木こり
……………………
──木こり
スタンシェルを持って35階層から36階層に降りる。
『いいか。ウォーキングツリーは確かに脅威だが、テンタクルや他の待ち伏せ型にも注意しろ。足元を疎かにするな。小型
『あいあい』
小形UGVと信濃を先頭に的矢たちは進んでいく。
『さっそく待ち伏せ型だ。死体の後に不自然な空白』
『手榴弾』
信濃が報告するのに的矢が手榴弾を投げつける。
手榴弾が手前でワンバウンドし、ばっくりと開いた待ち伏せ型の口の中に手榴弾が放り込まれた。そして、手榴弾が炸裂する。
粘着質な液体を撒き散らして、手榴弾は待ち伏せ型を屠った。
『振動探知センサーが振動を探知。ウォーキングツリーだ。それから音響探知センサーがパラサイトスワームの羽音を探知している』
『面倒ななのが増えたな』
『全く』
パラサイトスワームというのはダンジョンの中層付近に出没する化け物で、飛行する化け物である。鋭くとがった針を持ち、それで獲物をマヒさせて、文字通りパラサイトする。そう、卵を植え付け、獲物を苗床にするのだ。
植物系ダンジョンに出没することが多く、奴らがマヒさせた人間をさらにウォーキングツリーも苗床にするという悲惨な状況を生み出している。その他、植物系ダンジョン内に咲く花々の花粉を運んでいるだろうとも分析されている。
大きさは小型犬程度。虫にしてはデカい的だ。
『先にウォーキングツリーが突っ込んでくる』
『スタングレネード』
ウォーキングツリーが突っ込んでくるのに的矢がスタングレネードを投擲する。
ウォーキングツリーの注意が強襲制圧用スタングレネードの方向を向く。
『アルファ・スリー。目標をマークした。1体ずつ倒れるまで次を撃つな。いいな?』
『了解』
的矢は二重に目標をマークした。的矢と信濃がスタンシェルをお見舞いする敵。そして、その電流の流れから魔石の位置を特定して銃弾を叩き込む隊員。
『撃て』
号令とともに的矢と信濃がスタンシェルをウォーキングツリーに叩き込む。
電流の流れが見えた。それは1ヶ所に集まっている。
すなわち、魔石のある場所に。
『殺せ。ぶち殺せ』
『射撃開始』
7.62ミリ弾。徹甲弾。強装弾。その威力でウォーキングツリーの肉体は引き裂かれ、魔石に銃弾が命中する。そして、魔石が砕け、ウォーキングツリーが灰になる。
それを繰り返す。
ウォーキングツリーはスタングレネードの方を向いており、こちらを向いていない。サプレッサー付きの散弾銃でスタンシェルをお見舞いし、その間に陸奥たちが次々にウォーキングツリーを撃破する。
『急げ、急げ。パラサイトスワームが来るぞ』
的矢が急かす中、最後のウォーキングツリーが倒れた。
『おいでなすった。各自グレネード弾、手榴弾、散弾で応戦しろ』
『了解』
パラサイトスワームが飛来してくる。
不気味な羽音を響かせ、近づいてくる。
『グレネード弾』
椎葉とネイトが空中炸裂型グレネード弾を使用する。
空中炸裂型グレネード弾は一瞬でパラサイトスワームの半数以上撃破した。
『手榴弾』
さらに追い打ちをかけるように空中で炸裂するように調整された手榴弾が投げ込まれる。これで群れはほぼ壊滅した。
残るパラサイトスワームに念入りに散弾を叩き込み、完全に壊滅させる。死体にも45口径の自動拳銃から銃弾を叩き込み、確認殺害を実行する。1体でも生きていれば、部隊に損害が発生するのだ。故に念入りに殺す。
『クリア』
『クリア』
そして、全ての化け物が倒されたことを的矢と信濃が宣言する。
『振動探知センサーに反応は?』
『なあにも。後は待ち伏せ型だけじゃないか?』
『パラサイトスワームどもも待ち伏せすることがある。注意して行け』
『了解』
ウォーキングツリーやテンタクルなどの待ち伏せ型は騙せるが、パラサイトスワームは二酸化炭素の分泌量をひとつの基準として探知して追ってくると考えられている。流石の的矢たちも二酸化炭素の分泌量まではごまかせない。
