人でなしの恋
秋野りよお
人でなしの恋
母は狂っていた。
いつからそうなったのだろう。
私が気づいたときには母は狂っていた。
私の両親は私の幼い頃から親の役目を成してなかった。父親は私が赤ん坊の時に死んでしまい、母親はその時に常人ではなくなった。両親がそうなり、私の面倒は母の両親、つまり私にとってはおじいちゃん、おばあちゃんが両親代わりになった。
そして私の記憶する限り、父親の両親には会ったこともない。
なぜなら、父親を殺したのは母だったから。息子を殺した子どもやその家族に会うはずもなかった。
いや、本当に殺したのかどうかは未だ分かっていない。
無理心中ということで父の死は結論付けられた。私の自宅が火事になり、隣人に発見されたとき、母は怪我一つなく、その場にいただけだった。その時に父は刺されて死んでいたらしいし、その上、母の目の前で父は火だるまのように火に焼かれていたそうだ。
その時、私は赤ちゃんで、別の部屋で眠っていた。
その事件が起こる前ぐらいから、母は父の浮気を疑い、精神科に通っていた。しかし、父にはそんな女性の存在も事実もなく、母の妄想に過ぎなかった。
事件後に警察も母の殺意などを知るために調べていたので、父にそんな相手がいなかったことが結果的に母の事件への関与を否定することとなった。
母が父を殺して火をつける殺意が見つからず、父の死後、母はますます常人とは違う様子となり、今はもう塀の向こうの住人となった。ある意味、刑務所にいるのとなんら変わらない暮らしとなった。
もうあれ以来、母とは会っていない。
そんな私の元に一通の手紙が届いた。
手紙にはこう書かれていた。
『拝啓、みのり様
突然のお手紙をすみません。
あなたのお父様とお母様のことでお話したいことがあります。
そしてあなたに人形をお渡ししたい。
これはあなたが持っておいた方が良いものなのです。
長い間、私は悩んだまま、その人形を私の元に置いていました。しかし、私が生きているうちに真実をあなたにお伝えしなければと思い、ご連絡差し上げることにしました。
誠に恐れ入りますが、下記の住所にご連絡くださいますようお願いいたします。』
短い文章の下に、住所と電話番号が書かれ、村田玲子と名前が書かれていた。丁寧な美しい文字だった。
人形を渡したい?
どういう意味だろう。でもこの人形という言葉に私は引っ掛かっていた。
なぜなら、父が死んだ時になぜか人形が傍に合ったらしい。ただ家にあった人形かもしれないが、その人形は、いわゆる日本人形で着物を着ていたらしい。
私はそこに書いてある住所に行って見ることにした。
返事をください、と書いてある住所なので、いきなり行くのは失礼なのだろうけど、いてもたってもいられなかった。
それに明日は土曜日で中学校も休みなので
ちょうど良かった。
私はその住所をスマホで検索すると、電車で行けば、一時間ほどで着くことが分かった。
今日はもう遅いので、寝よう。
部屋の時計は11時を過ぎていた。いろいろと想像する思考を振り払うように、私は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます