おやつの時間だ
……………………
──おやつの時間だ
46階層を完全にクリアにしたら小休止。
戦闘糧食III型を貪り、カフェインたっぷりのコーヒーで飲み下す。
5分ほどの休憩だ。
『ああ。お野菜食べたい……』
『文句を言うな50階層のエリアボスを片づければまた休暇だ』
『それはそうですけど』
椎葉ももそもそと戦闘糧食III型を食べ、お茶で飲み干していた。
『さて、休憩は終わりだ。仕事を再開する。とっとと潜るぞ』
『了解』
腰を上げて荷物を背負い、ダンジョンの階段に向かう。
階段と言っても、螺旋階段が塔を巻くようにぐるりと連なっている。
そのうち途中途中で塔の中に入るルートがあり、そこでワイバーンが待ち構えている。それを暫定的に何階層と呼んでいるだけである。実際の階層はこの手の特殊な構造のダンジョンとなると明言できない。
『目標視認。例の氷トカゲだ。数は20体。マークした』
『割り振った。だが、柔軟にやれ。火力を集中すべき場面では友軍を援護せよ』
『了解。派手にかまそうぜ』
『当り前だ』
的矢は強襲制圧用スタングレネードを階段を降りた先にある塔内部へのホールに投げ込んだ。凄まじい閃光と音が響き渡り、ワイバーンたちが大混乱に陥る。
『行け、行け、行け』
信濃を先頭に的矢たちが突入する。
先手は取った。この生じた隙に可能な限りのワイバーンを殺す。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺す。
徹甲榴弾がワイバーンの鱗を貫き、高性能炸薬が内部で炸裂する。装甲車両の中の人間を殺傷可能がこの兵器にとってワイバーンはいい目標だ。肉に食い込み炸裂する。腕に当たれば腕が吹き飛び、足に当たれば足が吹き飛び、羽に当たれば羽が根元から吹き飛び、腹に当たれば内臓が吹き飛び、頭に当たれば脳みそが吹き飛ぶ。
愉快な人間様の狩りの時間だ。
《この愉快な時間もいずれは終わる》
どうだろうな。
《終わるだろう? それとも君は終わらせない方に一票入れるのかい? 他の誰よりも世界が正常になることを望んでいる君が?》
さあ? 俺は俺のやり方で世界を正常に戻す。
《どうやって?》
教えてやらない。
《ケチ》
言ってろ。
ラルヴァンダードは頬を膨らませていた。
『相手が立て直すぞ。遮蔽物を確保しろ』
ワイバーンたちは態勢を整えなおすと侵入者に牙を剥いた。
全てを殺らせる液体窒素並みの冷気が吹き抜ける。少しでも当たれば凍傷でその部位を切除しなければいけなくなるだろう。
だが、当たれば危険なのは火炎放射から変わっていない。
冷気放射を行うワイバーンに的矢たちが銃弾を叩き込む。
冷気を放とうとしていたワイバーンの頭が弾け、隣のワイバーンに氷柱が突き刺さり、化け物どもがパニックを起こす。
『今だ。撃て、撃て。殺せ』
『ぶっ殺しやるよ』
的矢と信濃がワイバーンを滅多打ちにする。
『確実に仕留めましょう』
『こんにゃろー!』
陸奥が重機関銃でワイバーンを薙ぎ払い、椎葉がラッキーショット。
『シャーリー。行けるな?』
『ええ、大尉』
ネイトとシャーリーがヘッドショットを決める。
『クリア』
『クリア』
そして、的矢と信濃が振動探知センサーと音響探知センサーを使ってこの階層におうワイバーンはいないことを確認する。
『結構、軽く片付いたな』
『ワイバーンにはあまりスタングレネードが効かないはずだったんだが、こいつらにはかなり通用した。どういう関係があるのか分からないが』
『ま、制圧できたならいいんじゃ?』
的矢と信濃がそう言葉を交わす。
『全員、残弾は?』
『僅かです。ミュールボットもそう残っていません』
