職業体験、海賊編
第2話 海賊になった。
そこは何処までも青い世界が広がる大海原、1隻の立派な船が進んでいた。
張られた帆には立派なドクロマーク、そして乗組員も私以外の大半は学も無さそうでガラが悪い連中ばっかりだ。
え?ドラゴンが勉強をしたのかって?前世が日本人だった時に勉強はした、つまりは私には学があるのだよ。
そんでこの船、誰がどう見ても海賊船である。
「おうっお前ら!今日も元気に船上を洗浄しろよ!ガーハッハッハッ!」
「「「へいっ!分かりやした副船長!」」」
私はデッキブラシを持って船上を掃除する、同じ事をする下っ端海賊は多数いた。
そうっ私は海賊になったのだ。
朝から下らないオヤジギャグを全力で飛ばすのはこの海賊船の副船長のボーク、四十は過ぎているアゴ髭を伸ばしたガタイの良いオッサンだ、なお頭の毛は死滅している。
装備は頭にバンダナ、そして動きやすい白のシャツに青い薄手の上着を羽織り下は黒の半ズボンに黒靴、そして腰には銃と曲剣をぶら下げている。じつに海賊らしいスタイルだ。
ちなみに我々下っ端海賊は少し汚れた白シャツに下は黒の半ズボンである、あの黒コートとかは取り上げられる危険があったのでアイテムボックスに収納してある。リスクヘッジってヤツだ。
あと靴も安物で剣の帯刀は許されていない。銃もだ、あれらは海賊行為をする時のみ武器庫から貸し出されるらしい。
まあ私にはアイテムボックスがあるので何の問題もない、以前人間になった時の装備もまたアイテムボックスに放り込んであるからな。
「こっからはヤビ!お前がやれ、あっちは俺とアークがやる。アークついてこい」
「はいっあ、じゃなかった…へいっ!分かりやした!」
「……それ別に強制じゃねぇから普通にしろよ」
先輩海賊のモブの言うことに従い、私は「はい」と返事をし直した。そうっ今の私はアークと名乗っていた。
真に不本意ながら何故か私は人間だった頃にアクが強い性格だと言われたからだ、それ故その事を思い出してしまいムカッとした気持ちを忘れない為にアクを伸ばしてアークと名乗る事にしたのだ。
ファンタジーのキャラっぽいのも理由だったりする。
そしてそろそろ私が海賊になった理由を話そう、まあ私が生まれた島国では男の大半は生まれて最初辺りに憧れる職業は変身するヒーローか海賊に憧れるものだ。
それはテレビを見るか週刊マンガを読むかで別れるだろう。私は週刊マンガの方がさきだったので全力で海賊に憧れた。まあ海賊の王様になりたいとは思わんが。
そしてこの異世界はファンタジーな異世界だ、現役のリアル海賊がそこら辺に掃いて捨てるほどいる。ならば早速本物になってみるのも悪くない。
私は子供の頃の夢、海賊に本当になってみる事にした。仲間と共に命懸けの冒険を繰り広げたり、宝の地図を手にし世界に隠された秘宝の数々をその手にする。
なんと耳に心地良いフレーズの数々だろう、この名前もよく知らない海賊船に転がり込みはや8日。
デッキブラシ片手にゴシゴシと船上を掃除する現実とは余りにもかけ離れた幻想を胸に私は異世界ならぬ妄想世界にトリップしていた。
「おっアーク見ろよ。今日は珍しくアルビス船長が船上に出て来てるぞ」
「アルビス船長が?」
モブ海賊の言葉に私は掃除する手を止め、冷静にしながも……目を皿のようにして船上を見回す。
すると視界の端に彼女はいた。腰まである金髪の流れるような髪、青い瞳、そして女性らしいバランスの良いスタイル。
海賊の船長らしく上にコートを羽織っており頭には羽の付いた黒のキャプテンハットを被っていた、あの美女こそこの海賊船の船長アルビス・オーシャンブルーである。
彼女こそ私がこの船に乗ることに決めた最も大きなりゆ………ゴホンッそれよりも。
彼女は二十歳になるかどうかと言う若さで船を持つ立派な海賊をしている。
その性格は快活で勘が良く、裏切りは許さない。しかし部下は大きな度量でまとめ上げていて剣の腕も銃の腕も副船長よりも上らしい。
後たまにしか船上には現れないのでボークが基本的に下っ端に指示をするのが常だ。だから今日は運が良いのである。
