第6章 村の危機です。
第45話 ゴブリンコロニーです! 殲滅です!
【第5章あらすじ】
・森の調査。
・収穫物。
ソルティーツリー
ジバク草
魔硬竹
・ジバク草栽培に成功。
・ポーラと交換日記。少しずつ距離を縮める。
◇◆◇◆◇◆◇
村で作業をしていたアレクセイにマーロウが深刻な表情で話しかけてきた。
「坊っちゃん、危険が迫ってます」
「【第六感】か?」
「ええ、そうです」
マーロウのギフトである【第六感】は普通の人に感じ取れないものを察知する能力だ。
「具体的なことは分かりませんが、森の南東部からどうも嫌な気配が感じられます」
「モンスターかな?」
「おそらく。人間の気配ではないようです」
「分かった。早急に向かおう。マーロウは村人たちに警戒態勢を取るように伝えてから、準備してくれ」
「承知しました」
「僕はスージーとメルタに声をかける」
アレクセイは最小限の人数で向かうことにした。
スージーもメルタも森の中で速く移動できるし、たとえ強敵と対峙しても、最悪は逃げ延びれる。
「坊っちゃん、用意できましたぞ」
「アレク様、お姉ちゃんが絶対に守りますからね」
「
「よし、じゃあ、急ごう。イッチ、ニクス、サンカ、村の守りは任せたよ」
「大将、任せてください」
「兄貴、任せろっ!」
「
四人は森に入り、マーロウの【第六感】を頼りに進んで行く。
皆、森の達人だ。
身軽な動き。駆ける速さで木々の間を通り抜けて行く。
つい先日まで足を引きずっていたマーロウだが、ナニーの料理を食べ続けたおかげで、古傷は完治していた。
身体も強くなり、今では全盛期より身体能力が高くなったと、孫の手柄を嬉しそうに語っていた。
「坊っちゃん、この先です」
森を駆けて来たアレクセイたちはマーロウの言葉に足を止める。
アレクセイが木々の間から顔を出すと、ムッとする悪臭が鼻をつく。
肉が腐敗したような独特の臭いを、アレクセイは知っていた。
その先を見ると、アレクセイの予想通り――。
「ゴブリンコロニーか……」
押せば壊れそうな粗末な掘っ立て小屋がいくつか。
百体近くのゴブリンが集落を作っていた。
「マーロウ、調べてくれ」
マーロウは【集中】スキルを発動する。
魔力を消費して、情報を集めるスキルだ。
「全部で九十二体ですな。通常種だけでなく、上位種も混ざってますな――」
マーロウはさらに詳細な情報を伝える。
通常種が69体。
ゴブリンファイターが12体。
ゴブリンアーチャーが6体
ゴブリンマジシャンが4体。
そして、群れを率いるゴブリンリーダー。
「キングやロードが生まれる前でよかったね」
ゴブリンは集団を作る。
そして、集団の人数が増えると、一部の個体が上位種に進化するのだ。
「今の段階なら、この四人でも大丈夫だろう。壊滅しよう」
アレクセイの言葉に、残りの三人はうなずく。
スージーとマーロウはもちろん、メルタの顔にも怯えはない。
何日も森の調査をともにした彼女は、アレクセイに絶大の信頼を寄せている。アレクセイが大丈夫というなら大丈夫だと確信していた。
「メルタは
「(コクリ)」
メルキは新しい吹き矢筒をギュッと握りしめる。
黒光りする魔硬竹でできた吹き矢筒だ。
内部に仕掛けがあり、十二発の毒矢が装填されている。
今まで使っていたのは一発ごとに装填しなければならなかったが、これなら連発できる。
その上、塗られている毒も強力だ。
森で見つけたトリカーブトの毒で、命中すれば確実に絶命させられる。
「マーロウも最初は矢で攻撃。役持ちを狙ってくれ。」
「ええ、この腕前、見せてくれますぞ」
「近づかれた場合だけど、戦えるよね?」
「もちろんです」
「期待しているよ」
