タイムスリップJD

花道優曇華

第1話「2022年→2123年」

当時の出来事を説明するとこうだ。アイは学校帰りに夜遅くの電車に乗った。

疲れで体が重い中、気付けば自分は眠りについていた。この列車は富士駅が

終点だ。ならば眠っていても駅員がすぐに来る。そして彼女を起こすだろう。

それが本当の電車ならば、だが…。



ハッと目を覚ました時に驚いた。何処かの部屋だが自室ではない。ならば駅?

そうでもない。事務所のような場所。そのソファに眠っていたアイは窓から

身を乗り出して辺りを見回す。


「ここは…!?」


壁に張られているカレンダーに目を向けてギョッとする。


「2123年!?」

「お、起きたかい?おはよう。混乱している様だね」


知的な雰囲気のある青年が声を掛けて来た。黒いスーツを着ている。

彼は何か知っている様子だ。


「何かって。電車で熟睡していた君を運んできたのは僕だよ。僕は

ルーファス、よろしくね。ここは僕の探偵事務所だよ。申し訳ないけど君の

所持品を色々調べさせてもらった。2005年生まれって本当?」


頷くとルーファスと名乗った青年は顎に手を当て思案する。


「それで18歳…と言う事は本来君がいるべき時代は2022年。ここから100年前…

タイムスリップか。原因も不明…」

「やっぱり、タイムスリップか。この時代って、どう?」

「偽物だらけさ。大嵐が来た際に、街のほとんどが崩れてそして偽物で溢れ返った。

逆に100年前は?」

「偽物な訳ない。本物だよ。空を完璧に予想することは出来ないし」

「本物で溢れていたというわけか。きっと君の時代のそれが正しいんだろうね。

それにしても、意外と落ち着いているじゃないか」


ルーファスはその胆力に驚いた。そう言われてアイは苦笑した。


「まさか。これでも驚いているよ。でも、原因が分からないんじゃあ帰る術は

見つけられない。飛び降りれば時間を遡れるなら話は別だけど」


時をかける少女、映画があった。その映画の名前もこの時代では残っていない

様子だ。彼の顔を見れば分かる。するともう一人、ルーファスよりもガタイの良い

青年がやって来た。彼もアイの素性を理解している様だ。


「こっちは僕の相棒のナインだ。お腹、空いてるだろ?食べながら話をしよう」

「でも…」

「良いから。探偵事務所も暇でね。君から金をとったりしないから、安心して

頼ってくれていい。100年前の話は今では中々分からないからね」


過去の人間と未来の人間が話すことなんて、誰が想像できただろうか。きっと

誰も想像できない。今、口にしている食べ物もこの時代では人工の食べ物らしい。

味に違和感はない。極限まで本物に寄せた偽物。


「なるほど…眠ってしまって、そのまま君はここに」

「終点だし、油断してたわ。でも、まぁ…帰れるのなら帰るけど、そんなに急いで

ないよ。ゆーて向こうに行っても話すほどの友人はいないからね」

「寂しいこと言うなって」

「あながち間違いじゃないんだなーこれが」


運が良かったかもしれない。偶然にも人の良いルーファスによって発見されて

彼によってここに運ばれて、良い人に会うことが出来た。


「折角だし、僕たちに協力させてくれるかな?君がタイムスリップした原因探し。

それと過去へ戻る方法」

「私もお願いしようと思ってたから、手伝ってくれるなら有難いよ。こっちの世界の

東京は分からないから」

「決まりだね。これから長くなるだろうけど、よろしく」


ルーファスとナイン、彼らに手を借りることが出来た。この100年後の東京は

過去からあまりにも変わり過ぎている。そしてここに来てしまった100年前のアイは

どうやって元の時代に戻るのだろうか。それはこれから探すしかない。


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