまだ赤ちゃんを連れての旅はきついって返した」


「私も同じよ。それに王子が【ワルツの家が思ったよりしぶとい】って愚痴を言っていたわ」


「あの王子怖すぎだろ。でもそろそろ子爵に落ちるんだろ?」


「そうみたいね」


「ま、どうでも良いけどな」


 そこに王子が訪ねて来た。


 もう王子とは公の場以外完全にため口で話している。


 王子は俺とメリーの子を抱っこしようとして泣かせた後本題に入る。


 基本パパと男は赤ちゃんに嫌われるのだ。


「クロノ、今日から子爵な」


「ん?」


「それとメリーとクロノの両親がここに移住してくる。どちらも長男に家督を譲ったようだ」


「んん?」


「今近くに建てている家が移住用の家だ。大きくはないが住みやすいように工夫してある」


 動き早くね?


 どっちの長男も結婚してるけど子供はまだ出来ていない。


 こっちに来て兄達に孫が出来たらどうするんだろ?


 また戻るのか?


「一応言っておくと、私は第四王子で兄達より力の無い私を助けてくれる者は少ない。両家は協力してくれる数少ない味方だ」


 政治的なやつね。


 それと俺とメリーには本当の事を言う誠意だろう。


「それとクロノとメリーを追い出す原因になったワルツの家は子爵の地位に落ちて、メリーとクロノの家の長男が子爵に上がる。もうワルツはこちらに手出し出来ない」


「ワルツの家の領地から周りに人が逃げて俺達の兄と王子の力が強くなったのか」

 ワルツの家を囲むようにこの領地と兄たちの領地があるのだ。


「それもあるが、メリーのポーションのおかげで、流行り病の死者が抑えられたが、ワルツの領地は多くの死者を出した。クロノが大量に取って来た薬草でメリーが大量のポーションを作る事で、死者は大幅に抑えられ、この領の収益が激増した。その収益が無ければこれほどの街の発展はなかっただろう」


 メリーがやさしく微笑んだ。


 メリーは昔から人助けが好きでその笑顔も優しさも好きなのだ。


「ワルツは失敗した。自分で足を踏んで転んだ責任を押し付けるのではなく、全力でメリーとクロノを味方に引き入れるべきだった」


「見ていたのか?」


「見ていたが黙っていた。前も言ったが、政治的な理由で王族が手を下さずワルツの家が勝手に自滅して欲しかったんだ」


「そろそろシチューが出来るわ」


 人が集まってきて今日もメリーの食事屋が開店した。


 俺は食事を取りながら考えを巡らせる。


 王家にとって手を下して滅ぼすより、放置して滅ぶならその方が恨みを買わずに済んで都合がいいだろう。







 しばらくすると、俺とメリーの両親が家に尋ねて来た。


 最低限の挨拶をした後、4人はメリーとメリーを抱いている赤ちゃんに群がった。


 後ろには4人のメイドが控える。


 そうなるよな。


 4人は孫を抱きつつ話をして盛り上がる。


 まだ親の家は出来ていないぞ?


「なあ、まだ家が出来ていないけどどうするんだ?」


「クロノ、しばらくこの家で厄介になる」


「2人目はいつ作るの?」


「5人は欲しいわね」


「長男の次は女の子が出来るまで作って欲しいものだ」


「そうか、皆いるし、俺は仕事してくる」


 両親が揃い俺は不利な状況に追い込まれた。


 迅速に仕事に行こう。


 両親はメリーには優しくするが、俺へのあたりが強いのだ。


 俺はいつもより3時間ほど早く仕事を始めた。






 ◇





【この街に来て3年】


 2人目の子供が生まれて、俺は第四王子の右腕と呼ばれるようになっていた。


 兄やメリーの兄の領地の魔物を狩り、そのついでに大量の薬草を採取する。


 そんな時、兄と話をしてワルツが幽閉されている事実を知った。






 少し前のワルツ。


 ワルツは結婚できず、親に怒鳴られた。


「もう待てん!私が結婚相手を決めた!」


「も、もう少しで結婚できますわ」


「くどい!この領の為役に立て!」


 こうしてワルツはオーク侯爵と呼ばれる領主の元に嫁ぐ。






 夜になりワルツはオーク侯爵の屋敷に入る。


 わたくしがオーク侯爵と結婚!


 ありえませんわ!


 なぜお父様はこのような愚かなことをしたのですか!?


