第3章 領地改革スタート!

第15話 ナニーにお願い。

【第2章あらすじ】


 ・ウーヌス村に向かったアレクセイらはモンスターに襲われている村長アントンと孫娘リシアを助ける。

 ・村に到着し、リシアの母ディーナ他、病気や怪我で苦しむ村人を治療。

 ・ナニー料理で宴会。村人の胃袋を掴む。

 ・領主宣言で村人の心も掴み、臣下に加え、ギフトを付与する。

 ・異世界から来たご先祖様が遺した『ベーシックインカムへの道』を参考に、ベーシックインカム実現を目指す。



   ◇◆◇◆◇◆◇



 ――翌朝。


 アレクセイとスージーは長年の習慣で、日の出とともに目を覚ます。

 昨日は初めての出来事ばかりだったし、眠りについたのも遅かったが、若い二人の顔に疲労の色はない。

 支度を済ませると家を出て、開けた場所に移動した。


 軽く身体を動かした後、アレクセイは直剣、スージーは二本のナイフを構える。


「さあ、やろうか」


 二人が五歳のときから続けている朝の日課だ。

 雨が降ろうが、体調が悪かろうが、一日も欠かしたことはない。


 向かい合って打ち合う二人――。


「アレク様っ、昨日とは別人ですよっ! お姉ちゃんビックリですっ!」

「ああ、自分でも驚きだよ」


 二人とも幼少期から鍛えてきたおかげで、剣の技量は中々のものである。

 そのうえ、アレクセイはこの一日で生まれ変わったと言えるほどの力を手に入れた。


 昨日、多くの村人を臣下に加えたことで、【名君】が新しいスキルを覚えたのだ。

 それは――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【シナジー効果】


臣下の能力の一部が君主に反映される。

また、君主の能力の一部が臣下に反映される。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 五十人も臣下が増え、その能力の一部がアレクセイに上乗せされたのだ。

