第6話 想い
気持ちを落ち着かせて、部屋へ戻るが葵の姿がリビングにはない。
風でカーテンがフワリと動く。
(ベランダに居るのか?)
カーテンを開けると葵が居た。
(何を見て・・?)
視線の先を追うと仲睦まじい親子の姿があった。
(・・・・確か葵の両親は幼い時に亡くなったって言ってたな・・。)
「葵。夜はまだ冷えるよ。」
肩からストールを掛けてあげる。
「・・・ありがとう。おかえりなさい。」
いつもの笑顔で迎えてくれた。
「・・・・・。」
「・・・・・・。」
「やっぱり夜はまだ冷えるね。」
その時、風で葵の長い髪がフワリとなびいた。
首筋に小さな内出血の痕が目に入った。
「っつ・・・・。」
衝動的に葵の頬に手を伸ばすが、
「・・・・・。」
「??」
そのまま、風で乱れた髪を一筋耳にかけた。
「中に入ろうか?温かいもの入れるから。」
「うん・・。」
*********
「光明さん!マリアと食事にでも行きましょう!」
光明はこの女に辟易していた。
全身ブランド物で身を固め、派手な化粧をした女は言う。
「私達婚約者同士なんですから、そろそろ・・・ねぇ?光明さん?」
そう言って俺に甘える様に身を委ねてくる。
(ありえない。)
「その話しは、お断りしたはずですが?」
よそ行きの笑顔で返すが、女はお構いなしだ。
「そんな、照れなくても良いんですよ?もっとお互いを知れば良いことじゃないですか!」
この話を全く聞かない女は、関東最大の組織『
最近勢力を拡大している
何よりこんな派手でワガママな女なんて願い下げだ。
「申し訳ない。この後所用がありますので。失礼。」
女を一瞥して部屋を後にする。
「あぁ!もう!!!」
自分になびかない光明にイラついていた。
「お祖父様から絶対に落とすように言われてるのに!」
「藤田!居るんでしょ?例の件はどうなっているの?」
「はい。お嬢様。居場所はつかめております。」
「ふふん。光明さんの花嫁は私よ!得体の知れない女なんかに渡さないわ!権力もお金も私のものよ!!!」
********
「・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「ごめんなさい。今日は何だか疲れてしまったのでもう休みますね。」
「あぁ、ゆっくり休むと良いよ。」
帰ってきてから、明らかに葵の様子がおかしい。
(神野と何かあったか・・。)
葵の首筋に内出血を見付けたとき、自分の気持ちを押さえられなかった。だけど・・。
(何を怖がってるんだろうな俺は・・・。)
自室に入った葵は
(司さんの顔を見れなくて逃げて来ちゃったけど変に思ったよね?)
ため息をつきながらベッドに腰掛ける。
相変わらず何もない部屋を見渡すと、桜の写真が目に留まる。
(この桜綺麗だな。でも何でこの写真だけ飾ってあるんだろう?)
写真に近付き、じっと桜の写真を見つめる。
何故か、胸が締め付けられる様に苦しくなってくる。
(なに?)
自然と涙が溢れそうになったその時、頭に鋭い痛みが走った。
満開の桜の前で自分に笑いかける男性が脳裏に過る。
(だれ?)
とても懐かしいような、切ない気持ちが溢れた。
頭の痛みは増すばかりで、思わず座り込む。
(いや。誰かっ・・・。)
「っつ・・・。」
そのまま意識が遠くなる。
どうしても、葵の様子が気なにる。
「葵?もう寝た?」
ドアをノックしても反応がない。
「・・・・・。」
ドアを少し開けてみる。ベッドに葵の姿がない。
急いで部屋に入ると葵が床に倒れている。
「あおい!!どうした?大丈夫か?」
どうしようもない焦りを押さえて、よく見ると気を失っているだけのようだった。
「これは夢?」
目の前に桜の花びらが舞ってくる。
視線を移すと、体格のいい中年の男性が満開の桜の前で葵に語りかける
「ここの桜も良いけど、やっぱり日本で見る桜が一番だな!!」
(だれ?)
と思いつつ私は
「いつか、日本の桜を一緒に見れると良いね!光明と・・・竜と一緒に!」
「見れるさ!そう遠くない未来にな!」
男性は優しい笑顔を向けてくれた。
その時、ザァッと桜吹雪が目の前を覆った
ギュと目を閉じる。
「あおい!!危ない!!」
悲壮な男性の声に目を開けると目の前には先程の男性が居た。
バァーーーーン
銃声がして目の前の男性の胸を銃弾が貫いた。
「りゅうーーーーー!!!」
倒れる男性を受け止めた私は
「どうして!なぜ庇ったの?」
「あ、おい・・・。お前はっ・・幸せに・・なれ・・じゅうぶん・・っつ苦しんだ。・・はっ・・もういいんだ・・・」
大きな暖かい手が頬を包む。
「嫌だ!死なないで!また、私を一人にするのっ?」
頬を包んでいた手から力が抜ける。
「嫌だ!いやーーーー!」
ハッと目を覚ますと心配そうな顔をした司さんがいた。
「はぁ・・・はぁ・・・今のは、ゆめ?」
「葵!大丈夫か?」
身体が震える。
瞳からは涙が次から次へと溢れてくる。
「っつ・・ふっ・・・つかさ・・さん。」
「あおいっ!」
司さんが抱き締めてくれる。
「わたっし・・わたしは・・・!」
「大丈夫だ!大丈夫!」
司さんの服を握りしめて無くしてしまった温もりを求める様に泣いた。
夢だったらどんなにいいか。
でも身体が頭が夢ではないと・・・告げていた。
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