 ワルツは分かっていなかった。


 オーク侯爵と結婚する事で、領地を援助してもらう政治の道具にされている事を。


 




 オーク侯爵を見てワルツは震えあがった。


 ぶくぶくと太り、顔は醜く、何よりワルツを見る目が、獲物を狙う獣の目のようで恐ろしい。


 オーク侯爵はワルツのあごに手を当てて品定めをする。


 ワルツを人ではなく物のように扱いワルツは鳥肌が立った。


「ふん、顔は悪くないが、気の強そうな女だ。丁度いい」


「な、何がですの?」


「服を脱げ!」


「何を言ってますの?」


「ふん、お前のような気の強そうな女を調教して分からせるのが俺の楽しみだ。安心しろ。7日もすればたいていの女はおとなしく従順になる。断ったらお前の父の領地は取り潰しだ。黙って従え」


 ワルツは服を脱がず父を呪った。


「おい!早く脱げ!それともわしが手伝ってやろうか?」


 ワルツの服を掴んで引き裂く。


「ひ、ひいいい!」


 ワルツは燭台を掴んでオーク侯爵を殴り、屋敷を飛び出した。


「ぐう!貴様あああ許さんぞおおお!」


 ワルツは上位の貴族を殺しかけた罪で捕まり幽閉された。


 後にワルツの父の領地は取り潰しとなる。






 ◇





 俺が夜家に戻ると、メリーが出迎えた。


「お疲れ様」


「ただいま」


「2人はどっちも寝たわ」


「お疲れ様だったな。所で、ワルツが罪人になって家が取り潰しになったのは聞いたよな?」


「ええ、聞いたわ」

 

「2人揃って追放された時は、どうなるかと思ったけど、ワルツがおかしな行動を取ってくれたおかげでメリーと結婚できた。今思えば追放されて良かったと思うよ」


「本当に、何が起こるか分からないものね」


「俺は色々欠点もあるけど、メリーが補ってくれている。俺は今幸せだ」


「私もクロノと結婚できて幸せよ」


「もっと話をしたい。一緒にお風呂に入ろう」


「分かったわ」


「やっと一緒にお風呂に入れる」


「服も体も汚れてるから早くきれいにしましょう」


「そっちか」


「どうしたの?」


「イチャイチャしたいって意味だった」


「でも、体が汚れているわ。体をきれいにしましょう」


 メリーが俺の背中を優しく押して風呂に向かう。


 俺は子供の頃の用に世話を焼かれ続けるんだろう。





 ◇





「え~ん!え~ん!」


 俺が8才の頃、昔から走り回っていた俺は、転んでひざから大量の血が出て来た。


 たくさん血が出て怖くなってわんわん泣いた。


 たまに領地に遊びに来て面倒を見てくれる年上の女の子が駆け寄る。


 メリーとは昔から遊んでもらっていて、おとなしいメリーの周りを走り回ってはしゃいでいた。


 いつも走る俺とおとなしいメリー。


 性格は違うが気づいた時には仲が良かった。


「まあ、傷を見せて」


 手持ちのポーションで俺の傷口を塞いだ。


 メリーは10才にしてすでにポーションを作ることが出来た。

 天才なんだと思う。


 貴族としては攻撃魔法や戦士としてのスキルの方が重宝されているが、俺には関係ない。


 思えばメリーの作ったポーションで何回傷を癒したか覚えていない。


 それ程メリーには世話になった。





 俺のスキルは戦士より少し戦闘が苦手な【影斥候】だったが、戦闘訓練は頑張った。


 一人でメリーの居る屋敷に遊びに行きたくて、早く親に認められたかった。






 俺は12才で魔物を一人で倒せるようになり、一人でメリーの屋敷に行く許可をもらう。


 馬は貴重で俺は3男。


 走って向かうしかない。


 俺は影斥候、走るのは得意だ。


 戦士のような戦闘力は無いが、俺には自分のスキルが誇らしかった。


 メリーが居たからそう思えたと今振り返ると思う。


 メリーの屋敷に遊びに行く。


 いつも大量の薬草を持って行く。


 俺が薬草を持って行くとメリーが「ありがとう」といい、メリーがポーションを作ると両親から俺とメリーが褒められる。


 それが嬉しくて俺は【影】の分身を何度も使い薬草を集める。


 森の魔物を狩り魔物の肉を影に収納しメリーの屋敷に持って行く。


 森を走り回り、いつの間にか兄より強く、父より強くなっていた。


 俺とメリーのコンビでお互いの領地は豊かになり、病人も減る。


 俺は領民にポーションをあげる時必ず言う。


「隣の領主の娘のメリーが作ったんだ」


「メリーは優しいからメリーにも感謝して」


「メリーが病人を救いたいって」





 追放された後も、メリーが作ったポーションを親と、おじさんおばさんの元に持って行った。


 必ず言う。


「メリーが作ったポーションだ」


 メリーが笑う顔が好きで俺は小さい時から薬草を集める。


 メリーに薬草を渡す俺を見て父と母が笑う。


「まるで子犬のようだ」と。


 そうかもしれない。


 でも、それでいいんだ。


 俺が目を覚ますと、メリーが隣で寝息をたて、すやすやと眠る。


 俺はメリーに抱きつく。


「ふぁ!もう朝?」


「違うよ。まだ外は暗い」


 俺はメリーの瞼を閉じる。


 朝になるまでメリーの顔を見ていよう。





 ◇




 朝日が差し込む。


 俺がベッドから起きると、メリーはベッドで布団を被ったまま座って朝日をしばらく見る。


 メリーの癖だが、俺は気を許してぼーっとしたその顔が好きだ。




 いつもと同じ、幸せな1日が始まった。

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