第31話 終わりの宴

笑い声に乾杯の音、肉が焼ける音で辺りは賑わっている。

辺境伯領地の真ん中にある広場には魔獣討伐に参加したものたちが集まっていた。

十二日間の討伐は終わり、その魔獣の肉を使っての終わりの宴だった。


当初の予定よりも大型の魔獣が多かったために、討伐の日数も伸びてしまった。

だが、その分だけ食料となる魔獣の肉が多く確保でき、

宴用の肉も串焼きにされて皆にふるまわれていた。


討伐に関わったものだけでなく、辺境伯領地の住民や子供たちも参加し、

焼きたての串焼きにあちこちで歓声があがっている。


師匠とならんで座ると、次々に焼かれた串焼きが運ばれてくる。

大きな肉の塊が三つほど刺さった串焼きは、一本だけでもお腹がいっぱいになりそうだ。

手に取ってかぶりつくと、魔獣の脂とスパイスの味が口いっぱいに広がる。


「おいしい!」


「そうか、どんどん食べて大きくならなきゃな!」


串焼きの美味しさに喜んでいると、いつものように声をかけられる。

もうこのやり取りには慣れてしまったけれど、その度にちょっとだけ傷つく。


「…私のほうが年上なのに…。」


「そう言われてもなぁ。俺よりも小さいんだから仕方ないよ。」


テーブルの向かい側に座っているのは、従兄弟ではなく従兄弟の息子と娘たちだ。

従兄弟たちも討伐に参加する前に会わせてもらったが、年齢が20近くも上で、

従兄弟の子どもたちのほうが年齢が近かったのだ。


従兄弟の子どもたちは上は15歳の男の子から下は7歳の女の子と11人もいた。

さすが辺境伯地の子どもなだけあって、上の子は一緒に討伐に参加したし、

一番下の娘さえも魔獣の解体を手伝っていた。


私が討伐に参加することが知られると、小さいし細いのに大丈夫かと皆に心配されたが、

魔獣を討伐して解体に運ぶのを何度か見られてからは安心されている。

ここでは強いものは評価され、尊敬される場所だと教えられた。

小さいけれど一人で魔獣を倒せる私は、ここでは一人前の扱いらしい。


それでも辺境伯領地の子どもたちは身体が大きい子ばかりで、

こうして食事のたびにたくさん食べて大きくなれとからかわれてしまう。

それだけ仲が良くなったと言えばいいのかもしれないけれど。


「終わっても少しはここに残ってのんびりしていけよ。」


「うーん。修行中だし、のんびりしているわけにもいかないかな。

 ねぇ、師匠?」


「まぁ、三日くらいは残ってもいいけど、他の依頼もあるし、

 いつまでも塔を留守にしているわけにもいかないな。」


「そうですよねぇ。」


「それは残念だな…じゃあ、いっぱい食べていけよ!」


従兄弟の息子は元気よくそういうと、席を立ってどこかへ行くようだ。

友人たちのところへにでも行くのかもしれない。


お腹もいっぱいになったし、ネモの実をしぼったジュースもたくさん飲んだ。

これ以上は何も入らないと思っていると、師匠も食べ終わったようだ。

師匠はお酒を飲むのかと思っていたが、今日は飲まないようで同じジュースを飲んでいた。


「お腹いっぱいになるまで食べたか?」


「はい。もうこれ以上は食べられません。美味しかったです。」


「そうか。じゃあ、散歩にでも行くか。

 ここにいると前辺境伯につかまって飲まされる。」


「ふふ。わかりました。」


どうやらお祖父様や伯父様たちは酒好きらしく、捕まると大量に酒を飲まされるらしい。

師匠は飲めるけれど、そこまで大量に飲むのは好きではないようで、

誘われそうになるとこうやって逃げている。


お祖父様たちは師匠が逃げるのを知っていて、わざと誘っているような気がする。

嫌がりながらもなんだかんだ言って相手してくれる師匠が好きなんだと思う。


宴から抜け出す時、遠くでお祖父様たちが飲んでいるのが見えて、

軽く手を振ると笑顔で手を振り返してくれた。


どこに行く気なのかは知らないけれど、師匠に手をひかれるまま歩き出した。

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