だが、それだけ難しいものを検知するだけ生き物なので索敵範囲は狭い。それが結果として待ち伏せという形になるのである。
『音響探知センサーに気を配れ。少しでも分析AIが羽音を感知したら停止』
『今度は殺虫剤を撒いてくれるように頼もうぜ』
『どうせ効きやしない』
殺虫剤も、枯葉剤も、神経ガスも全て試したのだ。
ダンジョン四馬鹿に神経ガスは効いた。だが、グラーフ・ゴルフ──グレーターグリフォンには通用しなかった。ダンジョン四馬鹿もダンジョンの再構成によって“生えてきた”からまるで意味がない。
『慎重に、慎重に進め。まだ時間はある。行くぞ』
『了解。慎重に、慎重にだな』
信濃は慎重に進み、待ち伏せ型やパラサイトスワームを的矢を潰しながら道を切り開いた。ようやくこのダンジョンの要衝を突破し、次の階層に進めるようになった。
『よおし。いい調子だ。このまま37階層を突破するぞ』
『了解』
そして、的矢たちはさらに潜る。
ウォーキングツリーにスタンシェルを叩き込み、7.62ミリ弾で魔石を砕く。爆薬と散弾でパラサイトスワームを蹴散らす。待ち伏せ型に手榴弾をお見舞いする。
そうやって37階層を突破し38階層に到着した。
『クソ。振動探知センサーがデカい反応を捉えている。何かいるぞ』
『エリアボスはまだのはずだ。となると、あれか』
『かもな』
信濃がそう言ってマイクロドローンと小型UGVを先行させる。
『ビンゴ。ジャイアントウォーキングツリーだ。デカくて、毒もある。クソみたいな野郎だよ、本当に』
ジャイアントウォーキングツリーはウォーキングツリーとは異なり、なめくじやかたつむりのように地面を這って進んでいた。頭部には巨大なハエトリソウのような口があり、その口にはびっしりと毒針が密集している。
『要領はウォーキングツリーのときと変わらん。スタンシェルを叩き込んで、それから魔石を叩き潰す。7,62ミリ強装徹甲弾で抜ける相手だ。ぶちかませ』
そう言って的矢は強襲制圧用スタングレネードを投擲した。
すると、ぞろぞろとジャイアントウォーキングツリーが集まってくる。
『目標マーク』
『振り分けた。手順通りにやれば負けることはない』
的矢と信濃がスタンシェルを叩き込み、電流がジャイアントウォーキングツリーの体内を駆け巡る。そして、ジャイアントウォーキングツリーの魔石の位置が判明する。
そこに7.62ミリ弾が叩き込まれる。7.62ミリ弾はジャイアントウォーキングツリーの体を切り裂き、そして魔石を破壊した。魔石が破壊されれば体長5メートルあろうジャイアントウォーキングツリーでも灰に変わる。
『いいぞ。殺せ。殺せ。皆殺しにしろ。化け物どもの死体の山を作ってやれ。連中にはそれが似合いだ。それだけが似合いだ。連中に他に価値などない』
的矢は目標を確実に捉えながら、狂った形相でジャイアントウォーキングツリーを射撃していた。彼にとっては醜い化け物がくたばるというのは途轍もない快楽なのだ。
《いつからだろうね。手段と目的が逆転したのは》
逆転などしていない。俺は世界を正常に戻すために殺してる。
《君は殺しを楽しんでいる》
ああ。そうさ、クソ化け物。
《それってもう殺すことが目的なんじゃないかな? 殺すために殺してる。君は世界を正常に戻すためという大義名分を掲げながらもやっぱり殺すために殺してるよ》
そうかもな。
《君もボクたち化け物とそう変わりないさ》
いいや。違うさ、クソ化け物。人間は化け物を殺す側だ。化け物は最後にはいつだって殺される側なんだよ。
《そうかもね》
そうだろうさ。
『撃て、撃て』
そして、的矢は命令を出し続ける。
……………………
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