九話 後ろの席の城ヶ崎
俺的学校のサボり方は年間スケジュールで定められている。
なぜか? 進級に必要な単位が年間で区切られているためだ。
年単位で最低限の出席日数を確保すれば、後は定期テストで赤点回避のみでスムーズに進級できる。
だが一年の出席日数を決めた通りに管理するのは、思いのほか難度が高い。素人には到底手に負えないだろう。
いかに効率良く、余裕を持ってスケジュールを進行するか。そこにサボり魔としての手腕が問われているのである。
ただ好きなときにサボるのでは、後々立ち行かなくなってしまうのだ。
さらに押さえるべきポイントとして、サボりやすさという要素も絡む。
最初からかましすぎると後が徐々に辛くなる。
こういう始業式の日などはしっかり出席し、教師やクラスメイトの好感度を無駄に落とさないことが肝要だ。
我ながら死んだほうがいい気がするぜ。
「よ。シロサキ」
ホームルーム開始直前にD組の教室へ入ってきた
「これじゃ前が見えないだろう」
同じクラスの前後の席になって第一声がそれか。
「俺に文句を言うな。男女混合の出席番号順が悪い」
それ以上の会話もなく、担任がやって来てホームルームが始まった。
「くれぐれも問題だけは起こすなよ。すぐ始業式だから終わったら並んで行け」
ポリポリと癖っ毛を掻きながら、柊木先生はHRをそう締め括った。
担任としては好きなタイプだ。人間としてはどうか知らんが、自分を善良だと思い込んでいる教師よりはよほど好感が持てる。
嘘です。ただ単純に放任主義の方が楽というだけです。
「おい」
がやがやとした喧騒の中、席から立ち上がってふと見下ろすと、後ろの席の城ヶ崎が机に突っ伏していた。
前が見えないと文句を言っていたのはどこの誰だったっけ。
「普通初っ端から寝るか? 人を隠れ蓑にするなよ」
「うるさい」
一応起きてるらしい。眠るには時間が短すぎるよな。
それにしてもこのねぼすけは一体どんな手品を使って、A組からD組へ異動できたのやら。
「さては寝起きの機嫌が悪いやつだな」
「……ちっ」
「今舌打ちしたなお前」
「ぬ……」
ようやくのそっと顔を上げた城ヶ崎は青白くゾンビみたいだった。芸術的なまでにだらしがない。
「女子はもう廊下に並び始めてるぞ」
一応声かけたから、後は好きにするといい。
こいつをほっとけば、下手したら始業式を居眠りでサボっていたのかもしれない。多分教室の鍵閉められるときにバレると思うけど。
いっそ俺も始業式をサボってしまおうか。
意味があるのか、始業式。出席日数に何の関わりもないじゃないか。
校長が一言始業しますでいいだろ。いちいち大勢集めやがって。
こんなことばかり考えている自分がつくづく嫌いになるな。真面目にしよう。
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