PAGE2 片想い
「…なるほど。」
「だから一日だけ店番頼む。」
木々の葉がひらひらと舞い落ち、少しずつ寒くなってきた秋の始め、九月の半ばの出来事。たまたま故郷の世界に買い出しに出ていたら、旧友の飯島大聖に会った。どうやら俺が仲良かったみんなは元気なようだ。そして今度特に仲が良かった(俺含め)四人で久しぶりに遊びたいと宮下が言っていたこともきいた。だからその日だけ拓斗に店番をお願いしていた。
「まあ、そういうことなら仕方ないか。分かったよ。」
「うん、ありがとう。」
自分のいた時空の狭間から故郷の世界に入る。そして宮下の家に歩を進めた。
「お、誠…いや、今は静火だったな。久しぶりだな!」
「…。」
そう言いながら住宅街の路上で手を振り、さわやかスマイルを向けてきたロングコートを羽織った、若干子供じみた顔をしているのが飯島大聖、その隣でうつむきがちで元気がなさそうな顔をしているのが江原千歳だ。
「お前らは相変わらず元気だな。」
「そういうお前は昔より健康に見えるぜ。」
「ありがとよ、さて、そろそろ行くか。」
そういい宮下の家のインターホンを鳴らす。するとしばらくして今日の発案者が出て来た。
「いらっしゃい!ささ、入った入った。」
「今日は宮下上機嫌やなあ。」
すると江原がなんか言おうとしたが飯島によって抑えられた。
「当たり前だよ…。かなり久しぶりに好きな人とあえt」
「それ以上は言わない約束だ。」
「何を言おうとしたんだ?江原。」
「き、気にしないで…。」
ちょっと気にはなったがそれは宮下の自慢によって吹っ飛ばされた。
「早く入らないと私特性クッキー一人で食べちゃうぞ!」
「?!」
「お、やったぜ。」
「は、え?!」
そう、宮下は料理が下手、いやある意味芸術的な作品を作るような奴だったのだ。それなのに…江原たちが喜んでいる…?
「お前ら…とうとう味覚狂ったか?」
「いや霧崎…一応あれから4年近くたってる…もう俺ら高校卒業してるからな?進化しててもおかしくないだろ?」
「いやでもよぉ…。」
「ごたごた言ってないで食ってみろって!」
「んぐぐっ?!」
飯島に無理やりクッキーを突っ込まれる。恐る恐る飲み込む。
「…美味しい…だとぉっ?!」
甘さ控えめで後にしつこくない適度な濃さ。ほんのり香る麦の香ばしさ。不味いとはかけ離れた味だ。
「…おい霧崎。」
「なんだ?飯島。」
「なんで宮下がここまで料理成長したか分かるか?」
「いや知らんがな。」
すると飯島は長い溜息をつき江原と語り始めた。
「お前が好きで、帰ってきたら振り向いてもらえるようにこいつは成長したんだよ。」
あれは霧崎がこの世界から消えたすぐあと…僕がまだ中学二年生の頃…
~ある朝の学校にて~
「あ、江原、おはよう。」
「…。」
「どした?いつもにも増して元気ねえじゃねえか。」
「…お前、朝ニュース見なかったのか?」
「俺はニュースなんてかったるくて見ないわな。」
「…。朝…ニュースで言うには…昨晩大山の家が火事で全壊したらしい…。」
「?!」
「しかも住人は大人二人の遺体しか見つかっておらず、その家の一人息子が行方不明…。」
「ま、まさか、な…。ちゃんと来るさ、大山は学校に…。」
そう江原に、そして自分に言い聞かせた。
来なかった。いつもなら授業開始30分前には来る大山は、始業のチャイムが鳴っても来なかった。そして、そのままいつも通りの時刻に先生が来た。
「…えー、皆さんにお話があります。昨晩、大山君の家で火事があり、保護者の遺体しか見つかっておらず、誠君は行方不明とのことです…。」
ここで既に教室はざわつき始めた。「俺そのニュース見たぜ!」とか得意げに言うやつもいたり、「自殺でもしたか?」とかいうやつ、「物騒ねぇ。」と落ち着き払っているやつもいた。しかし次の発言で教室の空気が変わった。
「なお、発火原因は家の周りに置かれていた灯油タンクだそうです…。…そして、…。」
「なんだよセンコー!」
「早く続き言ってくださいよ!」
クラスメイトが先生にブーイングを飛ばす。すると先生は深呼吸を二回ほどして、ゆっくり、そしてはっきり言った。
「灯油タンクからは、大山君の指紋のみ見つかり、着火に使ったとみられる、近くに落ちていたライターにも大山君の指紋があったそうです。」
