離れて行った光
綿麻きぬ
最後だ
手を伸ばす。手を伸ばす。暗闇に落ちる僕は見えている光に思いっきり手を伸ばす。届かない。永遠に届かないのは分かっている。光は掴めないのだから。
優しく僕を包み込んでいた光はいつの間にか消えて、一瞬の内に暗闇に包まれた。やっとの思いで包まれた光が遠くに行ってしまった、永遠を感じさせる温もりが感じられなくなった、それに僕は酷く混乱した。
混乱した僕は慌てふためいた。暴れた。抗った。だけど、光はどんどんと遠くへ行ってしまう。離れていく光に僕はどうすればよかったのか。
違う、違う、元から無かったものなのに、それに縋りついていた僕が悪い。実際は光に包まれるのが怖くて、自分から拒絶しただけなのに。それで光が無くなったら、その温かさに気づいた愚か者だ。
やめてくれ、やめてくれ、僕よ。僕を責めないでくれ。僕にはどうすることも出来なかった。あれが精一杯の行動だった。だって、元から光が無かったんだ。それがいきなり光に包まれたんだ。無理だよ。それを怯えないなんて。とても怖かったんだ。
憧れていた光は想像以上のモノだった。だけど、想像以上に僕を苦しめてもいたんだ。いつ消えるかと怯え、いつ僕は溶けるのかと怖がり、いつ僕は後悔するのかと心の奥底で思っていた。
だから、この選択をする。もう光などに包み込まれないと。もう光を求めないと。もう光に怯えないと。僕に光は強すぎたみたいだ。僕は闇に包まれて生きていく。
だけど、最後のお願いだ。知ってしまったことはもう戻らない。もし、もしだ、もしもう一回のチャンスがあるのなら、その時はもう一度だけ、最後だ、その光に包み込ませてくれ。
離れて行った光 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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