嘘に決まっている女性トラブル大問題

エリー.ファー

嘘に決まっている女性トラブル大問題

 洞窟の中でこだまする声。

 聞きたくない。

 耳をふさいでも心に届く。

 この恐怖から逃れる術はない。

 自然であるということに囚われている。脱出は不可能だろう。

 距離を置きたいというのに洞窟はついてくる。私が進まなければ洞窟の方から飲み込もうとしてくる。

 光も入ってこない薄暗い世界の中で死にたくはない。

 誰もが同じだろう。


「あたしは悪くないっ。あたしは絶対に悪くないっ。だって悪くないからっ。悪いのは男っ。男っ、男っ」

「女は感情的でゴミクズばかりのどうしようもない存在だから死ねっ。男を敬っていない女は全員死ねっ。クソゴミ女っ」

「女を馬鹿にする男は全員死ねばいいっ。仲良くしてあげようかなって思ったのに、あんたのせいで全部台無しっ、死ねっ、死ねっ、クソ男っ、ゴミ男っ、首の骨が折れて、苦しんで死ねっ、ボケカスっ、死ねぇっ、ボケっ」

「男は生まれた時から絶対に偉いにきまってるっ、女は男の後ろをついてきて、頭を何度も下げてればいいんだっ。社会に出るなぁっ、一生っ、家の中にいて、死ぬまで男の奴隷をやってろっ、ゴミカスクズっ、ボケ女っ、死んで詫びろっ、土下座しながら死ねボケっ」

「あだじぃばぁっ、悪ぐぅないぼぉんっ」

「うぉればぁっ、悪ぐぅだっ、だっ、だぁっ、いぃぃっ、ぼおぉぉぉんっ」

「うばえべぁぁぁっ」

「べうぼおぉげえぇぇぇぇっ」


 本当に凄い洞窟だと思う。

 一体、何があったらこんな言葉ばかりが溜まると言うのだろうか。

 どんな人が来て、どんな思いを抱えていたというのだろうか。

 この会話が世界のどこかで繰り広げられているなんて信じられない。

 そして。

 終わりが見えないというのもまた恐ろしい。

 建設的ではない議論の果てに、いや、果てなど存在しないわけだが、そこに本物の闇を見たような気分になる。

 噂では、洞窟は今この瞬間もどこに生まれているらしい。 

 私のような聞き手が迷いこむのを待っているのだ。

 恐ろしいことである。

 体力と正義と好奇心がいつだって戦いの火ぶたを切って落とし、その後に続く無益な事象のすべてを無視する。もはや、目的はおざなりとなり、果たされるべき約束は形を失くして別の場所で、全くの無関係な人間たちを幸せにする。

 学ぶべき事柄に順序をつけ忘れた者たちの末路である。


「あぁぁっ、だぁじいぃぃっのおぉぉっ、話おっ、おっ、きききききっ、き、聞ぎぃっ、なざあぁぁいっ、いぃぃっ」

「おっ、おでっ、おでっ、のぉっ、話を聞げえええぇぇぇっ、いいがらあぁっ、黙っでえっ、聞げええっ」

「話でるのばぁあっ、あだじぃなあぁのおぉっ」

「おでっ、おっ、俺っ、がっ、先だっだっ、だっ、だっ」

「違うぶぅぅっ」

「それがあっ、違うぶっ、ぶぼげえぇぇっ」


 頭痛がする。

 余り浴びてはいけない言葉の数々。

 眩暈がする。

 立っていられずに壁面に手をつき、深く呼吸をした。しかし、音が言葉が体の中に入りこんでくるイメージに襲われて、吐いてしまった。

 鼻水も垂れてくる。涙も止まらない。

 どうすれば、いいのか。

 誰か、助けてくれ。

 誰か。

 この洞窟を壊してくれ。


「待てよ。私がこの洞窟を壊してもいいのか。誰かに任せる必要はないな。うん、ちょっと頑張ってみよう。意外と脆そうだし、道具がなくても殴ったり蹴ったりすればどうにかなるかもしれない」

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