【第2部開始】異世界ベーシックインカム

まさキチ

第1部

第1章 追放

第1話 無能ジョブ【名君】は実家を追放されました。

【前書き】


【毎日20:39更新】


※第一部まで完結保証。


 タイトルに『ベーシックインカム』とありますが、基本的に


 ・内政チート

 ・ハーレム

 ・主人公最強


 の三本柱でお送りします!


 ベーシックインカムについては、堅い話が続いて退屈しないように配慮してます。


 まずは、作品を楽しんでいただき、そのうえで、ベーシックインカムに興味を持っていただければ、嬉しいです。


   ◇◆◇◆◇◆◇





 リドホルム伯爵家長男のアレクセイは側仕えのメイドであるスージーを伴って、伯爵家当主エグムントの執務室を訪れた。


「父上、お呼びにしたがって参上いたしました」

「うむ、そこに座れ」


 伯爵家の威光を示す豪奢な応接テーブル。

 エグムントの向かいにアレクセイは腰を下ろした。

 メイドのスージーはその後ろに控える。


 エグムントは冷淡な目をアレクセイに向けていた。

 親と子の関係ではあるが、二人が口を聞くことはほとんどない。ましてや、父の執務室に呼ばれるなど数年ぶりのことだった。

 それだけに、自分が呼ばれた理由に予想がついていた。


「アレクセイよ。今年で成人だな」

「はっ」


 この国では十五歳で成人だ。

 アレクセイは先日、成人したばかり。


 普通だったら貴族家の成人は、パーティーを開き盛大に祝うものだ。だが、アレクセイの場合はパーティーどころか、家族の誰からも祝福されなかった。

 祝ってくれたのは、後ろに立つスージーと数人の使用人だけ。

 それがリドホルム家におけるアレクセイの扱いだ。


「そして、オルヴァンもだ」


 エグムントが挙げたのは、この場にいない腹違いの弟の名だった。

 オルヴァンもアレクセイに少し遅れ、来月には成人する。


「リドホルム家の跡継ぎはオルヴァンに決まった」


 予想していたので、驚きはしなかった。

 アレクセイの母は身分の低い使用人で、彼を生むと同時に亡くなった。

 庶子であるアレクセイに対し、オルヴァンは正妻ダミアの息子。

 生まれたときから使用人の息子扱いされていたアレクセイは最初から自分が継げる立場であるとは思っていなかった。


 そして、立場だけではない――。


「ええ、オルヴァンの【炎獅子】があれば、リドホルム領も安泰でしょう」


 この世界では十歳のときに教会で『祝福の儀』を受け、神からジョブを授かる。

 ジョブは人生を決定すると言っても過言ではない。

 鍛冶屋の息子でも鍛冶系統のジョブを授からなければ鍛冶屋にはなれない。

 同様にアレクセイが授かったジョブは、貴族家の跡を継ぐには相応しくないものだった。


 貴族当主に求められるのは、なによりも領地を守り抜く武力だ。

 とくに、ここリドホルム領は隣国と接しているし、モンスターの脅威も大きい。


 リドホルム家は代々炎の力で領土を守ってきた。

 父エグムントは【炎帝】。剣術と炎魔法で先陣にたち、幾度となく隣国やモンスターの侵攻を退けてきた。


 そして、オルヴァンの【炎獅子】も強力な炎系ジョブ。現時点では父の【炎帝】には及ばないが、ジョブは成長する。いずれ、父にも並ぶ強さを得ると誰もが期待していた。


 それに比べて、アレクセイが授かった【名君】は役立たず――そう思われている。


 【名君】を授かった者は歴史上アレクセイが初めてだった。

 貴重なユニークジョブ、そして、その名前から、一時は国中で話題になった。


 期待のジョブということで、それまでアレクセイを冷遇していたエグムントは手のひらをコロッとひっくり返した。初めて父親らしい態度で接するようになり、「次期当主はアレクセイだ」と喧伝するほどだった。


 しかし――。


 周囲の期待に反して、【名君】は役立たずのジョブだった。

 アレクセイがいろいろ試してみても、効果らしい効果がまったくなかったのだ。


 持ち上げられた分、その反動は大きかった。

 時間が立つとともに、周囲の盛り上がりは沈静化し、一年が経過した頃には、アレクセイへの期待はすっかり醒めていた。


 その中でも、エグムントの失望は誰よりも大きかった。

 期待を裏切られたと誰よりも怒り、アレクセイをなじり、殴りつけ、最終的にはいない者として扱うようになった。


 それでも、アレクセイは腐らずに努力を続けた。

 思いつく限りの方法で【名君】を活かせないかと試みた。だが、そのすべては徒労に終わった。

 【名君】は一切の反応を示さなかったのだ。


 ジョブが使い物にならないのであれば、せめてオルヴァンの補佐として内政面で役立とう――そう思って、アレクセイは勉学に励んできた。

 書庫にこもり、伯爵家が蔵する膨大な書物を読み、農業や商業、そして税制度など、治世に必要なすべてを学んできたのだ。

 それだけではなく、ジョブ持ちには敵わないと知りつつも、身体を鍛え、剣を振り、魔法の練習もこなしてきた。

 厳しく自分を律し、常人の何倍も努力してきた。それが貴族たる者の当然の務めだと信じて。


「では、私はオルヴァンの右腕として、粉骨砕身させていただきます」


 最初から跡を継げるとは思っていなかった。

 だから、父エグムントの言葉は当然だと受け入れられた。

 しかし、続く言葉はアレクセイのこれまでの努力を踏みにじるものだった。


「その必要はない」

「と申しますと?」

「貴様には領の一部を任せる。ノイベルト州だ」


 ――ノイベルト州。


 領民に尋ねたら、ほとんどの者が「どこだ、それ?」と首を傾げるだろう。

 リドホルム伯爵領の最北端に位置するノイベルト州は実質的に打ち捨てられた場所だ。

 その始まりは百年以上前。「魔の森」と呼ばれる辺境を切り拓かんと一団が送り込まれた。しかし、過酷な場所で開拓は遅々として進まず、開拓計画は頓挫した。

 現在リドホルム家で確認できているのは、小さな村がひとつだけ。ろくに統治もされずに、隣接する州の代官が年に一度、徴税に訪れるだけだ。


「貴様の【名君】でしっかりと統治してみせよ」


 エグムントの声は言葉とは真逆に、一切の期待が感じられなかった。

 最初から領地経営が上手くいくとは微塵も思っていない。


 そして、領地を任されるということはもうひとつの意味を持つ。

 悔しさに唇を噛みしめながらも、アレクセイは父の言葉を聞くしかない。


「今日から貴様はノイベルト男爵アレクセイ。これからは臣下として、我がリドホルム家のために忠義を尽くすのだ」


 要するに追放だ。

 リドホルム家の人間ではなくなり、継承権は喪失。

 伯爵の息子ではなく、臣下に成り下がるのだ。

 これからは父上ではなく、閣下と呼ばねばならない。


 エグムントはアレクセイを切り捨てたのだ。

 これまでどんなに蔑まれようが、リドホルム家のためにと、地のにじむ努力をしてきたアレクセイの半生は、父によって完全に否定されたのだ。


 ――父上はそこまで僕のことを嫌っていたのか。


 さすがにここまでされるとは、思っていなかった。

 あまりの扱いに、怒りが燃え上がる。

 だが、アレクセイには選択権はない。


「……謹んで拝命致します」


 拳をギュッと握りしめたまま、頭を下げるしかなかった。

 怒りに耐えているのは、彼だけではなかった。

 後ろに控えるメイドのスージーの怒りが背中越しに伝わってくる。彼女の怒りはアレクセイ以上だった。

 態度には表さないものの、その心中は荒れ狂っている。後ろを振り向かずとも、アレクセイにはよく分かった。


 だが、エグムントは二人の思いを気にとめる様子もない。

 関心のない口調でアレクセイに告げる。

 それは息子にかける声ではなく、臣下に命ずる声だった。


「ノイベルト男爵よ、我が家の使用人から配下として三人まで連れて行くことを許可しよう。ただし、その者が納得しているのであればな」


 ――お前の味方が三人もいるか?


 そう挑発しているのが、ありありと伝わってきた。


「閣下のご厚意、感謝いたします」


 それでも、アレクセイは頭を下げるしかない。

 先ほどの命令で、二人の関係は変わってしまった。決定的に変わってしまった。


 三人の配下として誰を選ぶか?

 少なくとも一人は考えるまでもなかった。


 アレクセイが声を上げようとしたところで、先にスージーが口を開いた。


「私がついて行きます」

「ほう。無能な【名君】と混じり者の従者か。お似合いだな」


 エグムントが蔑むが、スージーは負けじと真っ直ぐ見返す。


 アレクセイは嬉しかった。

 なにがあっても彼女ならついてきてくれると信じていた。

 彼女とは血の繋がりよりも深い絆がある。

 それだけが、彼にとっての救いだった。


 ――大丈夫。僕にはスージーがいる。


 「野垂れ死ね」と言われたに等しい命令だったが、スージーの声を聞いて、アレクセイの心に火が灯る。


 ――やってやる。今まで僕がどれだけ努力してきたと思ってるんだ。ノイベルト州を最高の領地にしてみせる。


 絶対に見返してやる――アルベルトはここに決意した。


「出発は三日後だ。それまでに準備を整えておけ」

「はっ」


 無能とみなされていた【名君】ジョブ。

 その力が覚醒するのは、この後すぐだった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『初めての臣下はスージーです。【名君】が覚醒します。』


【宣伝】


 まさキチの他作品もお楽しみいただけたら幸いですm(_ _)m


『見掛け倒しのガチムチコミュ障門番リストラされて冒険者になる 〜15年間突っ立ってるだけの間ヒマだったので魔力操作していたら魔力9999に。スタンピードで騎士団壊滅状態らしいけど大丈夫?〜』

https://kakuyomu.jp/works/16816927863361233254


ガチムチ。魔力チート。コミュ障。

ヒロインはぶん殴り元聖女 。



【HJ小説大賞受賞】勇者パーティーを追放された精霊術士 〜不遇職が力を授かり覚醒。俺にしか見えない精霊を使役して、五大ダンジョン制覇をいちからやり直し。幼馴染に裏切られた俺は真の仲間たちと出会う〜

https://kakuyomu.jp/works/16816927861066190729


追放・精霊術・ダンジョン・ざまぁ。

ヒロインは殴りヒーラー。




『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859671476293


リボ払いは絶対にやめよう!

ってお話です。

主人公を追放したパーティーがざまぁされるのを楽しみながら、借金の怖さも知れます。



   ◇◆◇◆◇◆◇


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