毒花
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──毒花
39階層での戦闘は激しいものになった。
沼地で発見しにくい待ち伏せ型にミュート爆薬をお見舞いし、ジャイアントウォーキングツリーを相手に銃弾を叩き込み、動きずらい中でパラサイトスワームを相手にする。
戦闘に次ぐ戦闘の末にようやく沼地を抜けて、的矢たちは40階層に続く階段に到着した。弾薬もまだたっぷりと残っている。
『40階層、か』
『このまま降りるんですか、ボス?』
『そうだな。この沼地を往復するってのはタイムロスだ。確かに時間的な余裕はあるが、仮に銃弾を補充するとしてもエリアボスは拝んでおきたい』
エリアボスによって必要なものは変わるからなと的矢は言う。
『マイクロドローンを先行させろ。アルファ・スリー。用心して進め』
『あいよ』
マイクロドローンを先頭にゆっくりと足音を立てずに的矢たちは40階層に降りる。
『目標視認。グリーン・ケベックだ。それからジャイアントウォーキングツリー10体。クソッタレだぜ』
日本国防軍コード:グリーン・ケベック。クイーンアルラウネ。
蓮の葉のように水面に浮かんでおり、花となる部分には3メートルほどの女性型の体が備わっている。一見すると華の妖精にも見えるが、実際は驚くべき殺人者だ。
その葉は自由自在に動いて本体である女性型の体を包み、7.62ミリ弾でも抜けない。50口径のライフル弾でようやく抜けると言ったところである。
そして、本体である女性型の体は毒を撒き散らす。びらん性と神経毒の両方を兼ね揃えた猛毒を撒き散らす。普通の生き物ならば人間と同じ体積を持っていても大気中のそれに触れただけで、10秒も持たずに死亡する。
日本国防四軍では、グリーン・ケベックという名称よりも、毒の女王という名称で呼ばれることがある。それだけ強力な毒を使用してくるのである。
『グリーン・ケベックならサーモバリック弾を使用しても大丈夫だ。あいつは熱に晒そうと晒すまいと毒を撒き散らす。持ってきているか?』
『俺とシャーリーで6発』
『ジャイアントウォーキングツリーが全滅したら全部叩き込め。まずは雑魚を掃除する。ジャイアントウォーキングツリーに戦闘の邪魔をされたくない』
そして、的矢がクイーンアルラウネを見る。
『奴は目と振動に頼った索敵をする。強襲制圧用スタングレネードではよく効くだろう。さあ、パーティー開始だ』
クイーンアルラウネに向けて強襲制圧用スタングレネードを的矢が投擲する。
強襲制圧用スタングレネードが炸裂し、クイーンアルラウネが怯む。
そして、ジャイアントウォーキングツリーはクイーンアルラウネの方に群れる。
『目標マーク済み』
『振り分けた。どんどん殺せ。皆殺しにしろ』
信濃と的矢がジャイアントウォーキングツリーに向けて、スタンシェルを叩き込む。そして、魔石の位置が分かったところで、陸奥たちが銃撃を浴びせる。魔石は確実に破壊されて行き、未だに視力の回復しないクイーンアルラウネはどうなっているのかが分からないまま、相手に姿を探そうとする。
その間にもジャイアントウォーキングツリーは殺されて行く。魔石を次々に撃ち抜かれて、倒れていく。
『よし。雑魚は掃除できた。ネイト、シャーリー。やれ』
『了解』
アンダーバレルからサーモバリック弾がクイーンアルラウネに叩き込まれる。
衝撃と熱がクイーンアルラウネを揺さぶり、クイーンアルラウネはようやく視覚を回復させると、自分を攻撃している相手が分からないままに猛毒を撒き散らし、同時に葉を閉じて、自分の身を守る。
『クソッタレな毒ガスだ。全員、
『しっかり整えてあります。しかし、こいつはぞっとしますね』