 その結果、並の戦闘系のギフト持ち程度なら、軽くあしらえるだけの強さをアレクセイは手に入れた。


 素早い動きと重い攻撃で、アレクセイはスージーを追い詰めていく。


「もう、お姉ちゃんじゃあ、勝てないですぅ~」

「スージーの剣は僕を守るためにあるんでしょ。僕に勝つ必要はないんだよ」

「それでも悔しいです~」


 これまで、剣の技量ではスージーがアレクセイをわずかに上回っていた。

 逆転されたことを悔しがるスージーだったが、彼女の本当の力が発揮されるのはアレクセイを守るとき――それが彼女のギフト【忠臣】だ。


 だが、頭では分かっていても、悔しいものは悔しい。スージーは必死に喰らいついていく。


 二人の修練は朝食の時間まで続いた――。


「朝ごはんですよ~」


 【管理栄養士】のギフトを得たナニーが、お玉とフライパンをカンカンと鳴らしながら、村中を回って伝える。

 その声に、朝早くから農作業をしていた村人たちが続々と広場に集まって来た。


「ナニーちゃんのご飯、楽しみだなあ」

「匂いだけで腹の虫が動き出したぜ」

「ごはんっ! ごはんっ!」


 ナニーは昨日の宴会で、早くも村人たちの胃袋をガッシリと掴んだようだ。

 皆の前にパンとスープが配られる。スープには昨日の残り肉が浮かんでいるのが、ちょっとした贅沢だ。


「今日もたっぷりありますからね~。しっかり食べて、お仕事頑張ってくださ~い」

「「「「「いただきまーす」」」」」


 ナニーの言葉に合わせ、村人たちはがっつくように食べ始めた。

 アレクセイとスージーは微笑ましく思いながら、村人たちの様子を観察する。


「みんな血色がいいね」

「やる気に満ちあふれてますね」

「ナニーの【栄養食】は凄い効果だからね」


 ナニーのスキル【栄養食】によるバフ効果のおかげだ。食べ続ければ、確実に身体が強くなる。

 アレクセイもスージーも身をもって知っていた。


「どう、調子は?」とアレクセイは近くにいた農夫に話しかける。

「スゴいですぜ。ひと仕事終えたってのに、全然疲れませんよ。むしろ、まだまだやったるでーって気持ちですな」


 また、他の村人は――。


「ご領主様、お昼も食べられるって本当ですか?」

「ああ、これからは毎日三食だよ」

「「「うおーーー」」」


 アレクセイの言葉が聞こえたようで、歓声が上がる。


「余裕ができたら、おやつも出したいね」

「おやつ?」「なんですか、それは?」


 一日二回の粗食がギリギリだった彼らは、おやつという概念すら知らなかった。


「きっとそのうちナニーが美味しいおやつを作ってくれるから、楽しみにしててよ」


 おやつがなにかは理解していなかったが、ナニーが作ると聞いて、より一層大きな歓声が上がった――。




 ――食事を終えた村人たちは、満ち足りた表情で畑仕事に戻って行った。


「ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

「えへへ。みんな喜んでくれて、ナニーも幸せです~」


 ナニーは達成感を全身で感じているようだった。


「どう、実際に五十人分もの料理を一人で作るのは? 大変じゃない?」

「へっちゃらですよ~。領主さまからいただいた【栄養管理士】には、料理の手際をよくする効果もあるみたいで、今までよりも早く作れるようになりましたっ!」

「そう。なら、安心だ。時間はどれくれいかかるの?」

「三食分作るのに三~四時間程度です~。手の込んだ料理だともっとかかりますけどね~。今はあまり食材もないですし、しばらくは村人の皆さんが食べ慣れた料理にするつもりです~」

「空き時間はあるんだね」

「はいですっ!」

「じゃあ、やってもらいたいことが、ふたつある」

「料理に関してですよね? ナニーは料理以外はへっぽこですよ~」

「あはは、安心していいよ。ナニーには料理に専念して欲しい。適材適所だよ」

「よかったです~」

「ひとつ目は保存食だ。越冬のためと森の調査のために保存食が必要だ。食料在庫と相談しながら、できるだけ保存食を作って欲しい。できれば美味しいやつをね」


 アレクセイは森には豊富な資源が眠っていると推測している。

 だが、これまで村人たちは森のごく浅い場所にしか踏み入っておらず、情報はほぼゼロ。

 本格的な調査を行うならば、日をまたぐ必要があり、そのためには保存食が欠かせない。


「分かりましたっ! 栄養満点で美味しくてバフがモリモリの保存食を作ってみせますっ1」

「ああ、頼むよ。それと、そのバフに関してなんだけど」

「はい?」

「ナニーの料理のバフは食材や調理方法によって効果が異なるよね。ナニーにはバフ料理の研究をして欲しい。これがふたつめのお願いだ」

「うわあ、楽しそうです~。アレとコレを組み合わせて……」


 火がついたようで、ナニーはブツブツとつぶやき出す。頭の中には新作料理のアイディアでいっぱいだ。


「食材は限られているからほどほどにね」


 好きにやらせたら、あっという間に食料庫が空っぽになってしまいそうな勢いだ。

 アレクセイはたしなめたが、どこまでナニーの耳に届いていることやら。


「じゃあ、よろしく頼むよ」

「おまかせっ!」


 村の食料備蓄はあまり期待できないし、積載量の関係で食料はそれほど多く持ち込んでいない。

 足りなくなったら、隣領地のザイツェンで買い付けるしかない。

 ランランと浮かれるナニーを見て、アレクセイは「食料買い出しの予定を早める必要があるな」と計画を練り直していた。


「まあ、それも食料の備蓄状況を確認してからだな」


 アレクセイはスージーを伴って、村のはずれにある倉庫に向かった。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ウーヌス村の現状は結構ピンチのようです。』


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