第6話 商会の仕事

レティシアが18歳になって学園を卒業すると、

婚約者フランの子爵家が持つ商会で働くことになった。


週に二度、商会に顔を出して、結婚後も子を産むまでは働いてほしい。

貴族になったとしても商人であることが子爵家の誇り。

だからこそ、フランと結婚するレティシアにも商会の仕事を大事にしてほしい。

それが子爵家夫妻の考えだった。


商会は長男夫妻が継ぐことになるが、それでも万が一のこともある。

しばらくは次男のフランも商会で働かせる予定だったし、

商会のことを何にも知らない妻では困る。


将来的にフランは伯爵家を継ぐために辞めるとしても、

それまでは商会の仕事を手伝わせるつもりだ。

忙しい時期に家に帰らないことを責められたりしないようにとの考えだった。


レティシアは商会で働くことに抵抗はなかった。

むしろ働いた分のお給金がいただけるとあって、

少しでも家の暮らしが楽になるならとうれしかった。


これから双子が学園に入れば、何かとお金がかかる。

二人を嫁がせるための持参金だって必要だ。

自分が働くお金は微々たるものではあるだろうが、無いよりはいい。


こうして張り切って働き始めたレティシアだったが、

商会で働く女性たちはレティシアを目の敵にしていた。



商会で働くもののほとんどは平民で、

貴族の令嬢であるレティシアが同じ場所で働くことが許せなかった。

しかも、相手は商会の次男フランの婚約者だ。


真面目な長男とは違い、次男のフランは女好きだった。

短めの金髪に緑目、細身の体に流行の服。

洗練された格好で遊びなれたフランに、

商会で働く女性たちはもうすでに何人もが手を出されていた。


フランの相手は自分だけ、きっと結婚した後も愛人として囲ってもらえる。

そんな風に思っていた女性ばかりだった。


当然、そんな女性たちから見たら本妻になるレティシアは面白くない。

レティシアの容姿が平民とほとんど変わらない茶髪茶目だったこともあって、

貴族に生まれただけのレティシアが本妻になることが許せなかったのだ。


働き始めたレティシアは、嫌がらせを避けながら地味な雑用ばかりをしていた。

大事な仕事は慣れない者に任せられない。

そう言われて納得したレティシアは、誰でもできる単純な作業ばかりをしていた。


それを見ていた子爵夫妻は、文句も言わずに働くレティシアは良い妻になると思った。

それと同時に、学園を出ているのに単純作業しかできない、

才能のない平凡な子だと判断していた。



ある時、レティシアは書類を届けるように言われた。

それは仕入れ先へと届けるものだったのだが、

確認のために中身を見たレティシアは気が付いてしまった。


仕入れ先への支払い金額が大きく間違っていることに。


金額が間違っているものをそのまま届けることはできないと、

レティシアは商会の経理を任されているジョナスへと報告しに行った。


ジョナスはレティシアがなぜ経理に来ているのかと驚いていたが、

レティシアからの報告を聞いて驚いた。


「これは…。」


たしかに、これはそのまま届けてはいけないものだった。

商会が損するものであれば謝ってすむ話だが、

むこうに損させてしまうのであれば、間違いなく信用問題に発展する。

下手したら詐欺で訴えられてもおかしくなかった。


レティシアが気が付いてくれて助かった。

と思ったと同時に、経理として働いて三十年の自分が、

ここで働き始めたばかりのレティシアに指摘されたことが面白くなかった。


「この書類は受け取るが、今後は余計なことはしなくていい。

 さぁ、職場に戻って!」


「わかりました。」


半ば怒鳴られるように追いだされ、少々不満ではあったが、

レティシアには直接関係ない仕事であったのも間違いない。

余計なことだったのだと納得して自分の仕事に戻った。


この時、たまたま朝帰りして近くを歩いていたフランが見ていた。


「…平凡な外見だけじゃなくて、中身もダメなのかよ。

 あんなのと結婚したら終わりだな…。」


フランが18歳になったら結婚することになっていたが、

結婚式の半年前になって考え直したい気持ちでいっぱいだった。


レティシアと結婚することが嫌だっただけじゃなく、

フランはまだ遊んでいたかった。

だが、さすがに結婚してしまえば両親がうるさく言ってくるのは想像できた。


「何とかなんないかな…。」



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