『仕方がない。おやつの時間だ。戻るぞ』
的矢たちが47階層の掃討を終え、40階層に戻る。
まだ時間はあると言い聞かせても、焦燥感は消えない。
それにまだ味わい足りないのだ。化け物を殺す愉悦さが。世界を正常に近づけることの義務感が。まだまだ足りないのだ。
『47階層でこれとはな。先が思いやられる』
『仕方ないですよ50口径のライフル弾なんてものを使ってるんですから』
『そうだな、准尉。弾がデカくてかさばる。化け物が吹っ飛ぶのは爽快だが』
的矢が肩をすくめてそう言う。
『ミュールボットじゃ足りないのかもしれませんね』
『ミュールボット以上のローダーが必要だと』
『ええ。兵装モジュールもついていればいうことなしです』
『確かにな。そいつはイケてる』
重機関銃がマウントされたミュールボットより巨大なローダーを想像する。そいつを操作して殺しまわることを想像する。胸がたぎる。
『まあ、そう都合よくそういうものが手に入るとは思えんが』
『そうですね』
的矢と信濃はそう言葉を交わして40階層に帰還した。
「的矢大尉。振動はここまで響いたぞ。首尾は?」
「まあ悪くないです、羽地大佐。47階層まで制圧完了。残り3階層で50階層までのエリアがクリアになりますよ。そうすればさらに潜れる」
「上等だな。期待して待っていよう」
「ところで、大佐。無理を承知でお願いしたいのですが」
「何かな?」
「ミュールボットでは容量が不足します。もっとデカい奴をお願いしたい」
「ふむ……」
羽地大佐は的矢の言葉を聞いて考え込む。
「陸軍が資材運搬用に使っているミドルスパイダーボットが使えないか頼んでみよう。彼らが無理だと言ったら諦めてくれ。許容重量的にはミュールボットの倍になる」
「是非ともお願いします」
「ああ。他には?」
「何も」
羽地大佐はそう言って頷くと日本陸軍の兵站将校の方に向かった。
「大尉。そのミドルスパイダーボットって私たちが壊した空軍のローダーと同じくらいですよね?」
「ああ。ちょっと小さいぐらいだ。57式汎用輸送機械。陸軍の正式名称はそれだ」
「空軍の壊したって知られたら貸しててもらえないんじゃ……」
「可能性はあるな」
とほほという顔をする椎葉。
「陸軍にとっても貴重な代物でしょうし、ダメ元ですよね?」
「そうなるな。借りれなかったらミュールボットで頑張るしかない」
こいつだってタフな奴だと的矢が言う。
そんな会話をしていたとき、羽地大佐が戻ってきた。
「陸軍は1機だけ貸してくれるそうだ。その代わり必ず返却することを求めている。君たちが空軍のローダーを破壊したのはもう知られているらしい」
「1機でも助かります。早速使わせてもらっても?」
「ああ。丁重に扱ってくれたまえよ」
そうじゃないと今度は日本陸軍に頭を下げることになると羽地大佐は肩をすくめた。
「よし。各自、バックパックに可能な限りの弾薬を詰め込め。強襲制圧用スタングレネードもだ。合計で12個。ミドルスパイダーボットに運ばせる。47階層に今度向かったら、今度は一度も引き返さず、50階層を目指すからな」
「大尉。梱包爆薬はどうする? ミュート爆薬じゃなくて電子励起爆薬の」
「そうだな。エリアボスがどんな奴か分からない以上可能な限りのものは準備しておくべきだろう。対戦車ロケット弾も準備しておけ」
「了解」
爆薬と聞いてテンションが上がったんか足早に信濃が武器弾薬庫に向かう。
「しかし、エリアボスか」
どんな化け物が待ち構えているのやらと的矢は思った。
……………………
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