『全くだ。クソ野郎に銃弾でお礼してやれ』
『了解』
陸奥が重機関銃を設置し、UGVとともにクイーンアルラウネに向けて射撃する。葉を突き破ったライフル弾は本体にダメージを負わせるも、致命的とまではいかない。
『あいつにもスタンシェル戦法が通じると思うか?』
『やってみないことにはなんとも』
『オーケー。試してみよう』
的矢はクイーンアルラウネに肉薄し、スタンシェルを叩き込む。
『見えたか?』
『いいえ。見えません』
『クソッタレ』
的矢が肉薄していたとき、ジャイアントウォーキングツリーが再び出現する。
『雑魚どもが邪魔をするな』
ジャイアントウォーキングツリーをマークし、目標を割り振る。次いで強襲制圧用スタングレネード。いつもの組み合わせだ。
これでジャイアントウォーキングツリーがどうにかなるとして、クイーンアルラウネはどうするかである。的矢は戦術脳神経ネットワークから過去の交戦記録を引っ張り出す。どうやって過去にこいつと交戦した部隊がこれを撃破したか。的矢たちの時は銃弾を浴びせ続けるしかなかった。
『なるほど。射撃中止、射撃中止』
不意に下された命令に全員が射撃を停止する。
『本体にミュート爆薬を放り込んで爆破する。それでふっ飛ばせば勝ちだ』
『了解』
防弾性の葉が開くのをゆっくりと待つ。
やがて本体が姿を見せるとともにパラサイトスワームの群れがクイーンアルラウネから放たれた。数は30体から40体。
『クソが。パラサイトスワームを押さえろ。何を使ってもいい。連中を皆殺しにしろ』
『とっておきのをお見舞いしてやろう』
品音はそう言うと散弾銃を構え、パラサイトスワームの群れに向けて発射する。
その銃弾は真っすぐ進み、パラサイトスワームの群れの真っただ中で炸裂し、散弾を撒き散らした。空中炸裂型銃弾とでもいうべき装備だ。
『撃て、撃て』
クイーンアルラウネはあざ笑うかのように毒ガスを撒き散らす。その毒はパラサイトスワームには効果はなく、人間たちだけを殺す。
『こんにゃろー!』
椎葉も空中炸裂型グレネード弾を叩き込み、敵の群れを描き乱す。
『いいぞ。いいぞ。皆殺しだ』
パラサイトスワームが壊滅状態となった段階で的矢がミュート爆薬を持ってクイーンアルラウネの方向に向けて駆ける。
『誰もまだグリーン・ケベックには発砲するな。奴に爆弾を放り投げてから射撃を許可する。それまでは奴を狙うな。いいな?』
『了解』
しかし、何かの予感を感じ取ったのかクイーンアルラウネが葉を閉じようとし始める。葉が閉じられてしまえば爆薬は当然のことながら弾かれ、外で爆発するだけに終わる。それではクイーンアルラウネを殺せない。それでは化け物を殺せない。
的矢は焦りながらも、クイーンアルラウネが座する湖を駆け、着実にクイーンアルラウネに迫り、ついにその葉が閉じられる──その寸前にミュート爆薬をたっぷりと詰めた梱包爆薬を放り込んだ。
それは見事にクイーンアルラウネの葉の中に入った。
『起爆』
そして、轟音が鳴り響く。
爆発の衝撃は皮肉にもクイーンアルラウネを守るはずだった葉の中で何度もバウンドし、本体を痛めつけた。頑丈な葉が逆に爆薬の効果を増したのだ。轟音が鳴り響き続け、やがて力なく葉が剥がれていく。
クイーンアルラウネの本体はズタズタになっていた。見る影もない。美しい女性の姿をしていたそれは爆発によって葬られ、残骸だけが残っていた。そして、それと同時にクイーンアルラウネが灰に変わっていく。
『クリア』
『クリア』
ついに的矢たちは40階層を制した。
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