最後に、スージーに告げる。
「スージーは――思いっきり暴れて」
「はいっ!」
「まずは、マジシャンとアーチャーから狩ろう。僕とスージーで遠距離攻撃するから、二人も合わせて攻撃だ。その後、スージーと僕は突入。リーダーの首を取る。後は蹂躙だ。よし、始めよう」
スージーは【レッサーヴァンパイア】のスキルを発動させる。
『――操血術』
親指の皮膚を鋭い犬歯で噛みちぎる。
そこから血が溢れ、無数の紡錘形――両端が尖ったレモーンのような形――の粒となって、スージーの周りに展開される。
それに合わせて、アレクセイも魔法の詠唱を開始する――。
詠唱を口で唱えるだけでは、魔法は発動しない。
口で唱えながら、脳裏に文字を思い浮かべなければならない。
そうしながら、魔法の発動をイメージする。
この三つを同時に行うことによって、初めて魔法は発動する。
アレクセイは長年の修練によって、中級程度までの魔法を使える。
魔法ジョブ持ちのように、魔法の威力に補正はかからないし、魔力も多くはない。
ここは先手必勝だ。
アレクセイは自分の魔力のほとんどをつぎ込んだ魔法を発動させる。
『――【
『――操血術【血弾幕】』
アレクセイの声に合わせ、ドンピシャのタイミングでスージーの操血術も発動する。
二人の呼吸はぴったりと合っていた。
そこに、マーロウが矢を放ち、メルタは毒矢を飛ばす。
突然の不意打ちに、ゴブリンたちが混乱している間に、駆け出したアレクセイとスージーは群れの中を突っ切る。
立ちふさがるゴブリンを斬り捨てながら、最奥のゴブリンリーダーに迫る。
ゴブリンリーダーが棍棒を手に飛びかかって来るが――。
『――忠義挺身』
スージーは即座に、アレクセイの前に立ち、スキルを発動させる。
透明な魔力障壁が展開され、リーダーの攻撃を跳ね返す。
それと同時に――。
『――操血術【血斬】』
スージーの手から長く伸びた血流が刃のかたちになり、リーダーの首を斬り落とした。
「【操血術】は反則だね。僕の出番がなかったよ」
「アレク様が授けてくれた力ですからね。さあ、後は残党狩りですね」
「ああ、一匹も逃さないよ」
ゴブリンは討ち漏らすと知らないところで繁殖して危機となる。
ゴブリンの集団は必ず根絶やしにしなければならない。
――その後は、一方的な虐殺だった。
マーロウとメルタは乱戦の外から一体ずつ、確実に数を減らしていく。
そして、乱戦の中では、アレクセイとスージーが絶妙なコンビネーションで、次々とゴブリンを葬り去る。
ゴブリンが全滅するまで十分もかからなかった――。
「坊っちゃん、また、強くなりましたな。それに嬢ちゃんも」
「さすが、
かすり傷ひとつも負っていない完全勝利だ。
だが、アレクセイはこれで終わりだとは思っていない。
「ゴブリンはどこからやって来たのか……いや」
アレクセイはひとつの可能性に思い当たる。
「思っていたよりも厄介な事態かもしれないね。マーロウ、なにか感じる?」
マーロウは【集中】する。
そして、なにかを感じとった。
「こっちの方向からなにかを感じますな」
「よし、そっちを調べてみよう。みんな、油断はしないでくれ」
マーロウを先頭に一行は森へ踏み入っていった。
しばらく歩いていくと――。
「この先ですな」
――急に森が途切れ、開けた場所に出る。
苔むした巨石で組まれた建築物。
ぽっかりと入り口を開けているが、中の様子は暗くて見えない。
「ダンジョンだね……」
アレクセイのつぶやきに、一同の間に緊張が走った。
◇◆◇◆◇◆◇
次回――『ダンジョンです。』
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