ウォーキングツリー

……………………


 ──ウォーキングツリー



 的矢たちは以前にもウォーキングツリーを相手にしたことがある。


 あの時は50口径の重機関銃で薙ぎ払ったんだよなと的矢は思い出す。


 それから口径40ミリの自動擲弾銃。相手を燃やすことなく爆殺していった。


 だが、自動擲弾銃も後になって別の植物系化け物に対して失敗した部隊が出てきたという話を聞いて、1回目の交戦以降は使わなくなっていた。


 何が毒ガスを撒き散らすトリガーになるのか分からない。それが問題だ。


《面白いことを教えてあげようか? 日本国防軍はダンジョンの化け物たちが撒き散らす毒ガスなどを分析して、同じものが作れないか研究しているんだよ。もちろん、条約でNBC核・生物・化学兵器の使用が禁じられていることを彼らは知っている。だが、何のために研究しているんだろうね?》


 そういう邪推をする馬鹿がいるから陸軍の化学戦部隊は誤解に悩んでいたんだ、


《知っているよ。あくまで敵の兵器に備えるため。そのために化学兵器を分析している。彼らはそういう部隊だってことはね。それに電子励起爆薬が実用化された今、NBC兵器で武装するより、電子励起弾頭の極超音速巡航ミサイルを装備した方がお得だ。人間というのは結果として殺すということは変わりないのに殺し方に拘るよね》


 ああ。そうだよ、クソッタレ。人道的な兵器? 馬鹿馬鹿しい。核兵器でも、生物化学兵器でも。ごく普通の銃弾でも死ぬという結果は同じだ。


《安らかに相手を殺す。なんてことができれば事情は変わるかもしれないけどね。安楽死のように、眠るように死んでいく。慈悲深い死。だけど、君たちはそんなものを開発するよりもより多くの人間を、同胞を殺す手段を開発する。そこが君たちの素晴らしいところだ。その負の探求心こそ、人間の素晴らしさだ》


 くたばれ。


『敵を視認。ウォーキングツリーだ。数は4体。どうする、アルファ・リーダー?』


『化け物は殺す。それだけだ』


『了解』


 植物系の化け物は主に振動によって相手を把握する。それから光にも寄ってくる。


 ダンジョンで光合成などできまいに、光に近づいていくのだ。


 だが、それ故にあるものが活躍する。スタングレネードだ。


 強力な閃光を放つスタングレネードに化け物は吸い寄せられていく。


 一瞬の閃光でもいいのだ。強力な閃光と音の振動で化け物たちは動く。


『スタングレネード』


 強襲制圧用スタングレネードが投擲される。


 強襲制圧用スタングレネードはウォーキングツリーの頭上を飛び越え的矢たちのいる方向とは真逆の方向に飛んでいった。


 そして、炸裂。


 ウォーキングツリーが一斉にスタングレネードの方向に向き、的矢たちに背中を見せる。攻撃のチャンスだ。


『撃て、撃て』


 的矢たちはウォーキングツリーに銃弾を叩き込む。


 スタングレネードに吸い寄せられていったウォーキングツリーは反転することもなく、撃たれ続ける。的矢たちはとにかくウォーキングツリーを蜂の巣にして、魔石を破壊する。1体、また1体とウォーキングツリーが倒れる。


『クリア』


『クリア』


 ダンジョン内が静かになった。


『振動探知センサーも大人しくしてる。音響探知センサーも。どうやら33階層はこれで終わりみたいだな』


『油断はするな。枯葉剤を撒いたとはいっても、全ての化け物がくたばったとは思えない。どこかに化け物が潜んでいるはずだ』


『病気だぜ、それ』


『誰も死なずに済むなら病気でもかまわんさ』


 小型UGV無人地上車両が引き続き地面を進み、テンタクルや他の化け物の強襲に備える。スムーズに進みつつあり、このまま楽に34階層に降りれると的矢以外の誰もが思った。だが、そうはいかなかった。


『注意しろ。この近くに死体がある』


『枯葉剤でウォーキングツリー以外の連中はくたばったんだろう?』


『どうだかな』


 小型UGVが進む。


 小形UGVがちょっと進んだところで、ぱくっと地面に穴が開いた。


『ほらな。これだから油断できない』


 的矢は穴に落ちかけた小型UGVをバックさせ、穴に手榴弾を放り込む。


 爆発音とともに粘着質な液体が穴から吹き出し、穴が閉じる。


『ここは通れない。迂回路を探すぞ』


『了解』


 的矢たちは迂回路を探し、いくつかの待ち伏せ型に手榴弾をお見舞いして、34階層へと降りた。34階層も枯葉剤が届いたらしく、茂みは枯れている。


『振動探知センサーが反応。音響探知センサーも。分析AIはウォーキングツリーだと言っている、アルファ・リーダー』


『ああ。数は2、3体。やれるな』


 ウォーキングツリーが出没していた。


 だが、振動探知センサー、音響探知センサーの両センサーが妙な反応を示している。


『連中、共食いしてるぞ』


『ああ。待ち伏せ型にウォーキングツリーが引っかかってる』


 ぱくりと穴を開けた待ち伏せ型に1体のウォーキングツリーが吸い込まれていた。


『いいチャンスだ。奴にたっぷりとご馳走してやろう』


 的矢はそう言うと、強襲制圧用スタングレネードを待ち伏せ型の方に投げた。


 閃光と振動が拡散するのにウォーキングツリーが待ち伏せ型の方に向かい落ちていく。待ち伏せ型は動くに動けなくなり、ウォーキングツリーも動けなくなった。


『全員、デザートに手榴弾をプレゼントしてやれ』


『了解』


 全員が待ち伏せ型の穴に手榴弾を放り込む。


 激しい爆発ののち、ウォーキングツリーも待ち伏せ型も死んだ。


『振動探知センサーちゃんはまだ化け物はいるって示してるぜ』


『だろうな。では、残りを平らげてやろう』


 34階層にいたウォーキングツリーは穴に落ちた間抜けなウォーキングツリー4体を含めて30体。消費した弾薬は数百発、グレネード弾は10発、手榴弾は20発、スタングレネードは5発となった。


『まさかもう弾切れが近いなんて信じられるか?』


『ええ。何か別の手を考えなければなりませんね』


 的矢と陸奥が渋い顔をする。


『そうだ。あの仮説が正しければ、暴徒鎮圧用のスタンシェルが使えるかもしれません。陸軍がそういう装備を持って来ていればですが』


『確か武器弾薬庫にはあったぞ。ダンジョンカルトの制圧用に。しかし、あれに電気を流してどうなる?』


AR拡張現実のアプリに電気の流れを可視化するものがあるんです。それを使ってウォーキングツリーに流した電力がどこに流れるかを探れば』


『なるほど。それは良いアイディアだ、准尉』


 的矢は納得して頷いた。


『では、装備を取りに行こう。どうせこのまま進んでも弾切れだ』


『しかし、アメリカ情報軍には我々の目的が漏れますね』


『気にする必要はない。向こうも最初から分かってついて来たはずだ』


 そう言って的矢は装備を取りに上層に向かう。


 そう、アメリカ情報軍は分かったうえで知らないふりをさせている。


 アメリカは同盟国だ。友好国だ。多くの日本人とアメリカ人が交流を重ねている。


 だが、それは利益が一致した場合であって、もし利益が一致しないならば競争になる。アメリカの議員が日本車を叩き壊すパフォーマンスをしていた時代のように。


 国家に真の友人はいないとは言ったものだ。


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