もっとデカい武器を
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──もっとデカい武器を
『ワイバーンどもを引き寄せる。全員、空中炸裂型グレネード弾を使え。とにかく派手な武器を使え。自分を脅威だとあの空飛ぶトカゲどもに思わせろ。それでいい。それで十分だ。その間にアルファ・ツーが本物の脅威って奴を空飛ぶトカゲどもに教育してやる』
『了解』
陸奥を除く全員が空中炸裂型グレネード弾を装填する。
アンダーバレルに装着されたグレネードランチャーに装填された空中炸裂型グレネード弾にはセンサーがあり、戦術脳神経ネットワーク上でマークした目標の傍で自動的に炸裂するようになっている。
『撃て』
一斉に空中炸裂型グレネード弾が発射された。
グレネード弾がワイバーンの傍で炸裂し、効果はほぼなかったものの、翼に傷を負わせ、化け物どもに自分たちの脅威がどこにいるかを知らせた。
そして、火炎放射。既に退避していた窓に向けて放たれた炎が熱気を辺り一面に撒き散らす。冷や汗も普通の汗も同時に流れる。この膨大な熱量をワイバーンという化け物はどこから捻り出しているのだろうかと思うほどだった。
だが、それもそこまで。
陸奥のM906重機関銃が配置についた。陸奥がリモートタレットモードで銃弾をワイバーンたちに次々に叩き込んでいく。7.62ミリ弾には耐えたワイバーンだったが、12.7ミリ弾には耐えられなかった。ワイバーンが血を撒き散らし、次々に撃墜されて行く。
しかし、どうやらワイバーンも喉や腹部のような場所でないと致命傷にはならないようで、羽や手足に当たった程度では攻撃を続行してくる。
『不味い。アルファ・ツー、重機関銃を下げろ。狙われているぞ』
『了解』
自分たちを狙っているものの正体に気づいたワイバーンが炎を口の中で蠢かせていた。その狙いは間違いなく重機関銃だ。
陸奥は重機関銃を即座に下げ、同時に火炎放射が窓から吹き込む。
『無事か、アルファ・ツー』
『無事です。ですが、このまま続けますか?』
『俺の勘だが、奴らはもうその重機関銃をしっかりと敵と認識しただろう。今度は姿を見せた途端狙い撃ちされかねない』
『では、どのように?』
『撤退だ』
ここで全員がぎょっとした。
『41階層だぜ、ボス。まだ1階層もクリアしてないのに撤退?』
『死んだら1階層攻略しても意味がないだろう。それに1階層だからこそ引き返せる。まだ投入したリソースは僅かで、余裕がある。今のうちに後退して、装備を整えなおす。これは命令だ、アルファ・スリー』
『了解、アルファ・リーダー』
そして、全員が身を屈めて窓から姿を見せないようにして、40階層に戻った。
「どうだった? ワイバーンか?」
「ワイバーンはワイバーンですが、恐らくは上位種です。未確認の。7.62ミリ弾が豆鉄砲みたいに弾き返されました。50口径の強装弾、徹甲弾でようやく抜けるというぐらいです。我々にはもっとデカい武器が必要です」
「ふうむ。対戦車ロケット弾?」
「空を飛び回るトカゲを相手に?」
「分かった。デカい武器だな。後になって文句を言わないでくれよ」
羽地大佐はそう言って日本陸軍の兵站将校と話し合い始めた。
「デカい武器が届く。4時間後だ」
「楽しみに待っていましょう」
待つこと4時間でそれは40階層に運び込まれた。
「12.7x99ミリNATO弾を使用する“自動小銃”だ。装弾数20発。大口径信仰の極みだ」
「こいつはまた」
そこにはブルパップ式の自動小銃が収められていた。確かに20発の50口径ライフル弾が装填可能な自動小銃だ。同じ口径の銃弾を使用する重機関銃や狙撃銃と比較するとコンパクトに纏まっている。
「陸軍はいつからこんな化け物を?」
「人工筋肉が第4世代に到達した時点でこういう武器の必要性も議論されてきた。日本国防四軍の中じゃ、大口径化に遅れていた陸軍が7.62ミリ弾の自動小銃を使うくらいならばいっそこれをと開発を依頼して出来た品だ。言っておくがまだ試作品だ」
「正式採用はしていないという意味で?」
「そういう意味だよ。流石の陸軍もこいつは馬鹿げていると思ったらしい。だが、こういう時に出番があるとは思ってもみなかっただろうさ」
「試作品となると予備のパーツなどの入手は?」
「可能な限り準備するし、それは同じ弾丸を使用する狙撃銃と一部に互換性がある。そこでどうにかするしかないね」
「了解。なるべく大切に使いましょう」
「頼むよ。今から生産を頼んでいたら、調達は来年度だ」
そう言って羽地は肩をすくめた。
「強装弾の使用には?」
「耐えられる。最初からそれを想定して作ってある。逆に通常弾は使用できない」
「上等です。リベンジと行きましょうか」
「昔ながらのピカティニー・レールもM-LOKもついている。あれこれカスタムして大事に遊んでくれ。一応陸軍の試験には耐えた銃だ。問題はそうそう起きないだろう」
日本陸軍は度重なる業者のデータ詐称から厳重にテストを繰り返すようになっていた。病的と言っていいぐらい過酷な環境でテストする。その日本陸軍のテストに耐えたのだから、実戦にも耐えるだろう。
「全員、装備を受け取って集合。弾薬は詰め込み直せ。マガジンポーチは新しいものが支給される。アタッチメントして、各自使いやすいようにしておけ」
「了解」
50口径のライフル弾を使用するのだ。マガジンポーチから変えなければならない。日本陸軍がこの銃を採用した場合にと作られていたマガジンポーチが支給され、それをタクティカルベストにアタッチメントすると銃本体にも手を加える。
レーザー照準器、グレネードランチャー、ナノマシン連動型光学照準器、エトセトラ、エトセトラ。的矢のチームは全員が機械化しているので、反動や重さは気にならない。苦労してるのはネイトたちだけだ。
「準備はできたか、諸君?」
「ばっちりコーディネイトしたぜ、大尉」
「結構だ」
あれこれとアタッチメントがつけられた自動小銃を担いで、信濃がにやりと不敵に笑う。彼女も新しい玩具が嬉しいらしい。
「あのクソトカゲ野郎どもに目にもの見せてやれ。空をちょっと飛べるくらいで調子に乗るんじゃないとな。ぶちかまし、ぶち落とし、ぶち殺せ」
「了解!」
陸奥たち全員が頷く。
「では、行くぞ。リターンマッチだ」
そして、的矢たちは戦場に向かう。ワイバーンという化け物のひしめくダンジョンという名の戦場へと。
ダンジョンは一見してクリアできないような要素で満ちているが、人間というのはそういうものに対応し続けてきた。不可能を可能にしてきた。そして、今では指数関数的に解決策は導き出されている。
勝つのは人類か、あるいはダンジョンか。
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