アルビス船長は航海士のモブ海賊と何やら話をしていた。美人は何をしていても絵になる、私もイケメンに化ければ何をしていても絵になるだろうか?しかしイケメンに化けるのはなんか負けた気がするので精々フツメンで行こうと決めたのだ。
男は中身の男気と強さで女性にアピールするのだ、少なくとも外見だけで寄ってくる女じゃ正体がドラゴンってバレた時点でさよなら確定してるのでこの考えは理にかなっているだろう。
その後はアルビス船長を横目でチラチラ見ながら気分良く船上掃除をしていた。
掃除を終えた我々下っ端一同は交代で船上にて周囲の警戒である。海賊船でも油断は出来ない、何故なら海賊船を襲う海賊船も普通にいるからだ。本当にファンタジー世界のくせにと思わない事もない。
広い海とは言え姿を隠せる物がないので1度見つかるとしつこく追ってくるのが海賊船だ。キモイストーカー共め、あっ私も海賊だった。
ちなみに我々は海賊なので海賊行為をするために航海している。事前に襲う商船の情報をゲットした上で航海をしていて絶賛その船を待ち伏せ出来るポイントまで移動している途中なのだ。
そこで海賊行為をして金品食料をゲットして海賊達が集まる秘密の港、海賊港に戻るのだ。
実際に広い海ではこの普通に航海する時間が1番長い、私がドラゴンになれば船をつまんで光速で飛べば直ぐなのだが……それをすると船も人間も空気抵抗とかで燃えてなくなるのでしないのだ。
航海は順調、しかし目下私を悩ませる問題が1つあった。
────それは飯の時間である。
時刻は昼になるかどうかと言う時間にて、我々下っ端海賊にも食べ物が用意された。
用意したのは日替わりで変わるモブ海賊コックが担当した肉と魚をテキトーに焼いただけの物だ。
「……………………」
そしてそれが………臭いのだ。完全に腐っている。魚は大丈夫だ、恐らく私が船上を掃除している時にでも釣ったのだろう。
船内の食料は限りがある、何十人もの人間が毎日食料だけを食べていたらとても航海なんて出来ないだろう、釣りスキルも立派な海の男の能力だ。
魚の話はどうでも良かった、問題は皿に盛られた肉の方である。しっかり焼いているのに分かるくらい臭い、完全に腐っている。
この世界には、少なくとも船に冷蔵庫も冷凍庫も実装されてはいない。ファンタジーらしく氷魔法とかで氷らせる事は出来るが魔法を覚える事が出来る魔法使いの才能のある人間なんて海賊の中にははなっからいないのだ。
そう言えば日本で人間だった頃に知った知識で過去に胡椒が金と同じくらい高価だとされた時代があるらしいが、その理由の1つに海で働く男達が食事をする時に腐っている肉を食うために胡椒は必需品だったと言うのもあるらしい。本当かどうかは知らん。
それはともかくだ。つまり意気揚々と海賊船に乗って出発してから2日間の航海から薄々気づいていた肉の腐爛具合が限界突破、いくら食べてもお腹を壊すことのないドラゴンとなった私でもこんなもん食えるか!っと今回なったのだ。
モブ海賊としてリアル海賊がこの世界で何をしてるのかこっそり職場体験するつもりだったが流石にこれは如何だろう、海賊行為の前に腹痛か何かです海賊達が全滅するんじゃないだろうか。
そう考えて私は悪目立ちする事を覚悟した上で行動を開始した。
海賊船の厨房に乗り込んだのだ。
「失礼します!この腐った肉は何処に集めているんですか?」
「あん?肉?おかわりなんてねぇぞ?」
誰がこんな料理とも言えん焼いただけの物をおかわりなんてするか!。
「おかわりはしません、それよりももう腐った肉の腐り具合が限界です。なんとかなりませんか?せめて調理法を変えるとか胡椒で誤魔化すとか」
「チョウリホウってなんだ?それと胡椒?あんな高級品、俺ら海賊なら船から奪った時くらいしか拝む事はないんじゃねぇか?……ああっアルビス船長なら胡椒を使って肉を食ってる筈だが」
マジか、異世界のこんな海の上でも格差社会の波が……もう人類を滅ぼしてしまった方が良いかもしれないな。その方が私の気分がスッキリするわ。
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