九話 後ろの席の城ヶ崎

 俺的学校のサボり方は年間スケジュールで定められている。

 なぜか? 進級に必要な単位が年間で区切られているためだ。


 年単位で最低限の出席日数を確保すれば、後は定期テストで赤点回避のみでスムーズに進級できる。

 だが一年の出席日数を決めた通りに管理するのは、思いのほか難度が高い。素人には到底手に負えないだろう。


 いかに効率良く、余裕を持ってスケジュールを進行するか。そこにサボり魔としての手腕が問われているのである。

 ただ好きなときにサボるのでは、後々立ち行かなくなってしまうのだ。


 さらに押さえるべきポイントとして、サボりやすさという要素も絡む。

 最初からかましすぎると後が徐々に辛くなる。

 こういう始業式の日などはしっかり出席し、教師やクラスメイトの好感度を無駄に落とさないことが肝要だ。

 我ながら死んだほうがいい気がするぜ。


「よ。シロサキ」


 ホームルーム開始直前にD組の教室へ入ってきた城ヶ崎じょうがさきは、俺の後ろの席に着くと大層嫌そうな顔をした。


「これじゃ前が見えないだろう」


 同じクラスの前後の席になって第一声がそれか。


「俺に文句を言うな。男女混合の出席番号順が悪い」


 それ以上の会話もなく、担任がやって来てホームルームが始まった。

 柊木ひいらぎという無精髭を生やした天パおじさん(三十代)が気怠そうに自己紹介した。歴史の教師だそうだ。


「くれぐれも問題だけは起こすなよ。すぐ始業式だから終わったら並んで行け」


 ポリポリと癖っ毛を掻きながら、柊木先生はHRをそう締め括った。


 担任としては好きなタイプだ。人間としてはどうか知らんが、自分を善良だと思い込んでいる教師よりはよほど好感が持てる。

 嘘です。ただ単純に放任主義の方が楽というだけです。


「おい」


 がやがやとした喧騒の中、席から立ち上がってふと見下ろすと、後ろの席の城ヶ崎が机に突っ伏していた。


 前が見えないと文句を言っていたのはどこの誰だったっけ。


「普通初っ端から寝るか? 人を隠れ蓑にするなよ」

「うるさい」


 一応起きてるらしい。眠るには時間が短すぎるよな。

 それにしてもこのねぼすけは一体どんな手品を使って、A組からD組へ異動できたのやら。


「さては寝起きの機嫌が悪いやつだな」

「……ちっ」

「今舌打ちしたなお前」

「ぬ……」


 ようやくのそっと顔を上げた城ヶ崎は青白くゾンビみたいだった。芸術的なまでにだらしがない。


「女子はもう廊下に並び始めてるぞ」


 一応声かけたから、後は好きにするといい。

 こいつをほっとけば、下手したら始業式を居眠りでサボっていたのかもしれない。多分教室の鍵閉められるときにバレると思うけど。


 いっそ俺も始業式をサボってしまおうか。

 意味があるのか、始業式。出席日数に何の関わりもないじゃないか。

 校長が一言始業しますでいいだろ。いちいち大勢集めやがって。

 

 こんなことばかり考えている自分がつくづく嫌いになるな。真面目にしよう。

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