Beautiful Butterfly ~失われた記憶を辿ってみる夢は~
朔良
第1話 再会
ネオン煌めく新宿の夜。
二人の男女が雑踏の中、ウィンドウを見ながら歩いている。
ふと、男性がワインショップの前で足を止め笑顔で振り返る。
「葵。ここでワインを買っていかないか?あいつワインが好きだから」
人懐っこい笑顔でそう提案してきたのは私・世良葵のパートナーの桜葉司だ。
「そうだね。後はシャンパンも買って行こうか?」
「良いね!今日は樹の誕生日だから奮発してやるか!」
二人は笑い合ってワインショップの中に入り、赤ワインとシャンパンを買った。
今は私のパートナーである司と当時同僚であった橘樹とは、ある事件で出会い未だに親交がある気の置けない友人だ。
今日は、樹の誕生日を祝おうと買い出しに来ていたのだ。
「あいつ、相変わらず仕事が忙しくて今日も時間通りに来れないんじゃないか?」
「そうだねぇー。とりあえず買い出しはこのくらいにしてマンションに戻ろうか?」
「そうだな。時間的にも丁度いいしな。」
葵が、事務所兼自宅にしているマンションに戻ろうとした時
雑踏の中を、一人のビジネスマン風の男性が歩いてくる。
仕立ての良いスーツを着こなした男性とすれ違い様に
「いつもの所で待っている。」
葵にだけ聞こえるように呟かれた。
「・・・・・・。」
「ごめん、司は先にマンションに帰ってて。ちょっと用事を思い出しちゃったから。」
「えっ?だったら俺も行くよ?」
「大丈夫。それに樹の来る時間もあるし。すぐに私も帰るから。」
そう告げると、葵は踵を返して人混みの中に消えていった。
司と別れた葵は馴染みのバーに来ていた。
先程の男性はすでに席について飲み始めている。
その隣に座る。
「カミカゼをお願い。」
注文を受けたマスターは手早くカクテルを作り葵の前にグラスを差し出しカウンターを後にする。
カウンターには二人だけになった。
「カミカゼね。相変わらずだな。」
「・・・・・。」
フッと笑い、男性は胸元の内ポケットから写真を取り出し葵に差し出す。
写真には、青年が映っていた。
その写真を見た葵は顔を曇らせた。
「やっぱり、、、、。」
「貴女の思った通りですね。どうしますか?もう少し探りましょうか?」
「・・・・・いえ、余り深追いしない方が良いでしょう。後は私の方で対処しますから。これ、情報料です。」
葵は封筒を取り出し男性に渡し、カウンターにお金を置くとそのまま店を出ていった。
男性は、青年の写真を片手にカウンターに置かれたままのカミカゼのグラスを見て呟いた。
「あんたも、救って貰えると良いな、、、、。」
葵の足取りは重かった。
気分は最悪だ。
「日本で幸せに暮らしていると思っていたのに、、、どうして!」
呟いた言葉は誰に聞かれる事なく消えていった。
とりあえずマンションに帰ろうとした時、まとわりつく様な視線を感じた。
適当に歩いてみても視線は葵をとらえたままだ。
「つけられてる、、、?」
相手の素性も目的も解らない以上人混みに居るのはまずい。
ひとまず、人気の無い場所へ路地を入り大分人気が無くなった所で
「女一人に男三人とはね。」
険しい顔をした男三人がバラバラと現れた
「ナンパって感じじゃないね。貴方達の相手してるほど暇じゃないんだけど?」
「コノオンナデマチガイナイ!」
「ツカマエロ!!!」
男達はジャケットの内側から銃を取り出すと葵に向けて発砲した。
「!!!」
(こんな街中で!それに日本人じゃない?)
葵は器用に銃撃をかわしながら人気の無い立体駐車場へと逃げ込んでいく。
それを追って三人も続く。
二階の駐車場で身を潜めていると先程の三人が現れた。
都合よく手分けをして探し始めたのを見て一人の背後に回り絞め落とす。
上の階を探している気配を感じながら様子を伺っていると駐車場に車が入ってきた。
咄嗟に、柱の陰に隠れると黒塗りのリムジンがスッと止まり後部座席から男性が降りてくる。
そっとその男性の顔を見る
「!!!」
そこには、まさに先程の写真の青年が立っていた。
スラリとした細身の体つきに色素の薄い少し長い髪。
中性的な顔つきはとても美しいけれど
その眼には鋭さがある
「沙羅そこに居るのは分かっているよ。出ておいで。」
口調こそは穏やかだけれど、有無をいわさない雰囲気を感じる。
一つため息を付いて柱の陰から出て行く。
「その名前で呼ばれるのは久しぶりね、光明、、、、、。」
光明と呼ばれた青年は心の底から嬉しそうに笑う。
「あぁ、紗羅会いたかったよ!君を迎えに来たんだ。やっと紗羅に釣り合う様になったんだ!」
「・・・・・・。」
「ずっと、会いたかった。もう、昔の俺じゃない。金も力も手に入れた。欲しいと思うものは何でも手に入れられる。後は紗羅、、君だけだ。」
「・・・・・。」
「何故そんな悲しそうな顔をする?もう、紗羅に守られてばかりだった昔の俺じゃないんだ。これからは俺が守るだから俺と一緒に行こう!」
「・・・・・じゃない」
「?」
「そんな事望んだんじゃない!どうして?貴方には陽の光の下を歩いてほしかった。幸せになって欲しかったのに!」
「何故だ!俺が幸せじゃないとでも言うのか?」
「大陸最大の組織・
「・・・・・知ってたのか?俺には力が必要だったんだ!紗羅に認めてもらう為に!!その為にならどんな仕事だってやるさ!!」
「・・・・・・。」
その瞬間、一発の銃声が轟いた。
咄嗟に銃弾を避けたけれど左肩を銃弾が掠めたその衝撃で身体が空中に投げ出された。
(しまった!)
上の階を探していた一人が葵めがけて発砲したものだった。
「紗羅ーーー!!」
光明は急いで落ちていった所を確認するがそこには彼女の姿は既に無かった。
「俺は絶対に諦めない。紗羅。」
「葵おっそいなぁ!折角仕事早く終わらせて来たっていうのに!!」
マンションに戻ってきた司は珍しく時間通りに来た樹と葵の帰りを待っていた。
「確かに遅いな・・・。」
何故か嫌な予感がして玄関の方を見つめていた。
その時、玄関のドアの開く音がした。
「葵?遅かったな。」
司と樹が玄関に向かう。
「葵!?大丈夫か!?どうしたんだ?」
頭と肩から血を流した葵が呆然と立っていた。
「・・・っつか、さ、、、」
そのまま玄関に倒れ込んでしまう。
「あおい!!」
司が抱き起こすも気を失ってしまった葵からは何の反応も無かった。
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