教室は数十秒ほど静まり、その直後、一気に騒々しくなった。
「……。」
放課後。みんな帰って一人になった教室。飯島くんのクラスもだけど僕のクラスも、その日は霧崎の話題で一日うるさかった。正直落ち着かなかった。そりゃ友人をなくした身としては辛い。だが騒いだって霧崎は帰って来ないのだ。こういう日の放課後は図書室にでも行って本を読むに限る。そう考え廊下に出た。そこには
「…宮下、さん?」
うずくまって泣いている宮下さんがいた。
「あ、あ、う…え、江原…。」
彼女は僕の名前をゆっくり呼んだ直後、のしかかるように抱き着いてきて、僕を抱きしめたまま、思いっきり泣いた。学ランが宮下さんの涙と鼻水とで濡れる。でも僕は彼女の背中をさすって泣き止むのを待つことしかできなかった。
「私はね、多分大山君が好きなのよ。」
いきなり廊下で内心を打ち明けられた。慌てて周りを見回し、人がいないか確認する。
「大丈夫よ。今更…。」
「そ。そうか…。」
泣き止んでいつものペースに戻った宮下さんは色々打ち明けてきた。小学生の時に彼に出会い、一目惚れしたこと。実は半ストーカーだったこと。そして…
「私もね、{身体強化の調整}ができる能力者で…親近感わいたの。」
そう言いながら彼女は僕を軽い顔で高い高いした。(一応僕は58㎏ある。)
「なるほどね…。」
僕はその時決めた。何としても霧崎を見つける…とね。
「それでその後、つい最近飯島が俺に会ったことがお前たちの耳に入ったり、遊びに誘ったと…。」
「そうだ。…なぁ、霧崎。」
江原は俺をしっかり見て言った。
「宮下とは付き合わないで欲しいんだ。」
「…は?」
驚きの声を上げた時、宮下がジュースを持って部屋に入ってきた。俺ら三人は座りなおす。
「じゃあ…みんなで乾杯したいところだけど…ちょっと霧崎に話があるんだ。席を外していいかな?」
と江原。
「分かったわ。」
宮下の答えを聞き、二人で廊下に出る。
「どういうことだ江原。」
すぐに江原を問い詰める。
「実は…僕も宮下が…その…だからさ…。」
「だからって宮下の想いを踏みにじりお前と引き合わせようって算段か?俺が何でも屋だから、それくらい出来るだろ、て話か?ひでぇな、見損なったぞ。」
俺はうつむく江原に背を向けて部屋に戻った。
部屋に戻ると飯島と宮下が何やら話をしていたが様子がおかしい。宮下が泣きそうになっていた。
「宮下…飯島…?何があった?」
「霧崎…お前を宮下が好きなのは知ってるだろ?」
「まあな。さっき聞いたばっかだけど。」
「…江原が宮下を好きなのも聞いたな?」
「うん。」
「だからよ…これでそれぞれが好きなように動いたら俺らの関係は悪化すると思うんだ…んで宮下にとりあえず霧崎のことはあきらめて、かつ江原が告白してきても断ってくれないかってお願いしたんだ。」
「江原の想いばらしたのか…それで?」
「そしたら宮下…なんで人の考えに左右されなきゃいけないのって言ってさ…。」
「んで泣き出してしまった、と…。」
困ったものだ。どうしたものか…。
その時、俺の頭にある考えが浮かんだ。
「なぁ、宮下。俺…万事屋の助手にならないか?」
「お、おい霧崎?!」
「霧崎さん?」
驚く男性二人を無視して続ける。
「江原はお前が好き、お前は俺が好き。ならよ、誰の彼女にもならず、しかし現状を維持できる俺の助手ってのはどうだ?」
「…霧崎は私が好きなの?」
一瞬戸惑う。そのあと俺は笑顔で言った。
「女には興味ないね。」
「どゆこと?」
きょとんとする宮下。その目の前で俺は江原の肩に手をまわし
「いつ俺が男に興味ないといった?」
慌てふためく飯島。キョトンと純粋な顔を向ける江原。足を踏み外しそうなイケない顔をした宮下。3人を前に冷静に考える。
宮下を助手にしたのは他にも理由があった。やはり同じ能力者である以上、世間からケダモノを見る目で見られて欲しくない、そして何より彼女は万事屋の大きな力になるだろうと。
そしてこの日を機に万事屋に助手が1人、常連がまた2人増えることになったのだった…。
~PAGE2 fin~
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